●平成20(ネ)10013 特許権侵害差止等請求控訴事件「遠赤外線放射体」

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 さて、本日は、『平成20(ネ)10013 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「遠赤外線放射体」平成21年03月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090323162020.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、本件発明における「10μm以下の平均粒子径」の用語の意義についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、

『1 当裁判所も,本件発明は,特許法の定める明確性の要件を満たさないという無効理由を有するから,原判決と同じく,控訴人の請求を棄却すべきと判断する。


 その理由は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」に記載したとおりであるから,これを引用する。


2 控訴人の主張(1)について


(1) 控訴人は,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」については,本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】の記載を踏まえれば, 「10μm以下の平均粒子径」を限界値として特定するものではなく,境界値として特定しているにすぎず,本件明細書(甲2,乙A20の2)の記載の解釈として,「10μm以下の平均粒子径」という場合に,「平均粒子径」の「径」が「体積相当径」を意味することは明らかであって,その上で,体積相当径で算出したものについて,算術平均で平均粒子径を算出するものであると主張する。


 しかし,本件特許の特許請求の範囲において,「10μm以下の平均粒子径」との文言で記載され,発明の詳細な説明(本件明細書(甲2,乙A20の2)の段落【0035】)において,「遠赤外線放射体は,…製造される。これによって,放射線源材料は均一に分散,分布されると共に,遠赤外線放射材料との粒子間が緻密化される。そのため,特に,遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく,一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。…そして,それらの粒度が細かい程,自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させることができる。」とのように具体的にその技術的意義が説明されているものを,できるだけ細かいものであればよいという見地から,当然に,単なる境界値として特定しているにすぎないということはできない。


 また,「10μm以下の平均粒子径」という場合の「粒子径」については,技術的に見て,粒子をふるいの通過の可否等の見地から二次元的に捉えたり,体積等の見地から三次元的に捉えるなど様々な見地があり得る中で,本件明細書(甲2,乙A20の2)を精査しても「粒子径」をどのように, 捉えるのかという見地からの記載はなく,平均粒子径の定義(算出方法)や採用されるべき測定方法の記載も存しない。


 これを踏まえると,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」の「径」を,本件明細書の段落【0035】等の記載に照らして当然に,ふるい径等の幾何学的径や投影面積円相当径等ではなく体積相当径という意味であるということは困難であるし,仮に体積相当径とみることができたとしても,後記2〜4にも照らせば,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」が特許法にいう明確性要件を満たすということはできない。


 以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。


(2) 控訴人は,計量法は,「粒度」を二次元的に定義し,検定検査規則8条は,粒子の表面積から算出した粒子径,粒子の長短等のような他の表現を禁止している,そして,日本工業規格(JIS Z 8901〔甲29〕)は,「(1)粒径…光散乱法による球相当径,…で表したもの。」,「6.2平均粒子径平均粒子径は,付属書によって測定し,表23の値に適合しなければならない。なお,付属書による方法と同等な測定値が得られる他の測定方法を用いてもよい。」と規定し,レーザ光による光散乱法による球相当径で平均粒子径を測定してもよいとされるものであって,平均粒子径の範囲も上記日本工業規格によって子細に制限され,測定装置の測定結果がその範囲内に入る必要がある,そうすると,計量法及び上記日本工業規格に従って測定装置の校正を行えば,「平均粒子径」が特定できる,本件明細書は,計量法を遵守し,同法と整合性のある日本工業規格の定義に従った表現を用いるものであり,違法になり得ないと主張する。


 しかし,本件明細書の記載が計量法を遵守し日本工業規格の定義に従っていたとしても,そのことから,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」という文言が特許法にいう明確性要件を満たすことが当然に導かれることにはならない。


 また,日本工業規格(JIS Z 8901〔甲29〕)については,試験用粒子の粒径(粒子径)について,「ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの,沈降法によるストークス相当径で表したもの,顕微鏡法による円相当径で表したもの及び光散乱法による球相当径,並びに電気抵抗試験方法による球相当値で表したもの」のいずれかと定義されており(甲29・2.用語の定義(「1)粒径」の欄),一義的に特定されているものではなく,また,同粒子の平均粒子径は,「光学顕微鏡法又は透過型電子顕微鏡法により撮影した粒子径の直径の平均値」と定義されている(甲29・「2.用語の定義(7)平均粒子径」の欄)。そうすると,こうした上記JIS(甲29)を根拠として,「平均粒子径」の意義が,レーザ光による光散乱法による球相当径による測定に一義的に特定されるということはできないし,その他,本件記録を精査しても,計量法及び上記日本工業規格に従って校正を行えば,測定方法が異なる測定装置で平均粒子径を測定した場合にあっても同一の値が測定されると認めるに足りる証拠はない。


 以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。

(3) 控訴人は,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)では,原材料の粒子を円相当径,球相当値(JIS Z8901「試験用粉体及び試験用粒子」の用語の定義〔甲29〕参照)として呼称していたから,当該粒子の形状が円,球とは全く似つかない異形であるにもかかわらず,「粒子径」として粒子を円相当径,球相当値とする「径」で表したものであり,このような,同業界で一般的に扱われている「10μm以下の平均粒子径」の表現は,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要性はなく,どのような測定装置を使用しても平均粒子径が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解すれば足りるものであると主張する。


 しかし,上記(2)に説示したとおり,JIS Z 8901〔甲29〕を根拠として,「平均粒子径」の意義が,レーザ光による光散乱法による球相当径による測定に一義的に特定されるということはできないし,また,後記3,4の説示に照らせば,セラミックス業界における技術の普及度に照らし,「10μm以下の平均粒子径」との表現が,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要のないものであったということもできない。


 さらに,前記(1)の説示に照らせば,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」という文言は,できるだけ細かいものであればよいという見地からの単なる境界値ということはできず,あくまで,具体的な技術的意義を有する発明特定事項というべきである。そうすると,このような「10μm以下の平均粒子径」との文言について, 「10μm」という数値自体ではなく ,「10μm以下の平均粒子径」という文言が明確であるかどうかを検討するに当たり,この文言の意義が,どのような測定装置を使用しても「平均粒子径」が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解して明確性の要件を満たすとすることは,当業者に過度の試行錯誤を課するものであって発明特定事項の開示として相当でなく,また,「平均粒子径」について明確性の要件の充足は要しないというに等しいものというほかない。


 以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。


(4) 控訴人は,A見解書(甲40)及び各特許公報(甲39の2〜222)が,控訴人の見解を裏付けるものであると主張するが,上記(1)〜(3),後記3,4の説示に照らし,採用することができない。


3 控訴人の主張(2)について

 控訴人は,原判決は,「1個の粒子の大きさ(粒子径,代表径)の表し方としては種々のものがあり,大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり,幾何学的径には定方向径,マーチン径,ふるい径などがあり,相当径には投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径など種々のものがある。


 平均粒子径とは,粒子群を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが,個数平均径,長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり,同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。」(57頁11行〜19行)と説示するが,これは,本件明細書の段落【0035】の粒子相互間を緻密化するという内容と全く異なる概念を何の根拠もなく導き入れ,セラミックス業界(ニューセラミックス,ファインセラミックスを扱う業界を含む業界)の技術常識を無視し,個々の実際の粒子の体積,外形を測定する技術が確立されていないにもかかわらず,机上論によって本末転倒した結論に至ったものである,と主張する。


 しかし,前記2(1),(3)に説示したとおり,本件発明における「10μm以下の平均粒子径」とは,具体的な技術的意義を有する発明特定事項というべきであり,当業者が「粒子径」という文言の意義を理解できる必要があるところ, 「10μm以下の平均粒子径」という場合の「粒子径」については,技術的に見て,粒子をふるいの通過の可否等の見地から二次元的に捉えたり(幾何学的径,ふるい径),体積等の見地から三次元的に捉える(相当径,等体積球相当径)など様々な見地があり,それにもかかわらず,本件明細書に記載がなく特定できないものである。原判決は,こうした内容について敷衍して説示したものと見ることができる。


 しかるに,前記2(1)に説示したとおり,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」の「径」は,本件明細書の段落【0035】等の記載に照らしても,当然に,ふるい径等の幾何学的径や投影面積円相当径等ではなく体積相当径という意味であるということは困難であるから,原判決が,本件明細書の段落【0035】の粒子相互間を緻密化するという内容と異なる概念を根拠なく導き入れたということはできない。


 また,仮に個々の実際の粒子の体積,外形を測定する技術が確立されていないということを前提としても,そのことからは,平均粒子径については測定方法により有意な差が生じ得ることが導かれることはあっても,数ある捉え方の中から,当業者が,本件発明の平均粒子径の「粒子径」の意義を体積相当径の意味であると理解することが導かれることにはならない。


 以上によれば,控訴人の上記主張は採用することができない。』


 と判示されました。


 確か、「平均粒子径」の用語については、明細書中に定義がなくても特許法36条違反にならなかった判決例もありますが、本件と同様に、明細書中に定義規定がないため特許法36条違反になった判決例もありますので、測定方法や定義等について不安な用語については。念のため明細書中に測定法や定義を書いておいた方が良いですね。


 なお、本件の原審は、07年の12/19の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20071219)で取上げた、●『平成18(ワ)11880等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「遠赤外線放射体」平成19年12月11日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071218090601.pdf)であります。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。