●平成20(行コ)10002却下処分取消請求控訴事件「腕時計用側事件」

Nbenrishi2009-03-31

 本日は、『平成20(行コ)10002 却下処分取消請求控訴事件 意匠権 行政訴訟「腕時計用側事件」 平成21年03月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090327104127.pdf)について取上げます。


 本件は、控訴人が意匠登録出願と同時にパリ条約による優先権主張の手続をせずにその後のその出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正をし,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分をしたため、原審ではその却下処分の取消しを求めその請求が棄却され、本件控訴により原審の棄却判決の取り消し求め、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、特許法43条1項の「同時に」の解釈についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 浅井憲、裁判官 榎戸道也)は、


『1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」(原判決19頁19行〜24頁22行)に記載のとおりであるから,これを引用する。


2 当審における控訴人の主張に対する判断


(1) 特許法43条1項の「同時に」の解釈について


ア 控訴人は,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合理的に解釈されるべきであり,原判決が,特別の事情が認められない限り,「同時に」という文言を「同一日に」と解釈することは許されないとしたことは,緻密な個別条項解釈の作業努力を放棄した文言解釈というほかなく,合理性を欠く不当なものであると主張する。


 しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(21頁24行目から22頁6行目まで),言葉の通常の意味として「同時に」と「同日に」は時間的接着の程度において明らかに異なる概念として理解されていること,両語が有するかかる通常の意味を踏まえて意匠法等において「同時に」と「同日に」とを使い分けて使用していることからすれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないというべきである。


 確かに,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合理的に解釈されるべきであるとする控訴人主張は,一般的な法律解釈の方法としてそれ自体否定されるものではないが,特許法43条1項のような国民に一定の行為の履践を求める手続に関する規定においては,手続を利用する一般国民が言葉の通常の意味により理解することができることが特に強く要請されるのであり,言葉の通常の意味ないしは用法において「同時に」と「同日に」とは明らかに意味が異なるものとして理解されていること,立法者は,正に控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」をも考慮した上で法律の条項における文言を定め,意匠法等において文言上「同時に」と「同日に」とを使い分けているのであるから,控訴人主張に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味」は法律の条項における文言の選択において既に考慮済みであるといえること等に鑑みれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈することは,手続の利用者である一般国民の理解や立法者の意思に反するものというべきであり,特段の事情がない限り許されないことはむしろ当然であると言わなければならない。


 したがって,控訴人の主張は採用することができない。


イ 控訴人は,特許法43条1項が依拠するパリ条約の文言「moment」は若干の時差を認める意味を元々有し,かつ,パリ条約制定時において「moment」の文言は「必ずしも短くない,時,時期,期間」を意味していたと解されるから,特許法43条1項の「同時に」も,例えば「同じ時期に」「同一日に」など一定の継続期間としての「幅」を包含する意味を有するものと解するのがパリ条約に忠実な解釈というべきであると主張する。


 しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(22頁14行目の「しかしながら」から同26行目まで),パリ条約4条D(1)の条項から特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈すべきであるとする控訴人主張を採用することはできない。


 確かに,パリ条約4条D(1)の英語の公定訳(甲16)ではフランス語正文の「moment」の語に「date」が当てられているが,フランス語の「moment」自体には,時間ないし時期を表す用語として「日,日付」など日を単位とするような意味はなく,より一般的に「(i)短い時間,瞬間,(ii)時,時期,期間【必ずしも短くない】」を意味する(甲20)こと,控訴人が援用する甲第21号証の1,2(知的所有権保護合同国際事務局の元事務総長であったボーデンハウゼン教授の「注解パリ条約」と題する著書)においても,パリ条約4条D(1)の「各同盟国は,おそくともいつまでにこの申立てをしなければならないかを定めるものとする。」との部分の解釈として「すべての加盟国にとって優先の権主張〔判決注:「優先権の主張」の誤記と認める。〕の基礎となった先の出願についての上記事項を含む申立てをすべき最終日を定めることは義務である。この申立を,優先権の主張をした出願をするのと共にしなければならないと定めることもできる。」(44頁10行目ないし13行目)と記載され,控訴人主張とは異なり,優先権の主張をする期限を日単位で定める必要があるとはされていないことに照らすならば,パリ条約4条D(1)の条項が,特許法43条1項の「同時に」の意味を控訴人の主張するように日単位など一定の時間的な幅を有するものと解釈すべきことを規定したものとは到底いえない。


 したがって,控訴人の主張は採用することができない。


ウ 控訴人は,特許法43条1項が「同時に」と規定した趣旨は,(i)権利関係の安定と(ii)先願主義との関係の点にあるところ,出願時刻後の優先権の主張であっても,それが同日中にされる限り,権利関係は即日確定することから,出願と優先権の主張が同じ時刻にされた場合と比較しても,権利関係が不安定となるとは言えず,また,日単位で判断されている先後願の判断にも全く影響を与えず,先願主義と矛盾する事態は発生しないと主張する。


 しかしながら,特許法43条1項の「同時に」を「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。まさにその時。いちどきに」といった言葉の通常の意味に解釈するとすれば,優先権主張がされたか否かは出願がされた時点で確定するのに対し,「同時に」を「同一日に」と解釈するとすれば,出願がされた時点では優先権主張の有無が確定しないのであるから,前者に比較して後者の場合に権利関係が不安定となることは明らかであるし,また,後記(2)に判断するとおり,「同時に」を言葉の通常の意味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,先後願の判断にも影響を及ぼすから,控訴人の主張を採用することはできない。


エ 控訴人は,オンライン出願においては,優先権の主張が完了した後,時間的間隔をおいて出願行為が完了するのであり,特許庁実務においては,かかる時間的間隔が存在しても優先権主張が「同時に」されたものと扱っているのであるから,「同時」という用語は「幅」を有する概念と解釈すべきであると主張する。


 確かに,オンライン出願により優先権の主張を行う場合には,願書に優先権の主張に係る所定事項を記録して手続を行うのであり(特例法施行規則12条),特例法の特定手続は,特許庁の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「特許庁のファイル」という。)への記録がされた時に特許庁に到達したものとみなされる(特例法3条2項)ことから,出願行為が完了した時点には既に優先権の主張の手続は完了しており,両者の間に若干の時間的間隔が存在することは,控訴人の主張するとおりである。


 しかしながら,上記の場合には,出願手続を構成する願書の特許庁のファイルへの記録の際に,その記録の一部として優先権の主張に係る所定事項が記録されるのであり,出願手続の開始時刻から終了時刻までの間に優先権の主張手続が行われているのであるから,両者の開始時刻及び終了時刻が異なるとしても,両者の時間的関係の表現として,言葉の通常の意味において「同時に(行われた)」と表現して何ら差し支えがないものである。


 したがって,控訴人主張に係るオンライン出願における特許庁の取扱いは特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈する根拠とはなり得ず,控訴人の主張を採用することはできない。


(2) 第三者の被る不利益について


ア 控訴人は,先出願第三者の優先順位が覆るという不利益は,特許法43条1項の「同時に」が幅を有する概念であると解釈する結果として生ずる不利益ではなく,先出願第三者は,出願と「同時に」されなかった優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱われることにより,不利益を被ることはないと主張する。


 しかしながら,本件のように,出願と「同時に」優先権主張の手続がされなかった場合に,特許法43条1項の「同時に」を言葉の通常の意味に解釈するとすれば,同一日にされた優先権主張の手続が適法な手続と扱われることはないのであるから,先出願第三者は先願者の地位を有するのに対し,「同時に」を「同一日に」と解釈するとすれば,同一日にされた優先権主張の手続が適法な手続と扱われ,先出願第三者は先願者の地位を失うこととなるのであるから,「同時に」を言葉の通常の意味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,先出願第三者の先願者の地位に影響を及ぼすことは明らかであり,後者の解釈を採ることにより,先出願第三者が,優先順位が覆るという不利益を被ることは明らかである。


イ また,控訴人は,同日出願第三者についても,出願と「同時に」されなかった優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱われることにより,不利益を被ることはないと主張する。


 しかしながら,上記アで説示したのと同様の理由から,「同時に」を言葉の通常の意味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,同日出願第三者の同日出願人の地位(協議成立により特許を受け得る地位)に影響を及ぼすことは明らかであり,後者の解釈を採ることにより,同日出願第三者が,同日出願人の地位を失うという不利益を被ることは明らかである。


 なお,この点について,控訴人は,パリ条約4条の優先権主張は,出願日それ自体を遡らせる効果まで有するものではないから,出願の日と同一日中の優先権主張を認めても,出願日が遡ることによって同日出願第三者が同日出願人の地位を失うことはないと主張する。


 しかしながら,優先権主張の効果が出願日を遡及させる効果を有しないとしても,パリ条約4条の解釈として,優先権主張を伴う出願は,特許法39条2項の適用の関係においては,最初の出願の出願日(優先権主張日)にされたものと取り扱われるのであって,優先権主張が認められれば,同日出願第三者が同日出願人の地位を失うことは明らかであるから,控訴人の上記主張は失当である。


(3) 特例法施行規則14条に基づく主張について


 控訴人は,特例法施行規則14条を根拠に意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」は「同一日に」を解釈すべきである旨主張するので以下検討する。


 特例法施行規則は,それまで書面で行われていた特許等関係法令の規定による手続を電子情報処理組織を使用して行う(以下「オンライン手続」という。)ことを可能にするための特例法の施行細則を定めるものであるところ,乙第6号証によれば,その立法過程において以下のような検討がされ,特例法施行規則12条及び14条が制定されたものと認めることができる。


 特例法の立法当時,特許等関係法令上「同時に」に行うものと規定されていた手続は,(i)出願審査の請求と同時にする手続の補正(特許法17条の2第1号,但し,平成6年法律第116号により削除された。),(ii)出願の分割と同時にする手続の補正(特許法44条1項1号,特許法施行規則30条),(iii)新規性喪失の例外の規定の適用を受けたい旨を記載した書面の提出,(iv)国内優先権主張の手続(特許法42条の2第4項,なお法改正に伴い現在は特許法41条4項),(v)パリ条約に基づく優先権主張の手続(同法43条1項)及び(vi)補正却下後の新出願の規定の適用を受けたい旨の書面の提出(昭和60年改正前特許法53条6項,4項)の各場合があったところ,(iii)ないし(vi)の各手続については,「同時に」の通常の意味及びいずれの場合も願書等の上にその旨を記載することによりその手続を省略することができるものとされていたことを勘案し,特例法施行規則12条においてオンライン手続による願書等の中にその旨を記録することにより行うものと定めた。


 これに対し,(i)については出願審査請求書及び手続補正書,(ii)については出願ともとの特許出願手続の手続補正書の2つの書面の同時提出がそれぞれ必要になるところ,複数の送信を同時に受信できない,すなわち時間的に「同時に」を実現できないという特例法の立法当時の技術的制約の中で,上記の2つの手続を「同時に(行った)」ものとするための法的手当てが必要になり,さらに,オンライン手続と従来の書面提出等による手続が併存し得る事態に対する法的手当てが必要となり,これらの事態に対処するために特例法施行規則14条が制定され,その1項において「当該二の手続については連続して入力を行わなければならない」とし,その2項において「二の手続のうちの一の手続を電子情報処理組織を使用して行い,他の手続を書面の提出により行うときは,当該二の手続については同日にしなければならない」とされた。


 以上によれば,本件においては前記第2の1に記載したようにパリ条約に基づく優先権主張の手続をオンライン手続により行う場合であるから,特例法施行規則12条により意匠登録出願の願書中にその旨を記録して行う必要があるところ,控訴人はオンライン手続で送信した願書中にその旨の記録をすることなく,その約2時間後にオンライン手続で上記出願につきパリ条約に基づく優先権の主張をする旨の送信を行ったことは当事者間に争いがないところであるから,かかる手続が特例法施行規則12条に違反することは明らかである。


 控訴人は,意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」が「同一日に」を含むものと解釈し得る根拠として特例法施行規則14条を援用するのでこの点を検討するに,確かに同条項は前述した(ii)の場合について特許法施行規則30条が規定する「同時に」を「同一日に」と手続を行い得る時間的範囲を拡張したものであるが,これは前述したオンライン手続で送信された情報を同時受信できないという特例法制定当時の技術的制約及びオンライン手続と書面提出手続の併存という2つの手続を「同時に(行う)」といういずれも特許法等の要請の実現を困難ならしめる例外的事情の存在に基づくものであるから,かかる事態はオンライン手続の導入,すなわち特例法の立法に際して当然に予想された事態であり,上記事態に対処する限度における立法的措置はその委任の範囲内にあるものというべきであるところ,特例法施行規則14条は,その規定内容に照らすと,上記事態に対処するために「同時に」の時間範囲を必要最小限度の範囲内に留めた合理的な立法的措置ということができ,これが特例法の委任の範囲内にあることは明らかというべきである。


 そして,既に説示したとおり,国民に履践を求める手続規定においては,特段の事情がない限り,言葉の通常の意味において解釈されるべきところ,「同時に」とは「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。まさにその時。いちどきに」といった意味であり,より長い時間的範囲を意味する「同一日に」とは区別して理解されるのが通常であるから,上記のような例外的事態に対処するための特例法施行規則14条を根拠に,これを例外的事情のない上記の(iii)ないし(vi)のような場合においても上記の通常の意味を超えて「同一日に」と拡大して解釈することが相当でないことは明らかというべきである。


 したがって,特例法施行規則14条を根拠とする控訴人の主張を採用することはできない。


3 結論

 以上の次第で,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとする。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、本件の原審は、昨年の6/28の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080628)で取上げた、

●『平成20(行ウ)82 却下処分取消請求事件 意匠権 行政訴訟「腕時計用側」平成20年06月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080627163338.pdf)

 です。


 明日の4/1以降、拒絶査定が送達された平成19年4月1日以前の特許出願については、拒絶査定謄本送達日から3月以内であって、拒絶査定不服審判請求と同時にのみ補正・分割可が可能ですので(改正121条1項、44条1項1号)、“同時に”は注意が必要ですね!せず