●平成17(ネ)1218差止等請求控訴「スポット溶接ロボット用制御装置」

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 さて、本日は、『平成17(ネ)1218 実用新案権侵害差止等請求控訴事件 実用新案権 民事訴訟スポット溶接ロボット用制御装置」平成21年03月19日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090323105636.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、本件考案の構成要件充足性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪高裁(第8民事部 裁判長裁判官 若林諒、裁判官 小野洋一、裁判官 久保田浩史)は、


『1 被控訴人システムに係る本件考案の構成要件充足性(争点(1))について

(1) 構成要件B及びDについて

ア 控訴人は,本件明細書には,ロボットコントローラと溶接タイマとの間に適切な連絡がなされ,ロボットコントローラが溶接ガンのチップの加圧力を把握し,チップが溶接点に到達し,所定の加圧力が達成されるタイミングに同期して通電が開始されることが示されているとした上,構成要件Dの「溶接点到達後,前記ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」とは,溶接点到達後,スポット溶接ガンのチップが所定の加圧力を達成するタイミングと同期して,ロボットコントローラから溶接タイマを介して溶接(通電)開始の指示が出されることを意味し,構成要件Bの「ロボットコントローラにより,前記スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され」とは,上記の限りでロボットコントローラがスポット溶接を制御することを意味する旨の主張をしている。


 しかしながら,登録異議手続における訂正前の明細書の「登録請求の範囲」(本判決別紙1の(iii)記載のとおり)を含む明細書の記載,これと同一内容の当初の明細書(本件明細書も同一内容)の「考案の詳細な説明」には,溶接時間短縮のために,ロボットの移動動作と溶接ガンのチップの開閉動作及び押圧動作等を同期させること及びそれを実現するための構成並びにその作用効果についての記載はあるが,上記チップへの通電等のスポット溶接自体の構成に言及した部分は,添付図面を含めても次の(i)ないし(iii)以外にはみられず,当業者が理解し得る程度に内容が開示,記載されているとはいえない。


 ・・・省略・・・


 上記のうち,(i),(ii)については,本件考案がスポット溶接ロボット用制御装置に係るものである以上,別途,スポット溶接ガンのチップ(電極)に溶接電流を供給するための構成が不可欠であり,本件考案においてもスポット溶接ロボットがそのような構成を備えることを当然の前提としていることは明らかであって,その場合,スポット溶接ガンの2つのチップ(電極)がワークを保持している間に溶接電流が流される必要があることもまた自明というべきであるから,その意味では,上記(i),(ii)の記載は,以上の当然の事柄を述べたものにすぎないものと理解され,これらの記載に接した当業者もまた,そのように受け取るものと解される。


 次に,(iii)の点については,「考案の詳細な説明」中には当該接続線の技術的意義等について何らの言及・説明もないところ,図1及び図2が,機能ブロック図及び電気的構成の概要図であることや,他の電動式サーボ機構等との間の接続線の意味合いから推して,ロボットコントローラとスポット溶接ガンとの間に何らかの機能的・電気的な連絡があること,殊に,ロボットコントローラが,演算処理装置(CPU)とRAMとROMとタイマーと入出力インターフェースで構成され,サーボ機構の制御に必要なプログラム等が付加されていること(【0013】)及び接続線が上記入出力インターフェースから出ていること(図2)からすると,他の電動式サーボ機構等との間と同様,当該接続線を介して,ロボットコントローラとスポット溶接ガンとの間で何らかの電気的信号のやり取りがなされることは推認できるとしても,それが何のための信号であるか等は当業者にとっても明細書の記載自体からは特定しがたいものと考えられる。


 加えて,控訴人が主張する,本件考案が,ロボットの移動動作と溶接ガンのチップの開閉・押圧動作等の同期制御のみならず,これらとスポット溶接に係る溶接開始のタイミングとの間でも同期制御をするとの点については,当初明細書と同一内容の登録異議手続における訂正前の明細書の「考案の詳細な説明」中で課題としての示唆すらなされていないと認められるから,かかる状況においては,当業者といえども,上記断片的な記載のみから,控訴人主張のような特定かつまとまりのある技術的事項を読み取れるものとはにわかに認めがたい。


イ しかるところ,前記のとおり,本件考案の構成要件B及びDは,登録異議手続における取消理由通知に対応して控訴人がした訂正請求(乙12)によって挿入されたものであり,同時に提出された異議意見書(乙11。5頁24行目〜6頁13行目)には,「参考図1は本件考案の構成を示すブロック図であり,これは本件公報の図2と同一のものである。参考図1より明らかなように,本件考案においてはスポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントローラと連絡されており,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントローラにより支配される構成とされている。一方,参考図2は図2 発明(裁判所注:アb ロウ発明。以下同じ。)の構成を本件考案に適用した場合のブロック図である。参考図2より明らかなように,参考図1においてなされていたスポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分とロボットコントローラとの連絡はなされておらず,スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分はロボットコントローラにより支配されていない。それにより,本件考案においてはロボットコントローラの支配による一連の作業工程より,スポット溶接ガンのチップを含むロボットの動作およびスポット溶接がなされるので,サイクルタイムが短縮される一方,図2 発明においてはスポット溶b 接ガンのスポット溶接に関する部分がロボットコントローラにより支配されていないので,前述したように,電極の位置と,両電極間の力と,溶接電流の間の同期を得ることが困難となりサイクルタイムが長くなるという欠点を有している。このように,本件考案と図2 b 発明とは構成を異にし,しかもその作用・効果は正反対であるから,両者は同一でない。」との記載がある。


 そして,上記訂正請求,異議意見書を受けて,登録異議手続における異議決定(甲3。6頁14行目〜7頁8行目)は,本件考案とアロウ発明との構成の一致する部分をあげた上,相違点として,本件考案では,溶接ガンのチップを駆動するための電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラにより前記溶接ガンによるスポット溶接が制御され,溶接点到達後,前記ロボットコントローラから溶接ガンへ溶接開始の指示がなされるのに対して,アロウ発明では,ロボット制御ユニット14(ロボットコントローラ)とは別の溶接キャビネット15(溶接タイマ)から溶接開始の指示がなされる点を指摘して,「前記相違点におけるそれぞれの構成を具備することにより,本件考案は,スポット溶接ガンのチップを含むロボットの動作およびスポット溶接がなされるので,作業サイクルタイム(裁判所注:溶接時間。以下同じ。)が短縮されるのに対して,引用発明(裁判所注:アロウ発明)は,溶接電流等のスポット溶接に関する部分がロボットコントローラに制御されず,別のユニットである溶接キャビネット15 により制御支配されるから,電極の位置,両電極間の押圧力と溶接電流等との同期を得ることが困難となり,サイクルタイムが長くなるという問題点を有するものであって,両者は前記の相違点の構成に基づいて作用効果に実質的な差異があるものである。したがって,本件考案は引用発明と同一とすることはできない。」として,上記と同様の趣旨に解していることが明らかである。


 そうすると,前記アに説示したところに鑑みれば,当初の明細書,登録異議手続における訂正前の明細書の添付図面の図2とスポット溶接ガンとの間の接続線上を伝送されるものと解される電気的信号をもって溶接開始の指示のためのものと特定した点が認められるべきか否かは疑問で,上記訂正が許可されるべきであったか疑問の残るところであるが,その点を措き,当該訂正を前提にするとしても,「登録請求の範囲」の記載は「考案の詳細な説明」に現に記載された考案についてなされなければならず(法5条6項1号),「登録請求の範囲」の訂正も,願書に添付した明細書,登録請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でなされる必要があり,かつ,実質上「登録請求の範囲」を拡張し又は変更するものであってはならない(平成6年法律第116号付則によって準用される特許法120条の4,126条)のであるから,上記訂正も,当然ながらその範囲内でなされたものとして解釈されるべきである上,上記異議決定が上記異議意見書を踏まえてされたものである以上,当該書面でされた主張に反する解釈をすることは許されない(包袋禁反言)から,各構成要件の解釈としては,それらの字義どおりの意味内容のものとして解釈するほかないものと解され,したがって,上記各明細書と同一内容の本件明細書を前提とすると,構成要件B及びDは,その文言どおり,ロボットが溶接点到達後,ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示が行われること(構成要件D),また,その限りにおいて,ロボットコントローラがスポット溶接ガンによるスポット溶接を制御するという意味に解するのが相当である。


ウ 詳論すれば,構成要件B及びDの記載を含む本件明細書によれば,本件考案にいうロボットコントローラは,入出力インターフェースを介して電動式サーボ機構,位置検出器,入力装置,ロボット駆動機構及びロボット位置検出器と接続されている(【0013】及び図2参照)ところ,構成要件D及び図2の記載によれば,ロボットコントローラからスポット溶接ガンへなされる「溶接開始の指示」も,入出力インターフェースから出力され,他の電動式サーボ機構等との間と同様に,電気的信号によって当該指示が伝送されるものと推認されるから,構成要件Dは,ロボットが溶接点に到達した後,ロボットコントローラから溶接開始を指示する電気的信号が発信され,当該信号がスポット溶接ガンに伝送されることを意味するものと解される。


 したがって,ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ送信されるのは,電気的信号であって,溶接電流ではなく,本件考案が溶接タイマの使用を前提とするものとしても,これをスポット溶接ガンに一体的に組み込んだ場合は,上記のような構成を字義どおりに実現することができ,控訴人自身も,原審段階では,「溶接タイマは当時周知の技術であり,スポット溶接用ロボットシステムに必要不可欠であったから,溶接タイマは,図2の「スポット溶接ガンG」のなかに含まれているものと理解するのが合理的である。」(原判決17頁25行目から18頁2行目まで。原審原告準備書面(5)12〜15頁)と主張していた。


 控訴人の主張は,本件考案が,図2のロボットコントローラ中の入出力インターフェースとスポット溶接ガンとをつなぐ接続線の中間に溶接タイマを介在させる構成をも含んでいることを前提にしているものとも解されるが,構成要件Dは,ロボットコントローラから発信される電気的信号の到達先が「スポット溶接ガン」である旨を特定明記しているのであるから,上記のように解することは,「登録請求の範囲」の記載と明らかに矛盾することになる(同構成要件の記載は,ロボットコントローラから「スポット溶接ガンへ溶接開始の指示」がなされるというものであって,「スポット溶接ガンへの溶接開始の指示」がなされると記載されているわけではない。)上,本件明細書の「考案の詳細な説明」及び添付図面には,控訴人主張のような構成を支持又は示唆するような記載は一切存在しないのみならず,上記控訴人が原審段階で主張していたことに照らしても,本件考案が上記のような構成を含むものと認めることはできない。


 他方,被控訴人システムは,本判決別紙物件説明書にみるとおり,被控訴人システムb(5),(6)の構成において,ロボットコントローラが,溶接タイマに対し,同a(8)の溶接指令ケーブルを通じて設定された溶接条件番号に対応した信号を出力し,かつスポット溶接ガンのチップが溶接点到達後,上記溶接指令ケーブルを通じて,溶接タイマに対し,特定の溶接条件により同a(9)のケーブルを通じてスポット溶接ガンへの溶接電流を供給して溶接を開始するよう指令することにより,溶接タイマが特定の溶接条件の溶接電流をスポット溶接ガンに供給開始し,スポット溶接ガンが溶接を開始するものである。


 そうすると,被控訴人システムにおいては,ロボットコントローラから発信される電気的信号は溶接タイマに対して伝送されるものであって(なお,スポット溶接ガンには溶接タイマからの溶接電流が供給される。),本件考案におけるようにスポット溶接ガンに伝送されるものではない。


 したがって,その点で既に被控訴人システムが本件考案の構成要件Dを充足しないことは明らかであり,また,前記のように,構成要件Bにいう「制御」とは,スポット溶接ガンに電気的信号を送信することによって溶接開始の指示をすることを指すと解すべきであるから,その意味で被控訴人システムは構成要件Bも充足しない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。