●平成20(行ウ)377「特許出願却下決定に対する異議棄却決定取消請求

Nbenrishi2009-04-08

 本日は、『平成20(行ウ)377 特許権 行政訴訟「特許出願却下決定に対する異議棄却決定取消請求事件」平成21年03月25日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090407180431.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許庁長官がした国際出願翻訳文提出書に係る手続却下処分及び国内書面に係る手続の却下処分の取り消しを求めた特許出願却下決定に対する異議棄却決定取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、外国語でされた国際特許出願の明細書等の翻訳文が184条の4第1項の翻訳文提出特例期間経過後に提出された場合、同3項により本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされるので、翻訳文提出書及び国内書面に係る手続の却下処分は適法である、と判示された点で参考になる事案です。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官 佐野信)は、


『1 取消理由1について

(1)特許法は,PCT出願について,本件条約の優先日から2年6か月の国内書面提出期間内に,特許法所定の国内書面を提出する必要があり(法184条の5第1項),外国語で出願を行う場合は,さらに,国内書面提出期間内(ただし,上記国内書面を国内書面提出期間の満了前2か月から満了の日までの間に提出した場合は,国内書面の提出の日から2か月の翻訳文提出特例期間内)に,本件条約所定の明細書,請求の範囲等の日本語による翻訳文を提出する必要があるとし(法184条の4第1項),上記翻訳文(要約の翻訳文は除く。)が上記期間内に提出されないときは,当該国際特許出願は取り下げられたものとみなすものとしている(法184条の4第3項)。


 そして,特許法上,上記の翻訳文の未提出による取下げが擬制された場合に,権利の回復を認める旨の規定は存在しない。


 本件においては,前記争いのない事実等で判示したとおり,本件国際特許出願の優先日は平成16年3月4日であり,国内書面提出期間の末日は平成18年9月4日であるところ,原告は,同月1日に,特許庁に対して,本件国内書面を提出し,同年11月3日に,本件各翻訳文を提出したのであるから,本件各翻訳文は,翻訳文提出特例期間(同年11月1日まで)経過後に提出されたものと認められ,本件国際特許出願は,法184条の4第3項の規定に基づき,取り下げられたものとみなされることになる。


 そこで,特許庁長官は,前記争いのない事実で判示したとおり,本件国際特許出願の翻訳文提出書に係る手続について,本件却下理由通知書1に記載した理由(本件各翻訳文が翻訳文提出特例期間経過後の提出であること)によって本件却下処分1を行い,本件国内書面に係る手続について,本件却下理由通知書2に記載した理由(本件国内書面は,本件各翻訳文が翻訳文提出特例期間内に提出されなかったことにより,本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされることにより不必要な手続となること)によって本件却下処分2を行ったものである。


(2)原告は,取消理由1に係る主張として,上記翻訳文提出期間の徒過については,本件条約に基づく本件規則49.6が直接適用され,同規定により,原告の権利の回復が認められる旨主張する。


ア 本件規則49.6の適用につき,同規則49.6(f)は,「2002年10月1日に(a)から(e)の規定が指定官庁によつて適用される国内法令に適合しない場合には,当該指定官庁がその旨を2003年1月1日までに国際事務局に通告することを条件として,これらの規定は,その国内法令に適合しない間,当該指定官庁については,適用しない。


 国際事務局は,その通告を速やかに公報に掲載する。」と規定するところ,前記争いのない事実等で判示したとおり,日本の特許庁は,同規則に基づき,国際事務局に対し,同規則49.6(a)ないし(e)は国内法令に適合しないことを通告し,国際事務局は,その通告を公報に掲載している。したがって,本件規則49.6は,その規定上の手続により,我が国に適用されないことが明らかといえる。


 また,特許法は,特許出願の出願審査請求の期間を出願日から3年以内と規定するところ(法48条の3第1項),本件規則49.6(a)ないし(e)によれば,優先日から30か月を経過する時までに翻訳文を提出せずにその効力が失われた国際出願の出願人は,期間を遵守できなかった理由がなくなった日から2か月又は期間満了から12か月(優先日からすれば42か月)の期間内は,出願人の権利を回復することができるから,仮に,同規則に従い,外国語による国際特許出願において,翻訳文の提出を優先日から最大3年6か月まで可能とする場合には,出願審査請求がされてから,最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されない事態も生ずることになり,その間の審査を行うことができないため,特許庁における審査に支障が生じるおそれがあることになる。


 したがって,本件規則49.6(a)ないし(e)は,日本の国内法令に適合しないというべきであり,特許庁の行った上記通告には,合理性があると認められる。


 原告は,PCT出願において,国内段階での期間内翻訳文未提出による失権を回復するための救済規定が国内法として整備されていない国は,主要国中では日本のみである旨主張するところ,仮にそうであるとしても,特許出願制度において翻訳文提出の期間を徒過した場合にどのような措置を講ずるかは,各国の立法政策等に委ねられた問題と解すべく,失権を回復する具体的規定が設けられていないからといって,本件規則49.6が我が国の法規範として直接適用されるものでないことは,前記説示に照らして明らかといえる。


イ したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告の取消理由1に係る主張は,理由がない。


2 取消理由2について

(1) 特許法は,外国語でされたPCT出願に対しては,明細書,請求の範囲等について,国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に日本語による翻訳文の提出を要求し,上記期間内に上記の翻訳文の提出がなかった場合は,当該出願は取り下げられたものとみなす旨規定している(法184条の4第1項,同3項)。


ア 原告は,外国語でされたPCT出願に対してのみ上記期間内に翻訳文の提出を要求することは,外国語でPCT出願をするのは専ら在外人である以上,実質的に内外人を差別していることになり,パリ条約2条の内国民待遇,特許法25条2号の相互主義に反する旨主張する。


 また,原告は,パリ条約に基づく出願の場合と同様に,PCT出願の翻訳文提出特例期間の起算日を優先日とすべきであり,そのようにせずに,法184条の4第1項及び3項を形式に適用して,上記起算日を国内書面提出の日とすることは,パリ条約上の内国民待遇の原則に反する旨主張する。


 しかしながら,特許法の上記規定は,外国語でされたPCT出願の場合に,日本語でされたPCT出願においては要求しない手続を要求し,これを満たさない場合の出願の取下擬制の効果を規定しているのであって,その取扱いの差は,出願の際に使用する言語によるものであり,出願者の国籍によるものではないから,内国民待遇や相互主義違反の問題は生じないというべきである。


イ また,原告は,法184条の4第3項は,発明の保護を基礎として作成された本件条約の法目的(前文,2条(1))に反する旨主張するが,本件条約自体は,翻訳文提出期間を徒過した場合の権利回復規定を設けておらず,権利回復を規定した本件規則も,前記1で判示したとおり,各国の事情により,権利回復規定を設けないことを認めているのであるから(本件規則49.6(f)),特許法の上記規定が,本件条約の法目的に反するということもできない。


(2) したがって,原告の取消理由2に係る主張は,理由がない。


3 以上より,原告の取消理由1及び2に係る主張は,すべて理由がなく,本件各却下処分は,いずれも適法である。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


  先日の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090331)では、意匠登録出願と同時にパリ条約による優先権主張の手続をせずにその後のその出願日中に優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をしたものの優先権の主張が認められなかった、●『平成20(行コ)10002 却下処分取消請求控訴事件 意匠権 行政訴訟「腕時計用側事件」 平成21年03月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090327104127.pdf)について取上げましたが、期限の決まっている手続きは本当に注意が必要です。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

●『特許改革法案(S515)、上院司法委員会を通過−損害賠償規定等に修正あり。全件公開原則は削除されたまま−』http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/ip/news/pdf/090402.pdf
●『連邦地裁及びCAFCの知財関連訴訟件数の推移(1994-2008年度)』http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/ip/news/pdf/090325.pdf