●平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「任意の側縁箇所から横裂き容易なエァセルラー緩衝シート」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326100032.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、請求項3に係る発明についての特許を無効とした部分が取り消された事案です。


 本件では、特許法29条2項に定める進歩性の要件の判断基準が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『(エ) 上記検討したところによれば,本件審決の事実認定(エ)のうち,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があることがよく知られていた」との点は,証拠に基づかないものであって,誤りというべきである。


 そして,本件審決は,本件審決の事実認定(ア)ないし(エ)に係る知見が,いずれも本件特許の出願当時,周知であったことを前提として,当業者が本件発明3におけるインフレーション成形された樹脂フィルムを積層するとの構成に容易に想到することができたと判断したのでああるから,本件審決の上記事実認定の誤りは,同判断に影響するものというべきである。


ウ 容易想到性の判断に対する影響の検討


 事案にかんがみ,本件審決の事実認定の誤りが,本件発明3におけるインフレーション成形された樹脂フィルムを積層するとの構成の容易想到性の判断に影響することについて,当裁判所の見解を詳述する。

(ア) 容易想到性の判断について

 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,特許発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,通常,引用発明のうち,特許発明の構成とその骨格において共通するもの(以下「主たる引用発明」という。)から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として,判断されるべきものである。


 ところで,特許発明の特徴点(主たる引用発明と相違する構成)は,特許発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,特許発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,特許発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的な思考方法,主観的な思考方法及び論理的でない思考方法が排除されなければならないが,そのためには,特許発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,特許発明が容易想到であると判断するためには,主たる引用発明,従たる引用発明,技術常識ないし周知技術の各内容の検討に当たっても,特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号事件平成21年1月28日判決参照)。』


 と判示されました。


 なお、本判決中で引用している知財高裁事件は、今年の2/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090201)で取上げた、

●『平成20(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回路用接続部材」平成21年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129104737.pdf

 であり、この知財高裁判決では、

『(1) 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。


 ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。』


 と判示されています。


 詳細は、両判決文を参照して下さい。