●平成20(ワ)4874 著作権 民事訴訟 東京地方裁判所

Nbenrishi2009-04-09

 本日は、『平成20(ワ)4874 著作権 民事訴訟 平成21年03月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090407180231.pdf)について取り上げます。


 本件は、著作権に基づく侵害差止請求事件であり、その請求が棄却された事案です。

 
 本件では、本件催告書の著作物性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 佐野信、裁判官 國分隆文_)は、


『2 争点(2)イ(本件催告書は,創作的な表現といえるか)について

 前記1のとおり,本件催告書を作成したのは原告ではないと認められるが,事案に鑑み,仮に,本件催告書を作成したのが原告であるとした場合に,本件催告書が創作的な表現といえるか否かについても,検討する。


(1) 著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが,作成者の個性が何ら現れていない場合は,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきところ,言語からなる表現においては,文章がごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,作成者の個性が現れておらず,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきである。


(2) そこで,本件催告書について,以下,検討する。

ア 本件催告書は,被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき要求するという内容のものであり,その本文は, 本件第1文から本件第5文までの5つの文章から構成されている。


イ 本件第1文について
 本件第1文は,被告サイトに,本件回答書の本文が全文記載されているという事実を表現したものである。このように事実を記載した文章であるから,その表現方法の選択の幅は狭く,また,本件第1文の具体的な表現方法を見ても,平凡な表現方法によっており,ありふれたものであり,したがって,本件第1文には原告の個性は現れていないというべきである。


ウ 本件第2文について
(ア) 本件第2文は,本件回答書の文章について,原告が公表権を有しているという主張を表現したものである。


 本件回答書について,原告が公表権を有しているというためには,?原告が本件回答書を作成したこと,?本件回答書が著作物であること,?本件回答書が未公表であることを主張する必要がある。


(イ)上記の?原告が本件回答書を作成したという点について,本件催告書は,「著作者である私」と極めて簡潔に表現しており,同表現に原告の個性が現れていないことは明らかである。


(ウ) 上記の?本件回答書が著作物であるという点については,本件催告書は,「著作物です」と極めて簡潔に表現しており,同表現にも原告の個性が現れていないことは明らかである。


(エ) 上記の?本件回答書が未公表であるという点については,本件催告書は,「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり,未公表の著作物です」と表現している。


a この点,著作物は,当該著作物が発行された場合,又は,権利者若しくはその許諾を得た者によって公衆送信等された場合に,公表されたことになるところ(著作権法4条),本件回答書は,ファクシミリにより丙弁護士にのみ送信されたものであり,その丙弁護士が原告にとっては「公衆」ではなく特定の者であることを主張する(著作権法2条5項参照)ために,本件催告書のように,「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり」と表現することは,特段の工夫がされたということはできず,同表現に,著作者の個性が現れているということはできないというべきである。


b これに対し,原告は,「特定の個人に宛てたもの」との文言は,日常的に用いられる普通の用語ではないから,同表現には原告の創意工夫が認められる旨主張する。


 しかしながら,本件催告書は,法律上の権利に基づき,同権利の侵害行為の中止を要求する文章であるから,必ずしも日常的に用いられる用語を使用するわけではなく,「特定の」という文言も,公衆ではないということを示すための法律用語であるから,上記文言が日常的に用いられないことをもって,創意工夫が認められる旨の原告の主張は理由がない。

c また,原告は,本件回答書が公表されているか否かの点については,著作権法の条文に基づく細かな説明をせずに,「特定の個人に宛てたもの」と記載するに止めたことをもって,本件催告書に創作性が認められるかのような主張をする。


 しかしながら,自己の要求を簡潔に示した催告書においては,相手方に説明する必要のない事項については,適宜省略するのが通常であるところ,本件催告書においても,本件回答書が公表されているか否かの点については,特段,当事者間で問題となるとは予想されないから,本件回答書が公表されたとはいえないことの細かな説明も,通常,省略するものと解され,そのことに原告の個性が現れているということはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


d また,原告は,著作権法上の公表権の根拠規定を摘示したことを創作性の根拠とするかのような主張をするが,法律上の権利の主張をする際に,当該権利の根拠規定を摘示するのは通常のことであるから,原告の上記主張は理由がない。


エ本件第3文について

 本件第3文は,本件回答書を,被告サイトに掲載することにより公表したことは,本件回答書について原告が有する公表権を侵害する違法行為であるという主張を表現したものであるが,上記の主張内容を本件第3文のように表現することはありふれており,同表現には,原告の個性が現れていないというべきである。


 この点,原告は,本件第3文において,種々の民事上の救済や刑事罰の詳細を記載することはせず,単に「民事上も刑事上も違法な行為」という抽象的な言い方に止めた点に創作性が認められる旨主張する。


 しかしながら,本件催告書のように,自己の法律上の要求を簡潔に示した文章においては,差止めの対象とする行為の違法性を指摘する際に,単に「民事上も刑事上も違法な行為」という抽象的な言い方に止めることも,普通のことと解され,この点に創作性を認めることはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


オ本件第4文について

(ア) 本件第4文は,被告に対して,被告サイトから本件回答書を削除するよう求めることを表現したものである。


 被告サイトから本件回答書の削除を求める場合,通常,期限を設けた上で催告を行うものと解されるから,本件催告書が,本件回答書の削除の期限を設定したことは,極めて一般的なことであり,また,その表現方法もありふれたものであるから,同表現に原告の個性が現れていないことは明らかである。


 また,公表権を侵害する行為に対しては,著作者は,差止請求権を有しているから,公表権侵害行為の中止を求める際にも,その理由として,単に,当該行為が違法であることを示すだけでなく,当該行為に対して差止請求権を有していることを示すことも,極めて一般的なことと解され,本件第4文において,被告サイトからの本件回答書の削除の要求の理由として,「このような違法行為に対して,・・・私は,差止請求権を有しています(同法112条1項)ので」と記載することに,原告の個性が現れているということはできないと解される。


 なお,原告は,差止請求権の根拠規定を摘示したことを創作性の根拠とするかのような主張をするが,法律上の請求をする際に,当該請求の根拠規定を摘示するのは通常のことであるから,原告の上記主張は理由がない。


 また,本件第4文では,本件回答書の削除要求は,公表権に基づくものであるにもかかわらず,原告は,本件催告書の請求の主体である自分のことを,本件回答書の著作者ではなく,著作権者であると表現しているが,原告自身,このように,自己を著作権者と表現したことに特段の意図を有していなかったこと(原告本人尋問の結果)を考慮すると,この点に原告の個性が現れているということはできないと解される。


(イ)この点,原告は,本件第4文において,差止請求権以外の救済ないし刑事罰については,あえて言及しなかった点に創作性が認められる旨の主張をする。


 しかしながら,本件催告書は,被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を求めるものであるから,差止請求権以外の請求権等について言及する必要性はなく,それらの点について言及しなかったのは当然ともいえる。


 また,本件催告書で記載された要求に従わない場合に,原告が採りうる法的手段を示すという意味で,原告の有する各種の請求権に言及することは考え得るところであるが,本件催告書のように,自己の要求を簡潔に示した文章においては,自己の催告に従わなかった場合に採るべき法的手段を逐一具体的に指摘しないことは,普通のことと解され,上記の言及を行わなかった点について創作性を認めることはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


カ 本件第5文について

 本件第5文は,本件催告書による原告の催告に被告が従わない場合に,法的手段に訴えることを表現したものであり,同意思を表現するものとして,本件第5文のような表現形式を採ることはありふれており,本件第5文に原告の個性が現れていないことは明らかである。この点,原告は,本件第5文の「相応の法的手段」の具体例を示さなかったことに創作性が認められる旨の主張をする。


 しかしながら,前記オ(イ)で判示したように,本件催告書において,自己の催告に従わなかった場合に採るべき法的手段として,その具体的内容を逐一指摘しないことは,普通のことと解され,この点に創作性を認めることはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


キ 本件催告書全体の構成について

(ア)本件催告書の構成は,本件第1文において,本件催告書によって中止を求める対象となる被告の行為を指摘し,本件第2文において,原告の権利内容の主張をし,本件第3文において,本件第1文で指摘した被告の行為は,本件第2文で示した原告の権利を侵害する違法な行為であることを主張し,本件第4文において,被告に対して,本件第1文で指摘した行為の中止を求め,本件第5文において,本件第4文の催告に従わない場合に,原告が法的措置を採ることを示すというものである。


 被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき請求するという内容の催告書を作成する場合,種々の構成が考えられるが,上記の構成を採ることは自然であり,実際,代理人催告書も,上記と同じ構成を採っており,各種の催告書の文例にも,上記の構成と同様の構成を採っているものがある(乙1,3)。


 したがって,本件催告書全体の構成に,原告の個性が現れているということはできないと解される。


(イ)これに対し,原告は,本件催告書は,法律上の論点をすべて網羅することはせず,必要な限度において論点を取捨選択し,これを理解しやすい順番に並べたものであり,この点に,創作性が認められる旨の主張をする。


 確かに,本件回答書についての公表権に基づき,被告サイトから本件回答書の削除を要求する文章を作成する場合,取り上げるべき論点,記載すべき事項についての選択が可能であり,また,その記載の順序についても,種々のものが考えられるが,著作権法上,言語の著作物として保護されるのは,そのような選択に関するアイデア自体ではなく,具体的な表現であると解すべきである。


 したがって,素材や表現形式に選択の幅があったとしても,実際に作成された言語上の表現がありふれたものである限り,創作性は認められないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は理由がない。


(3)以上より,仮に,本件催告書を作成したのが原告であるとした場合は,本件催告書は,創作的な表現ということはできないというべきである。


3 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。