●平成20(行ケ)10309 審決取消請求事件 商標権「株式会社オプト」

 本日は、『平成20(行ケ)10309 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「株式会社オプト」平成21年02月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090227091303.pdf)について取上げます。


 本願は、商標登録出願の拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、拒絶審決の理由である(商標法4条1項8号)の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。


2 取消事由の有無

(1) 商標法4条1項8号は,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」については,商標登録を受けることができない旨を規定する。このように,商標法4条1項8号は,他人の名称を含む商標については,他人の承諾を得ているものを除いては,商標登録を受けることができないと規定しており,それ以上に何らの要件も規定していない。


 そして,商標法4条1項8号の趣旨については,次のように解される。


 すなわち,商標法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからすると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解されるのであって,商品又は役務の出所の混同の防止を図る規定であるとは解されない最高裁平成15年(行ヒ)第265号平成16年6月8日第三小法廷判決・判例時報1867号108頁,最高裁平成16年(行ヒ)第343号平成17年7月22日第二小法廷判決・判例時報1908号164頁参照)。


 したがって,ある名称を有する他人にとって,その名称を同人の承諾なく商標登録されることは,同人の人格的利益を害されることになるものと考えられるのであり,この場合,出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか,いずれが著名あるいは周知であるといったことは,考慮する必要がないことになる。


 さらに,具体的な株式会社の商号(例えば「株式会社オプト」)から株式会社の文字を除いた部分(例えば「オプト」)は,商標法4条1項8号にいう「他人の名称の略称」に当たる(最高裁昭和57年(行ツ)第15号昭和57年11月12日第二小法廷判決・民集36巻11号2233頁参照)。


 したがって,それが著名なものでない限り,他人の株式会社なる文字を除いた部分と同一の名称の商標登録を受けることは,商標法4条1項8号によって妨げられることはない。


 以上のような諸点を考慮すると,他人の名称を含む商標については,他人の承諾を得ているものを除いては,商標登録を受けることができないというべきであって,出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか,いずれが著名あるいは周知であるといったことは,考慮する必要がないというべきである。


 他人の名称を含む商標の出願及び査定時において,当該他人が存在している場合に限り商標法4条1項8号が適用されること(商標法4条3項),同号に該当する商標であっても登録後5年を経過した後は無効審判請求をすることができないこと(商標法47条)は,上記判断を左右するものではない。


(2) 本願商標は,前記第2,2(1)のとおり,「株式会社オプト」(標準文字)というものであるところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本願の出願日(平成18年3月28日)前から(i)引用会社1の「株式会社オプト」(会社成立日昭和54年9月25日,甲1),(ii)引用会社2の「株式会社オプト」(会社成立日昭和63年9月1日,甲2),(iii)引用会社5の「株式会社オプト」(会社成立日平成11年2月10日,甲32)(iv)引用会社6の「株式会社オプト」(会社成立日平成12年10月6日[平成14年5月17日有限会社オプトから組織変更,同月21日登記],甲33)が各存在し,同各社は本願の拒絶査定時(平成19年10月4日)においても存在したものと認められ,また,本願商標の登録について同各社の承諾があるとも認められないから,本願商標は,他人の名称を含む商標として商標法4条1項8号によって商標登録を受けることができないものというべきである。


(3) 原告は,(i)商標法4条1項8号の適用に当たっては,「出願商標と同一の名称よりなる他人の人格的利益」と「出願人の商標登録の利益」とを比較衡量することが必要であり,商号商標が,文言上「他人の氏名,名称からなる」商標に該当するとしても,他人の人格的利益が毀損されるおそれがないことが明らかな場合,「他人の人格的利益」の保護の必要性に比して「出願人の商標登録の利益」が著しく高い場合には,商標法4条1項8号に該当しないと判断されて然るべきである,(ii)本件については,本願の指定役務と各引用会社の事業内容とが異なるから,本願が原告によって登録されたとしても,各引用会社の人格権が毀損されるおそれはない,(iii)本願商標は,本願の指定役務の分野において,原告の商標として周知性を獲得しているところ,各引用会社が本願の指定役務の事業を行っていないことを併せ考慮すると,原告による本願商標の登録の必要性は,各引用会社の人格的利益を保護する必要性に比して極めて高い,と主張する。


 しかし,上記(1)で述べたとおり,商標法4条1項8号該当性を判断するに当たっては,出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか,いずれが著名あるいは周知であるといったことは,考慮する必要がないというべきである。


 原告が主張するように,本願の指定役務と各引用会社の事業内容とが異なる,あるいは本願商標が本願の指定役務の分野において原告の商標として周知性を獲得しているとしても,本願商標の登録によって引用会社1,2,5,6の人格的利益が害されないということにはならないというべきである。


 したがって,原告が主張する上記(ii),(iii)の各事情は,商標法4条1項8号に該当しないというべき事情とはいえないものである。


(4) 原告は,学説(網野誠「商標(第6版)」337頁[平成14年6月30日株式会社有斐閣発行,甲19の2]),審査実務に関する解説(工藤莞司「商標審査基準の解説(第3版増補)」149頁[平成14年10月29日社団法人発明協会発行,甲19の1])について主張するほか,東京高裁昭和44年(行ケ)第6号事件の事案の内容や過去の審決例(甲38〜40,甲71〜73,乙1〜5)についても主張するが,それらは,当裁判所の上記判断を何ら左右するものではない。


(5) したがって,本願商標は,他人の名称を含む商標として,商標法4条1項8号によって商標登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,これを認めることができない。


3 結論


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本判決中で引用している3つの最高裁判決は、

●『平成15(行ヒ)265 商標権 行政訴訟「LEONARD KAMHOUT事件」平成16年06月08日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314112738.pdf

●『平成16(行ヒ)343 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟国際自由学園事件」平成17年07月22日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/266505E148773C5C49257046002681F8.pdf

●『昭和57(行ツ)15 審決取消 商標権 行政訴訟「月の友の会事件」昭和57年11月12日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D71F1793C286075949256A8500311FA8.pdf)

 です。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。