●昭和55年に出された知財事件の最高裁判決(2)

 本日は、昭和55年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和53(行ツ)69 審決取消 特許権 行政訴訟一眼レフカメラ事件」昭和55年07月04日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C698E52845E6DB9B49256A8500312015.pdf)


 ・・・『特許法二九条一項三号にいう頒布された刊行物とは、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書、図画その他これに類する情報伝達媒体であつて、頒布されたものを指すところ、ここに公衆に対し頒布により公開することを目的として複製されたものであるということができるものは、必ずしも公衆の閲覧を期待してあらかじめ公衆の要求を満たすことができるとみられる相当程度の部数が原本から複製されて広く公衆に提供されているようなものに限られるとしなければならないものではなく、右原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され、かつ、その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される態勢が整つているならば、公衆からの要求をまつてその都度原本から複写して交付されるものであつても差し支えないと解するのが相当である。


 本件についてこれをみるに、原審が適法に確定したところによれば、所論の第一引用例(乙一号証)は、西独国実用新案登録第一八五九四九〇号明細書(以下「本件明細書」という。)の複写物として同国における著名なカメラないしフイルムメーカーであるアグフアゲフエルト社、コダツク社、エルンストライツ社、ローライウエルケ社等が本件特許出願前の一九六二年一〇月一五日から同年一一月一四日までの間に相次いで同国特許庁から又は私的サービス会社であるドイツ特許サービス社を介して配布を受けたもの(以下「本件複写物」という。)と体裁内容を全く同一にするものであるから、本件複写物同様本件明細書の複写物であつて、本件特許出願前同国特許庁又は右ドイツ特許サービス社の配布したものであると推認することができるものであるところ、本件明細書は、本件特許出願前の前同年一〇月四日に登録された前記実用新案の出願書類として同日以降同国特許庁において公衆の閲覧に供されていたものであり、しかも、本件明細書のような登録実用新案の出願書類原本の複写物を望む者は、誰でも同国特許庁から又は私的サービス会社、例えば、前記ドイツ特許サービス社を介して通例注文書発信後約二週間で入手することができるものであつたことも原審の確定するところである。


 そうすると、本件複写物ないし第一引用例は、公衆に対し頒布により公開することを目的として本件明細書から複製された文書であつて、本件特許出願前に頒布されていたものであるということができるから、特許法二九条一項三号に掲げる頒布された刊行物に該当するものであると認めて差し支えないものである。


 これと同趣旨の原審の認定判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解ないし原審の認定とは異なる事実に基づき原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和53(行ツ)27等 審決取消請求、同附帯 実用新案権 行政訴訟「耕耘機事件」昭和55年05月01日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/97AE09514AE7A73149256A8500312019.pdf)


 ・・・『ところで、実用新案登録を受けることができる考案は、一個のまとまつた技術思想であつて、実用新案法三九条の規定に基づき実用新案権者が請求人となつてする訂正審判の請求は、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならないから、右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として、本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには、訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたつて訂正するものであるとしても、これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく、これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない。


 それ故、このような訂正審判の請求に対しては、請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別、これがされていない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけであり、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ、かつ、右の一部の訂正を許すことが請求人にとつて実益のないことではないときであつても、その箇所についてのみ訂正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である。』、等と判示した最高裁判決。