●平成19(ワ)17762損害賠償請求「筆記具のクリップ取付装置事件」

 3/10は、午後から弁理士会の会員研修「知財価値評価に関する研修会」に途中から出席してきました。仕事の都合で20分強遅刻をしたため、単位はもらえませんでしたが、最後まで聴講してきました。


 本日の内容は、「定性評価業務OJT化への取り組み/定性評価総論」や、「M&A知的財産権」、「資金調達における定性評価」、「必須特許についてのパテントプールにおける重み付けの評価」等、内容がとてももりだくさんで、時間が足りないくらいで、内容がスキップされたところもありましたが、とても参考になりました。


 特に、最初の丸島儀一先生の「定性評価業務OJT化への取り組み/定性評価総論」では、攻め及び守りの知財と、コア技術とノンコア技術との関係等、知財と事業戦略との関係等の点から、企業内弁理士として大いに共感するところがあり、とても参考になりました。


 さて、本日は、『平成19(ワ)17762 損害賠償請求事件 実用新案権 民事訴訟「筆記具のクリップ取付装置事件」平成21年02月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090306100200.pdf)について取上げます。


 本件は、実用新案権に基づく損害賠償事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、侵害訴訟における被告による特許法第104条の3の特許無効の抗弁に対する、原告による再抗弁である訂正についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官 國分隆文)は、


『(2)小括

 以上によれば,本件考案は,当業者が丁3考案からきわめて容易に考案をすることができたものであるから,平成5年法律第26号による改正前の実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができないものであり,本件考案に係る実用新案登録は,平成5年法律第26号による改正前の同法37条1項1号により無効とすべきものであるから,実用新案法30条によって準用される特許法104条の3第1項の規定に基づく権利行使の制限が認められる。


3 争点3(本件訂正請求が認められることにより,本件考案の無効理由が解消され,本件考案に係る本件実用新案権の行使が許容されるか)について


(1)実用新案権による権利行使を主張する当事者は,相手方において,実用新案法30条,特許法104条の3第1項に基づき,当該実用新案登録が無効審判により無効にされるべきものと認められ,当該実用新案権の行使が妨げられるとの抗弁の主張(以下「無効主張」という。)をしてきた場合,その無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)をすることができると解すべきである最高裁判所平成18年(受)第1772号同20年4月24日第一小法廷判決参照)。


 本件において,被告及び補助参加人らは,本件考案が,当業者において丁3考案からきわめて容易に考案をすることができたという無効理由を有しているとして,無効主張をしており,上記2のとおり,その無効主張を認めることができる。また,本件登録実用新案の実用新案登録無効審判事件においては,上記前提となる事実等(3)のとおり,本件訂正請求を認めつつ,本件訂正考案についての実用新案登録を無効とする旨の審決がされたが,同審決が確定したことを認めるに足りる証拠はない。


 このような事情の下で,原告は,本件訂正請求により,上記の無効理由が解消される旨の対抗主張をしているところ,当該主張については,上記の無効主張と両立しつつ,その法律効果の発生を妨げるものとして,同無効主張に対する再抗弁と位置付けるのが相当である。


 そして,その成立要件については,上記権利行使制限の抗弁の法律効果を障害することによって請求原因による法律効果を復活させ,原告の本件実用新案権の行使を可能にするという法律効果が生じることに照らし,原告において,その法律効果発生を実現するに足りる要件,すなわち,。
(i)原告が適法な訂正請求を行っていること,
(ii)当該訂正によって被告が主張している無効理由が解消されること,
(iii)被告製品が当該訂正後の請求項に係る考案の技術的範囲に属することを主張立証すべきであると解する。


 以下,本件の事案の性質を考慮し,まず,上記(ii)の要件について検討する。


 ・・・省略・・・


ウ 小括

 以上により,本件訂正請求によって生じる相違点については,いずれも,当業者にとって,丁3考案及び周知技術に基づき,その構成を採用することがきわめて容易なものであるというべきであるから,本件訂正請求によって,被告及び補助参加人らが主張する無効理由が解消されるものとは認められない。


第4 結論

 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告は,被告に対し,本件考案に係る本件実用新案権を行使することができないというべきである。


 よって,原告の請求は理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


  なお、本判決文中で引用している最高裁判決は、昨年の4/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080426)でも取上げた、

●『平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求「ナイフの加工装置事件」平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424152947.pdf)です。


  また、本件では、訂正による再抗弁が認められず、特許法第104条の3による特許無効の抗弁が認められてしまいましたが、本件と同様に侵害訴訟における被告による特許法第104条の3の特許無効の抗弁に対する再抗弁の訂正について判示した、例えば、


●『平成15(ワ)16924 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟「多関節搬送装置,その制御方法及び半導体製造装置事件」平成19年02月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070301170251.pdf)では、


6 本件特許発明1の無効理由が本件訂正により解消されるか(争点6)。

 前記5に認定したところによれば,本件特許発明1は乙1発明及び乙7発明から容易に想到し得た発明である,との無効理由を有する。


 しかし,本件特許については,その無効審判事件において,本件訂正の請求がなされており,特許庁は,その審決において,本件訂正を認め,本件訂正特許1を無効と判断したものの,原告が同審決に対し審決取消訴訟を提起したために,未だ本件訂正が確定していない状況にある。


 特許法104条の3第1項における「当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるとき」とは,当該特許について訂正審判請求あるいは訂正請求がなされたときは,将来その訂正が認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるかどうかにより判断すべきである。


 したがって,原告は,訂正前の特許請求の範囲の請求項について容易想到性の無効理由がある場合においては,
(i)当該請求項について訂正審判請求ないし訂正請求をしたこと,
(ii)当該訂正が特許法126条の訂正要件を充たすこと,
(iii)当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること(特許法29条の新規性,容易想到性,同36条の明細書の記載要件等の無効理由が典型例として考えられる。) ,
(iv)被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属することを,主張立証すべきである。

本件においても,原告は,同趣旨の主張をするので,以下,この点について判断する。


(1)本件訂正請求が特許法126条1項,3項及び4項の訂正要件を満たすといえるか(争点6−2)。


 ・・・省略・・・


(4) 小括

 以上によれば,本件訂正は未だ確定していないものの,訂正要件を満たすものであり,本件訂正特許発明1について被告が主張する無効理由は認められず,かつ,被告各製品は,本件訂正特許発明1の技術的範囲に属するものである。


 そうすると,本件特許発明1に係る特許が特許無効審判により無効とされるべきものとは認められないから,特許法104条の3第1項に基づく被告の無効の抗弁は認められない。』

 というように、訂正請求による再抗弁が認められ、特許の無効の抗弁が認められなかった、という事案もあります。


 本件とは結果が異なりますので、詳細は、両判決文を参照して下さい。