●平成20(行ケ)10347商標審決取消請求事件「ELLEGARDEN」

 本日は、『平成20(行ケ)10347 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ELLEGARDEN」平成21年02月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090225093437.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法51条(不正使用による商標登録の取消し)に基づく商標登録の取消審判の認容審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法51条(不正使用による商標登録の取消し)における、業務に係る商品等との混同惹起性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、


「(1) 原告は,本件使用表示の使用が商標法51条1項に該当しない根拠として,ア 商標使用性,イ 使用主体性,ウ 被告の業務に係る商品等との混同惹起性,エ 故意性の4点を主張するが,事案の性質にかんがみ上記ウから検討する。


(2) 被告の業務に係る商品等との混同惹起性について(争点(ii))

ア 商標法51条1項は,商標権者が故意に登録商標に類似する商標の使用等であって他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるもの等をしたときは,何人もその商標登録を取り消すことについて審判を請求することができると規定し,同条2項は,前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決がなされたときは,商標権者であった者は,審決が確定した日から5年を経過した後でなければ,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品等について,その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができないと規定している。


 ところで商標権者は,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有するが,そのほかに,他人による類似商標の使用等が商標権侵害とみなされるため事実上類似商標の使用等も独占していることから,商標法51条は,商標権者自らが故意により上記にいう類似商標等の使用を行い,その結果他人の業務に係る商品等と混同を生じさせたときは,商標権者としての商標の正当使用義務に違反するのみならず,他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとし,商標権を不法に行使する者に対して制裁を課すとともに,第三者の権利及び一般公衆の利益を保護しようとしたものである(最高裁昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁集民147号587頁参照)。


 上記のような商標法の趣旨に照らせば,同法51条1項にいう「商標の使用であつて…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標が他人の商標と類似するというだけでは足りず,その具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれを有するものであることが必要と解される。


 以上のような観点から,(i)本件使用表示が引用商標に類似するか,(ii)本件使用表示の具体的表示態様が被告の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれを有するものであるかについて,以下検討する。


イ 引用商標との類否につき

 … …

ウ 本件使用表示の具体的表示態様につき

 … …

(エ) 以上を前提として,本件使用表示の具体的表示態様が被告の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれを有するかについて検討する。


 需要者が本件コンパクトディスクを購入しようとするときには,本件使用表示と共に「ELLEGARDEN」や「エルレガーデン」の文字を見ることとなる。そして一般に音楽作品,特にロックバンドの演奏を収録したコンパクトディスクには,当該アーティスト名(ロックバンド名)と当該コンパクトディスクの表題が併記されるのが通常であることから,本件コンパクトディスクに表記された「ELLEGARDEN」「DON’T TRUST ANYONE BUT US」の一方がアーティスト名を示し,他方が表題を示すものであることが容易に推測でき,「ELLE」と「GARDEN」を組み合わせて成る本件使用表示がアーティスト名ないし表題である「ELLEGARDEN」を表すものであることが容易に理解される。


 したがって,「ELLEGARDEN」が本件ロックバンドの名称であることを知っている需要者はもちろん,これを知らない需要者であっても,本件コンパクトディスクに接した場合に本件使用表示が「ELLE」ブランドと何らかの関係を有するものと誤認混同するおそれはないというべきである。


(オ) なお,原告が運営するホームページ上でも本件使用表示が使用された(甲3の2)が,上記ホームページには「ELLEGARDENのホームページへようこそ。このページはバンドの最新情報やスケジュールを公開するとともに,応援してくれるみんなが交流できる場を設けることを目的として運営されています。」と記載され,本件ロックバンドが平成10年12月31日に結成されてからの活動の歩みについての説明文が掲載されている(甲3の1,2)ことから,本件ロックバンド及びその活動を紹介するためのものであることが明らかであり,上記ホームページ上における本件使用表示の使用も被告の業務等に係る商品等と混同を生じさせるおそれを有するものではない。


エ 以上によれば,本件使用表示は引用商標に類似するものの,本件コンパクトディスク等における具体的表示態様は被告の業務に係る商品等と混同を生じさせるおそれを有するものとはいえないから,商標法51条1項にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」ということはできない。


 3 結語

 以上のとおり,本件使用表示の本件コンパクトディスクにおける具体的表示態様が被告の業務に係る商品等と混同を生じさせるおそれを有するものでないから,これを肯定した審決の判断は,その余について判断するまでもなく誤りであることになる。


 よって,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


なお、本事件中で引用している最高裁判決は、

●『昭和58(行ツ)31 商標権 行政訴訟「トラピスチヌの丘事件」昭和61年04月22日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314164410.pdf

 です。


 詳細は、本判決文を参照してください。