●昭和56年に出された知財事件の最高裁判決(2)

Nbenrishi2009-04-14

 本日は、昭和56年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている、残りの最高裁判決3件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和53(行ツ)103 商標登録異議手続受継申立不受理処分取消 商標権 行政訴訟 昭和56年06月19日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DBFA4B29E6BF7FBF49256A8500311FEB.pdf)

 ・・・『職権をもつて調査するに、原審が適法に確定したところによれば、本件商標登録出願のうち別紙目録一記載の出願については、既に商標登録査定がされて審査手続は終了し、商標権設定の登録がされたというのであるから、被上告人の本件訴のうち右出願に関する商標登録異議手続受継の申立ての不受理処分の取消を求める部分は、その法律上の利益を失うに至つたものと解するのが相当である。


 そうすると、本件訴のうち右請求部分を適法として本案について判断した原判決には、法令の解釈、適用を誤つた違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中右請求に関する部分を破棄して第一審判決を取り消し、右部分について本件訴を却下すべきである。


 商標法一七条の規定によつて準用される特許法五五条の定める商標登録異議制度については、異議申立ての当否につき申立てにより証拠調べ又は証拠保全をすることができるものとされ、また、その手続についても当事者の対立構造を前提とした民事訴訟法の規定が多く準用されている(商標法一七条、特許法五九条、一五〇条、一五一条参照)ことなどに鑑みれば、これを異議申立人の経済的利益の擁護、救済を趣旨としたものと解する余地があるかのようであるが、他方、商標法一七条、特許法五五条一項の規定により異議申立ては何人でもすることができるものとされていることに徴すると、結局、右制度は、利害関係の有無にかかわらず何人でも異議の申立てができるものとすることによつて、商標登録出願の審査の過誤を排除し、その適正を期するという公益的見地から設けられたものであつて、異議申立人たる会社が合併によつて消滅したときは、それによつて異議申立ては失効し、異議申立人たる地位が合併後存続する会社に承継される余地はないものと解するのが相当である。


 そうすると、本件商標登録出願につき異議の申立てをしていた訴外株式会社主婦の店ダイエーを吸収合併した被上告人が合併によつて異議申立人たる地位を承継したものと判断した原判決には法令の解釈、適用を誤つた違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。


 したがつて、原判決中、本件商標登録出願のうち別紙目録二記載の出願に関する商標登録異議手続受継の申立ての不受理処分の取消請求に関する部分は、破棄を免れない。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和53(行ツ)140 特許権 行政訴訟「ブタジエン重合方法事件」昭和56年03月13日 最高裁判所第二小法廷 』http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314101908.pdf

 ・・・『特許出願人は、二以上の発明を包含するもとの出願につき、その一部を分割して一又は二以上の新たな出願とすることができ、この場合、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされるものであるが、右の二以上の発明を包含する特許出願にあたるかどうかについては、これをもつぱら願書に添付された明細書中の特許請求の範囲における記載に限定して決すべきものか、それ以外の発明の詳細な説明ないし願書添付図面の記載内容をも含めて決すべきものかについては、右の法文上からは明らかでない。


 しかしながら、特許制度の趣旨が、産業政策上の見地から、自己の工業上の発明を特許出願の方法で公開することにより社会における工業技術の豊富化に寄与した発明者に対し、公開の代償として、第三者との間の利害の適正な調和をはかりつつ発明を一定期間独占的、排他的に実施する権利を付与してこれを保護しようとするにあり、また、前記分割出願の制度を設けた趣旨が、特許法のとる一発明一出願主義のもとにおいて、一出願により二以上の発明につき特許出願をした出願人に対し、右出願を分割するという方法により各発明につきそれぞれもとの出願の時に遡つて出願がされたものとみなして特許を受けさせる途を開いた点にあることにかんがみ、かつ、他にこれと異なる解釈を施すことを余儀なくさせるような特段の規定もみあたらないことを考慮するときは、もとの出願から分割して新たな出願とすることができる発明は、もとの出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されている場合には、右明細書の発明の詳細な説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであつても差し支えない、と解するのが相当である。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和55(行ツ)139 商標権 行政訴訟「中央救心事件」昭和56年02月24日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314101615.pdf

 ・・・『商標法五一条一項の規定に基づき商標登録を取り消すには、商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり、右使用の結果商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもつて足り、所論のように必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもつてこれを使用していたことまでを必要としないと解するのが相当であるから、これと同趣旨の原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。』、等と判示した最高裁判決。