●「電話番号情報の自動作成装置事件」の地裁・高裁の判断について

Nbenrishi2009-02-22

 07/4/19の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070419)の最後の方でも取上げましたが、「法律知識ライブラリー5 特許・知識・商標の基礎知識」(牧野利秋編 青林書院)の「38 特許発明の技術的範囲」の欄では、


 『(ロ)次に、「第3項4項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」という規定(特36条第6項1号)に照らしても明らかなように、特許請求の範囲に記載された発明の内容は、発明の詳細な説明によって基礎づけられていなければいけないから、発明の内容を理解するためには、明細書中の他の記載を参酌することになる。特許侵害訴訟の実務では、従前からこのようにして特許発明の技術的範囲を定めていた(最高昭50.5.27裁判民115号1頁は、実用新案の事案に関するものであるが、「実用新案の技術的範囲は、登録請求の願書添付の明細書にある登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるが、右範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する際の資料として右明細書の他の部分に記載されている考案の構造及び作用効果を考慮することは、なんら差し支えないものといわなければならない。」と判示している。)

  ・・・

 このように特許発明の技術的範囲を定めるには、特許請求の範囲のみならず、明細書全体の記載及び図面を参酌するのに対し、特許出願に係る発明の特許要件を審理する場合の発明の要旨の認定は、最判平3.3.8民集45巻3号123頁(※平成6年法改正により特許法第70条第2項の追加の一番の理由となったリパーゼ最高裁判決)が判示するとおり、「特段の事情がない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」と解すべきである。


特許発明の技術的範囲すなわち成立している特許権の効力の及ぶ客観的範囲を定める場合と、これから特許すべき発明の特許要件を審理する場合とで、その基準が異なることは当然のことといえよう。』(以上、「法律知識ライブラリー5 特許・知識・商標の基礎知識」から引用。)


 と書かれています。これを書かれたのは、元東京高裁判事の濱崎浩一先生です。


 今回地裁の、●『平成19(ワ)32525 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置」平成20年07月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080725101613.pdf)についての判断および、●『平成18(ネ)10007 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 「図形表示装置及び方法事件」平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929110516.pdf)における判断は、この従来の東京高裁時代からの解釈に沿うものと思います。


 このクレーム解釈は、特許発明の技術的範囲を実施例に限定するということまで言及していないことは勿論です。


 ところで、例えば、機能的クレームの技術的範囲について判示した有名な『磁気媒体リーダー事件』の判決文のただし書きの部分では、


ただし、このことは、考案の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するものでなく、実施例としては記載されていなくとも、明細書に開示された考案の記述に関する内容から当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。』、


 と言及されています。


 今回の控訴審の、●『平成20(ネ)10065 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置事件」平成21年02月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090218170611.pdf)の判断や、●『平成19(ワ)22449 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権「ホースリール事件」平成20年03月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080403130354.pdf)の判断は、この『磁気媒体リーダー事件』の判決文のただし書きの部分の判断に沿うものと思います。


 今後、地裁の特許権侵害事件や高裁の特許権侵害控訴事件で、どのような判断が出されるか、とても気になるので、ウオッチしていこうと思います。