●平成20(ワ)4056損害賠償請求事件「ポータブル型画像表示装置」(1)

 本日は,『平成20(ワ)4056 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「ポータブル型画像表示装置事件」平成21年03月05日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090305171211.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害に基づく損害賠償請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件の被告は、任天堂株式会社で、対象製品は、「ニンテンドーDS Lite」です。


 本件では、平成5年法改正前の要旨変更の補正の判断基準が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


『1 争点3−3−1(要旨変更1)について

(1) 要旨変更の判断基準


 「明細書の要旨」とは,旧特許法上その意義を定めた明文の規定がないものの,特許請求の範囲に記載された技術的事項を指すものと解すべきである。


 したがって,特許請求の範囲を増加し,減少し,変更することは,その本来的意味においては,いずれも明細書の要旨を変更するものということができる。


 しかし,「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と定めているから(旧特許法41条),当該補正が明細書の要旨を変更することになるか否かは,結局のところ,当該補正後の特許請求の範囲に記載された技術的事項が「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」か否かによって決せられることになる。


 そして,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,出願時の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,このように導かれる技術的事項との関係において,当該補正が特許請求の範囲の記載に新たな技術的事項を導入するものであるときは,当該補正は,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,明細書の要旨を変更するものということになる。


 以下,このような見地から本件補正が当初明細書の特許請求の範囲に記載された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものであるか否かを検討する。 』


 と判示されました。


 本件では、大阪地裁は、

「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,出願時の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,このように導かれる技術的事項との関係において,当該補正が特許請求の範囲の記載に新たな技術的事項を導入するものであるときは,当該補正は,「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,明細書の要旨を変更するものということになる。

 と判示していますが、この「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」の内容は、昨年の08年5月30日の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080530)で取上げた知財高裁大合議事件である、

●『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法事件」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)、

 において判示された、


すなわち,「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。


 と同じようです。


 なお、被告が天堂株式会社で、対象製品が「ニンテンドーDS Lite」というと、「ゲームボーイアドバンス」が特許侵害対象製品として訴えられた、

●『平成18(ネ)10007 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟「図形表示装置及び方法事件」平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929110516.pdf)、

 が思い出されます。


 本件は、侵害訴訟における知財高裁の考え方を示している事案として、とても参考になる事案と思っています。


 この知財高裁判決は、本日記でも、07年4月19日(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070419)と、07年4月20日http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070420)に取上げていますので、興味のある方は、そちらも参照下さい。


 長くなりそうなので、本件における要旨変更の具体的判断は、明日取上げたいと思います。