●平成19(行ケ)10424審決取消請求事件「無線式ドアロック制御装置」

 本日は、『平成19(行ケ)10424 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「無線式ドアロック制御装置」平成21年02月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090225145110.pdf)について取上げます。


 本件は、被告が無効審判請求を行ったところ請求不成立の旨の審決(第1次審決)をし、これに不服の被告が,審決取消訴訟を提起し,上記審決(第1次審決)を取り消す旨の判決をし,同判決が確定したので、再度特許庁において無効審判の審理を続け請求成立の特許無効審決(第2次審決)をしたため、その取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、最高裁判決を引用して、審決取消訴訟における判決の拘束力は、再度の審判手続に及ぶと判示した点が、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、


『1 審決取消訴訟において,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないと認定判断することは許されないのであり,したがって,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえない)として,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることは許されない最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。


 しかるに,前記のとおり,平成18年9月27日になされた第1次審決(甲12)の,請求不成立との判断は,平成19年4月25日言渡しの第1次判決(甲20)により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決(第2次審決)を担当する審判官は,第1次判決(甲20)の有する拘束力の下で判断しなければならないことになる。


 以上の見解に基づき,以下検討する。


2 平成18年9月27日になされた第1次審決(甲12)は,本件発明につき,次の(1)〜(5)の内容を含む認定判断をした。


…(中略)…


3 これに対し,平成19年4月25日に言い渡されその後確定した第1次判決(甲20)は,カルソニックカンセイ株式会社主張の取消事由として次の(1)の内容を含む主張を摘示し,これに対する株式会社デンソーの反論として次の(2)の内容を摘示した上,取消事由に対する判断として次の(3)の内容を説示して,第1次審決を取り消した。


…(中略)…


4 以上の2,3に照らせば,第1次判決(甲20)は,刊行物1(甲1)から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの理由により,第1次審決(甲12)の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであること,かかる第1次判決が確定したことが認められる。


 しかるに,このような場合は,前記1に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第1次判決(甲20)の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物1〔甲1〕)から本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないと認定判断することは許されないこととなる。


 そうすると,差戻し後の審判官が,本件審決において「本件発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項,並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(15頁21行〜23行),「本件発明は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項,並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,…無効とすべきである。」(15頁25行〜29行)と判断したことに誤りはないから,その余の点について判断するまでもなく,原告が主張する取消事由1(相違点の認定の誤り),取消事由2(相違点の判断の誤り)はいずれも理由がない。


5 結語


 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は理由がない。


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本件中で引用している最高判決は、

●『昭和63(行ツ)10 審決取消 特許権 行政訴訟「高速旋回式バレル研磨法事件」平成4年04月28日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/934C4EDEBB08344A49256A8500311E8C.pdf)であり、

 ・・・『1 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは、審判官は特許法一八一条二項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法三三条一項の規定により、右取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。


 したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは右主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。』

 等と判示されています。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。