●平成18(ワ)7529 職務発明の対価請求事件 特許権(2)

 本日も、『平成18(ワ)7529 職務発明の対価請求事件 特許権 民事訴訟カップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド方式」平成21年01月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090306153008.pdf)について取り上げます。


 本件では、職務発明に係る商品について販売抑制後の売上げの算定方法にてついての判断も、参考になるとかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


『5 争点(5)(HMS商品の販売抑制後の売上げの算定方法)について

(1) はじめに

 従業者等は,契約,勤務規則その他の定めにより,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法35条3項)。


 したがって,「相当の対価」請求権は,特許を受ける権利等が従業者等が使用者等に承継された時に客観的に算定可能なものとして発生しているというべきである。


 ただし,その「相当の対価」の算定資料となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」(同条4項)については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明の独占的実施により使用者等が将来得ることができる利益あるいはその発明を第三者に実施許諾をしたことにより当該第三者から受けるべき実施料収入額による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後,あるいは,第三者に当該発明の実施許諾をし実施料収入を得た後の時点において相当の対価を判断する場合に,これら独占的実施による利益あるいは実施料収入額をみて,その法的独占権に由来する利益を認定し,これをしん酌して,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を認定することは,特許法35条4項の文言解釈としても許容し得る合理的な解釈であり,上記「利益」を「その発明又は特許により使用者等が実際に受けた利益」から算定することは,合理的な算定方法の一つであるというべきである。


 ところで,使用者等が,その時々の経済情勢,市場動向,競業者の動向等,経営状況の変化に対応していかなる経営方針をもって臨むかは,基本的に経営者としての使用者等の経営判断に委ねられた事項である。使用者等がある職務発明を実施するか否かについても,その発明が使用者等の業務の範囲内において従業者が職務として行った職務発明である以上,このような経営判断の一環として決定し得る事項であるから,当該発明を実施するか否か,実施するとしてどの程度の規模で実施するか,将来的にその規模を拡大していくか縮小していくかは,基本的に使用者等がその時々の具体的状況に応じて,その裁量により決定していくべきものである。


 したがって,使用者等がある職務発明の実施を抑制するような方針をとり,結果として,当該発明の独占的実施による利益あるいは実施料収入が減少したとしても,それが使用者等において,もっぱら発明者である従業者等に対する相当の対価の支払を免れることを目的としたものであるなど,経営判断としての合理性を欠くことが明らかであるといった特段の事情が認められない限り,「相当の対価」の額の算定に際しては,上記方針を採用した結果として実際に使用者等が当該発明の独占的実施によって得た利益あるいは実際に第三者から受けた実施料収入を基礎として算定すべきであって,販売抑制がなかった場合を想定し,かかる場合における当該発明の独占的実施によって得る利益あるいは第三者からの実施料収入を仮に想定して,これを基礎に相当の対価の額を算定するのは相当でない。


 これを本件についてみると,被告が平成16年9月ころ販売政策を変更し,HMS商品からレディメイド商品へと販売の力点を移し,以後HMS商品の新商品の発売を中止したことは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,被告は平成20年2月をもってHMS商品の販売を打ち切ったことが認められる。


 このような被告の販売政策の変更は,基本的には被告の経営判断に委ねられた事項であるから,被告の上記販売抑制策が,原告に対する相当の対価の支払を免れることを目的としたものであるなど,経営判断としての合理性を欠くことが明らかであるといった特段の事情が認められない限り,相当の対価の額はHMS商品の現実の売上高をもとに算定すべきであり,原告が主張するような算定手法,すなわち,被告によるHMS商品の販売抑制がなかったと仮定して,販売抑制以前の売上高を基礎にあるべき売上高を想定してこれに基づいて相当対価の額を算定するという手法は採用すべきではない。


 そこで,以下では,被告の販売抑制策が,経営判断としての合理性を欠くことが明らかといえるか否かという観点から検討を行うこととするが,被告はその経営判断の合理性を基礎付ける事情として,HMSメジャーないしHMS商品に「根本的欠陥」があり,HMS商品の利益率がレディメイドの利益率と比べて低い旨主張し,原告はこれを否認していることから,まず,被告主張の「根本的欠陥」の有無について検討し(後記(2)),次にHMS商品の利益率について検討し(後記(3)),これらとの関連で,被告が原告に対する相当の対価を免れる目的があったか否かについても検討することとする(後記(4))。


(5) 結論

 以上のとおりであるから,本件各発明の特許を受ける権利の承継に係る相当の対価の額の算定に当たっては,被告がHMS商品の販売を抑制した後についても,HMS商品の実際の売上高をもとに算定すべきであり,被告がHMS商品の販売を終了した平成20年2月以降については,その売上げはないから,これを零として相当の対価の額を算定すべきことになる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸;<気になった記事>

●『手術・投薬方法を特許に 政府検討、法改正の柱に 』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20090317AT3S1400G17032009.html