●平成20(行ケ)10115 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 今日は、昔の弁理士受験仲間と自宅の近くで2人で飲んできました。近況を報告し合い、とても懐かしかったです!


 さて、まだアルコールが残っていますが、本日は、『平成20(行ケ)10115 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成21年02月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090225154749.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容され、拒絶審決が取り消された事案です。


 本件では、本願補正発明の請求項における「試験の監督データ」の用語の意義の解釈が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 榎戸道也、裁判官 浅井憲)は、


『(3) 検討


ア 前記(1)イ及び(2)イによれば,本願補正発明の「試験の監督データ」と引用発明の「異常事態報告記録」に係るデータとは,試験中の機器のトラブル等の問題に関連する情報を対象とし,当該情報が試験の結果に影響し得るとの点では,共通する部分を有するといえなくもない(ただし,引用発明の「異常事態報告記録」に係るデータは,機器のトラブル等が試験中に発生したという事実そのものを対象とするのに対し,本願補正発明の「試験の監督データ」は,当該トラブル等が発生したことについての中央ステーションの技術者等と受験者との間のやり取りの内容を対象とするものである。)。


 しかしながら,本願補正発明の「試験の監督データ」は,当該試験の有効・無効の完全な判定を実現するために必要とされる一切のデータを意味するところ,第一次的には,狭義の試験監督のためのデータであり,その中心となるものは,ビデオカメラにより試験中継続して記録されるオーディオ・ビジュアルデータである。


 これに対し,引用発明においては試験の有効・無効の完全な判定という目的を欠くがゆえに,引用発明の異常事態報告記録データ等の対象に,狭義の試験監督に関連する情報を含んでいないのであるから,両者は,質的に相違するものといわざるを得ず,したがって,引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)が本願補正発明の「試験の監督データ」の一部にたまたま含まれる関係にあるからといって,両者が一致するものと認めることはできないというべきである。


イ 被告の主張は,要するに,本願補正発明の「試験の監督データ」の内容に限定はなく,試験の有効性の判断に供されるデータがすべて含まれるとした上,引用発明の異常事態報告記録データ等にも試験の有効性の判断に供されるデータが含まれるのであるから,後者は前者に相当するというものである。


 しかしながら,そもそも,引用発明と対比した場合の本願補正発明の主たる新規性は,試験会場に管理者の配置を不要にしながら,試験の有効・無効の判定までを可能にするシステムを構築するという点にあり,本願補正発明において,上記オーディオ・ビジュアルデータを中心とした「試験の監督データ」を記録するなどの構成が,上記システムを実現するに当たり必須のものであることは明らかである。


 このように,本願補正発明の「試験の監督データ」に係る構成は,本願補正発明の新規性の本質部分を成すものであるところ,本願補正発明の「試験の監督データ」と引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)との対比判断に当たり,本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義が特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することができないものであるにもかかわらず,当該技術的意義を本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して具体的に明らかにすることなく,特許請求の範囲の記載から形式的に導き出される「試験の有効性の判断に供されるすべてのデータ」との包括的な概念を用いることによって,両者の具体的な内容の相違,すなわち,狭義の試験監督に係るデータを含むか否かという重要な相違を捨象するのは,本願補正発明の新規性の本質を看過するものといわざるを得ない。


 したがって,被告の上記主張を採用することは到底できないというべきである。


ウ その他,引用発明の「テスト状況記録データ」(異常事態報告記録データ等)が本願補正発明の「試験の監督データ」に相当するものと認めるに足りる証拠はない。


(4) 小括


 以上のとおりであるから,審決は上記の点で一致点を誤認したものであり,取消事由2は理由がある。


2 結論


 よって,原告の請求は理由があるから,これを認容するのが相当である。』


 と判示されました。


 つまり、本件では、知財高裁は、本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義は、特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することができないため、明示はしていませんがリパーゼ最高裁の例外により、当該技術的意義を本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すべきであり、当該技術的意義を本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して判断していない特許庁審判官の判断には、その判断に誤りがあり、拒絶審決を取り消す、と判断したようです。


 でも、個人的には、本願補正発明の「試験の監督データ」の技術的意義は、あまりにも広い概念であり、かかる広い概念の請求項の用語のまま特許を認めるのは、特許庁のなす行政処分という観点から広すぎるように思うので、特許を受けようとする発明が不明確等の36条6項2号の特許請求の範囲の記載要件違反により、拒絶審決すべきものではないか、と思います。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。