● 平成20(行ケ)10065 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟(4)

Nbenrishi2009-04-07

 先日取り上げた、●『平成20(行ケ)10065 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」平成21年03月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090403112934.pdf)における、「除くクレーム」についての本件被告(特許権者)側の反論も参考になりますので、取り上げます。


 つまり、本件被告(特許権者)は、


『3 被告の反論

審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1) 取消事由1に対し

ア 知財高裁大合議判決は,いわゆる「新規事項の追加禁止」に当たるか否かの判断基準を,「新たな技術的事項の導入」の有無に求め,具体的な事案に対し,明細書に記載された訂正前の各発明に関する技術的事項と,訂正後の各発明に関する技術的事項とを実質的に対比・検討し,訂正(補正)によって前者の技術的事項に何らかの変更を生じさせているものといえるか否かをみて,訂正が明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものであるか否かを判断するという手法を当てはめた。


 そして,「新たな技術的事項」を付加したものかどうかの具体的な判断としては,「訂正前の明細書・図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」と「訂正後の明細書・図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」を比較した上で,(i)前者における「最大の特徴」が補正・訂正後においても維持されているか,(ii)前者と後者の「効果」が共通かを検討し,この2点が肯定されるので,「新たな技術的事項」が付加されたものではないことは「明らか」と認定判断したものである。


 なお,知財高裁大合議判決は,平成6年改正前の法134条2項ただし書による訂正に関する事案であり,平成6年改正前の法17条2項(補正に関する規定)の解釈を示した上で,上記訂正に関する規定も同様に解すべきものとしたのであるが,その判示は,ほぼ同じ文言が用いられている本件特許の出願日(平成15年10月31日)時点の法17条の2第3項にも該当すると解される。


 また,知財高裁大合議判決は,法29条の2による特許無効理由を回避するための「除くクレーム」とする訂正が問題となった事案に関する判断を示したものであるが,本件は,法39条による拒絶理由を回避するための「除くクレーム」とする補正が問題となっている点において,若干異なる点がある。


 しかし,審査基準は,「第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条」という3つの条文を「新規性等」と総称しており,また,「当該重なりのみを除く補正」との表現を用いているとおり,これらの3つの条文を,いずれも出願に係る発明の技術的範囲と先行例の技術的範囲の間に「重なり」が見られる点で共通するものと扱っている。


 そして,この点は妥当であるから,知財高裁大合議判決の論理(判断手法)は,法39条が問題となっている本件事案にも適用があるものというべきである。


イ そこで,本件特許について,(i)当初明細書等に記載された本件発明の「最大の特徴」が本件補正後においても維持されているか,及び(ii)前者と後者の「効果」が共通かを検討する(なお,本件特許に対し「除くクレーム」を導入した本件補正は,拒絶査定不服審判手続において被告が提出した平成18年5月15日付け手続補正(甲24の8)及び平成18年6月16日付け手続補正(甲24の11)により行われたものであり,当初明細書等の内容は,本件PCT出願の国際公開に相当するWO2004/039381A1(甲23の2)に記載された内容と同一であるので,以下,甲23の2に示される明細書等の内容をもって「本件当初明細書等」という。)。


 本件当初明細書等によれば,本件特許発明の最大の特徴は,炭素源(出発材料)として,(従前用いられていたピッチに代えて)フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して調製した経口投与用吸着剤が,優れた選択吸着率を有することを見出した点にある。


 すなわち,本件特許発明は,「炭素源(出発材料)」としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用して調製すると,従来の出発材料(例えば,ピッチ)を使用して調製した場合と比較して,選択吸着率が顕著に向上することを特許性の主要な根拠としたものである。


 したがって,本件当初明細書等に記載された本件発明の最大の特徴は,経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用した点にあり,またその効果は,優れた選択吸着率を獲得するに至ったという点にあることが認められる。


 他方,本件補正は,「R値が1.4以上である球状活性炭を除く」旨の補正であるが,この補正は,同日出願の別件特許(甲6発明)との「重なり」を解消するために,同日出願の別件特許(甲6発明)により開示された「R値が1.4以上である球状活性炭」を除外するものである。


 つまり,本件補正は,別件特許との「重なり」(法39条の同一発明の存在)を解消するために,同日出願の別件特許(甲6発明)のクレームに使用された文言を用いて両者の境界線を定め,その文言によって,本件特許発明の当初クレームから,「重なり」部分を形式的に除外するためのものにすぎず,本件特許発明の技術的情報とは無関係であって,何ら新たな技術的事項を付加するものではなく,本件当初明細書等に記載された本件発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものではない。


 これを知財高裁大合議判決の判断基準に従って検討すると,(i)経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を使用したという本件当初明細書等に記載された本件発明の最大の特徴は,本件補正後も全く同じであり,また,(ii)優れた選択吸着率を獲得するに至ったという本件当初明細書等に記載された本件発明の効果もまた同じであることが明らかである。



 そうすると,同日出願の別件特許との「重なり」となっている「R値が1.4以上である球状活性炭」を除外することによって,本件当初明細書等に記載された本件発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから,本件補正が本件当初明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり,本件補正は,当業者によって,本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。


 したがって,本件補正は,法17条の2第3項にいう「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものであるというべきである。


ウ(ア) 以上に対し,原告は,「A+B」というクレームにおいて,「Cを除く」とする例を挙げて,安易に「Cを除く」とすることを許容すれば,「A+B+非C」というクレームの特許が容易に成立し得ると主張する。


 この原告の主張は,当初明細書に「C」について何も記載されていないということから直ちに,「非C」という記載を追加する補正が当然に新規事項の追加に当たるという見解を前提として,「Cを除く」という補正と「非C」という補正を対比して,前者が許容されることは許されないとの立論をしているように理解される。


 しかし,そもそも大合議判決は,既に指摘したとおり,当初明細書等に記載されていない事項を訂正事項とする訂正であっても,「新たな技術的事項を導入しない」ものであると認められる限り,新規事項の導入に当たらないというのであり,それによれば,当初明細書に「C」について何も記載されていないということを理由として,「非C」という記載を追加する補正が当然に新規事項の追加に当たるかのように立論すること自体が的はずれである。


 「C」が仮にそのようなものであったとしても,「新たな技術的事項を導入しない」ものであれば,「非C」という補正であっても,「Cを除く」という補正であっても,等しく新規事項の追加に当たらないことは明らかである。』


 と反論されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。