●昭56年に出された知財事件の最高裁判決(1)

Nbenrishi2009-04-12

 本日は、昭和56年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和54(オ)145 不正競争防止法に基づく差止 不正競争 民事訴訟昭和56年10月13日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/730A051AB62E648149256A8500311FE0.pdf)

 ・・・『不正競争防止法一条一項一号にいう商品の混同の事実が認められる場合には特段の事情がない限り営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、また、本件において右の特段の事情は認められないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

 商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を排他的に使用する権能までを含むものではなく、ただ、商標権者には右のような類似する標章を使用する者に対し商標権を侵害するものとしてその使用の禁止を求めること等が認められるにすぎないから(商標法二五条、三六条、三七条参照)、本件登録商標と類似する本件標章を上告人らが使用することは不正競争防止法六条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」には該当しないものと解すべきであつて、これと同旨の原判決に所論の違法はない。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和54(オ)336 実用新案権に基づく製作販売差止 実用新案権 民事訴訟「長押事件」昭和56年06月30日 最高裁判所第三小法廷 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C1A8FF96B0F05EF849256A8500311FEA.pdf)

・・・『原審は、被上告人の長押が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断するにあたり、(1) 本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項に、「芯材2の正面及び裏側にベニヤ板3、3′を貼合せ、裏面側のベニヤ板3′は裏打材4によつて裏打ちすると共に、表側のベニヤ板3、芯材2の上面及び芯材2と裏打材4の底面をこれらの面に貼着した単板の良質木材5によつて被覆した事を特徴としてなる長押。」と記載されていること、(2) 同明細書の考案の詳細な説明の項に、従来より使用されている長押が「木材を接着剤で積層し集成材となし、その三面(正面、上面、底面)を単板の良質材(檜、杉等)で被覆するようなされていた」ために、温度や湿度の変化により曲り及び割れ目が生じ易いものであつたのに対し、本件考案の長押は、「芯材の正面及び裏面にベニヤ板を貼合せ、裏面側のベニヤ板は裏打材によつて固定し、又正面側のベニヤ板は単板の良質木材によつて被覆すると共に該良質木材で上面及び底面をも一体的に被覆するよう構成している」から、温度や湿度が変化しても割れや曲りが生じることなく、しかも外観も損われずに美麗であると記載されていること、以上の事実を確定したうえ、右事実に基づいて、本件考案の要点は芯材の表面及び裏面にベニヤ板を貼合せる点にあり、これにより温度や湿度による曲り及び割れを防止する効果を生ずるものであるから、本件考案の長押の芯材は、それ自体ベニヤ板のように温度や湿度に対する耐性を備えているものとは異なり、そのような耐性を備えていない別の部材であると解すべきところ、被上告人の長押は、温度や湿度に対する耐性を備えているベニヤ板を芯材に用いるものであり、更に、本件考案の長押は独立の存在である芯材の両側面にベニヤ板を貼合せて製作するのに対し、被上告人の長押は既製のベニヤ合板をそのまま利用して製作するものであるから、両者は技術的思想を異にするものである、と判断したことは、その判文に照らして明らかである。


 ところで、前記原審認定の事実によれば、本件考案の明細書には、集成材を用いる従来の長押には温度や湿度に対する耐性はなかつたが、実用新案登録請求の範囲の項に記載されたとおりの構成をとる本件考案の長押には温度や湿度に対する耐性がある、と記載されているにとどまり、本件考案にいう「芯材2」がどのような材料のものであるかについては記載されていないのであるから、明細書の右記載から本件考案の長押の芯材はベニヤ板のように温度や湿度に対する耐性を備えているものとは異なり、そのような耐性を備えていない別の部材に限るとすることは、困難であるといわなければならない。


 更に、実用新案法における考案は、物品の形状、構造又は組合せにかかる考案をいうのであつて(実用新案法一条、三条参照)、製造方法は考案の構成たりえないものであるから、考案の技術的範囲は物品の形状等において判定すべきものであり、被上告人の長押が本件考案の技術的範囲に属するか否かの判断にあたつて製造方法の相違を考慮の中に入れることは許されないものというべきである。』、等と判示した最高裁判決。