●昭和55年に出された知財事件の最高裁判決(3)

 本日は、昭和55年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決の残り2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和51(オ)923 損害賠償 著作権 民事訴訟「パロディ事件」昭和55年03月28日 最高裁判所第三小法廷』http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A457F8DF34085BF449256A850031201B.pdf


 ・・・『法三〇条一項第二は、すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、法一八条三項の規定によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないことが明らかである。


 そこで、原審の確定した前記事実に基づいて本件写真と本件モンタージユ写真とを対照して見ると、本件写真は、遠方に雪をかぶつた山々が左右に連なり、その手前に雪におおわれた広い下り斜面が開けている山岳の風景及び右側の雪の斜面をあたかもスノータイヤの痕跡のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーを俯瞰するような位置で撮影した画像で構成された点に特徴があると認められるカラーの写真であるのに対し、本件モンタージユ写真は、その左側のスキーヤーのいない風景部分の一部を省いたものの右上側で右シユプールの起点にあたる雪の斜面上縁に巨大なスノータイヤの写真を右斜面の背後に連なる山々の一部を隠しタイヤの上部が画面の外にはみ出すように重ね、これを白黒の写真に複写して作成した合成写真であるから、本件モンタージユ写真は、カラーの本件写真の一部を切除し、これに本件写真にないスノータイヤの写真を合成し、これを白黒の写真とした点において、本件写真に改変を加えて利用し作成されたものであるということができる。


 ところで、本件写真は、右のように本件モンタージユ写真に取り込み利用されているのであるが、利用されている本件写真の部分(以下「本件写真部分」という。)は、右改変の結果としてその外面的な表現形式の点において本件写真自体と同一ではなくなつたものの、本件写真の本質的な特徴を形成する雪の斜面を前記のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景部分中、前者についてはその全部及び後者についてはなおその特徴をとどめるに足りる部分からなるものであるから、本件写真における表現形式上の本質的な特徴は、本件写真部分自体によつてもこれを感得することができるものである。


 そして、本件モンタージユ写真は、これを一瞥しただけで本件写真部分にスノータイヤの写真を付加することにより作成されたものであることを看取しうるものであるから、前記のようにシユプールを右タイヤの痕跡に見立て、シユプールの起点にあたる部分に巨大なスノータイヤ一個を配することによつて本件写真部分とタイヤとが相合して非現実的な世界を表現し、現実的な世界を表現する本件写真とは別個の思想、感情を表現するに至つているものであると見るとしても、なお本件モンタージユ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものである。


 そうすると、本件写真の本質的な特徴は、本件写真部分が本件モンタージユ写真のなかに一体的に取り込み利用されている状態においてもそれ自体を直接感得しうるものであることが明らかであるから、被上告人のした前記のような本件写真の利用は、上告人が本件写真の著作者として保有する本件写真についての同一性保持権を侵害する改変であるといわなければならない。


 のみならず、すでに述べたところからすれば、本件モンタージユ写真に取り込み利用されている本件写真部分は、本件モンタージユ写真の表現形式上前説示のように従たるものとして引用されているということはできないから、本件写真が本件モンタージユ写真中に法三〇条一項第二にいう意味で引用されているということもできないものである。


 そして、このことは、原審の確定した前示の事実、すなわち、本件モンタージユ写真作成の目的が本件写真を批判し世相を風刺することにあつたためその作成には本件写真の一部を引用することが必要であり、かつ、本件モンタージユ写真は、美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフオト・モンタージユの技法に従つたものである、との事実によつても動かされるものではない。


 そうすると、被上告人による本件モンタージユ写真の発行は、上告人の同意がない限り、上告人が本件写真の著作者として保有する著作者人格権を侵害するものであるといわなければならない。


 なお、自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであり、したがつて、上告人の同意がない限り、本件モンタージユ写真の作成にあたりなされた本件写真の前記改変利用をもつて正当とすることはできないし、また、例えば、本件写真部分とスノータイヤの写真とを合成した奇抜な表現形式の点に着目して本件モンタージユ写真に創作性を肯定し、本件モンタージユ写真を一個の著作物であるとみることができるとしても、本件モンタージユ写真のなかに本件写真の表現形式における本質的な特徴を直接感得することができること前記のとおりである以上、本件モンタージユ写真は本件写真をその表現形式に改変を加えて利用するものであつて、本件写真の同一性を害するものであるとするに妨げないものである。


 三 以上によれば、被上告人による本件モンタージユ写真の作成発行は、これについて上告人の同意があれば格別、これがない限り、上告人が本件写真の著作者として保有する著作者人格権を侵害しないものということはできないから、これと見解を異にし、本件モンタージユ写真は、法三〇条一項第二に基づき本件写真を引用したにすぎないものであつて、右引用の目的、仕方においても不当の点が認められないから、右引用にあたり本件写真に変更が加えられたとしても、これにより上告人が本件写真につき保有する同一性保持権を侵害したことにはあたらないと判断し、被上告人による本件モンタージユ写真の発行は、上告人の著作者人格権の侵害にあたらないとしてその請求を棄却すべきものとした原判決は、結局、法三〇条一項第二の解釈を誤り、ひいては法一八条一項の解釈を誤つた違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。


 よつて、その余の論旨についての判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官環昌一の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和54(行ツ)2 審決取消 実用新案権 行政訴訟「食品包装容器事件」昭和55年01月24日 最高裁判所第一小法』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121522946823.pdf


 ・・・『実用新案登録の無効についての審決の取消訴訟においては、審判の手続において審理判断されていなかつた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断することの許されないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところであるが(最高裁昭和四二年(行ツ)第二八号同五一年三月一〇日大法廷判決・民集三〇巻二号七九頁参照)、審判の手続において審理判断されていた刊行物記載の考案との対比における無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断するにあたり、審判の手続にはあらわれていなかつた資料に基づき右考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)の実用新案登録出願当時における技術常識を認定し、これによつて同考案のもつ意義を明らかにしたうえ無効原因の存否を認定したとしても、このことから審判の手続において審理判無効原因の存否を認定して審決の適法、違法を判断したものということはできない。


 本件についてこれをみるのに、原審は、所論の乙一号証の二により当業者の右実用新案登録出願当時における技術常識を認定し、これにより審判の手続において審理判断されていた第三引用例に本件考案における密封包装の技術が開示されていると認定して本件考案が第一ないし第三引用例からきわめて容易に考案することができたとした審決の判断を支持したものであることは、原判文に照らして明らかであるから、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。』、等と判示した最高裁判決。