●平成19(ワ)32525差止請求事件「電話番号情報の自動作成装置事件」

 本日は、昨日取上げた、●『平成20(ネ)10065 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置事件」平成21年02月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090218170611.pdf)の一審である、●『平成19(ワ)32525 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置」平成20年07月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080725101613.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」の意義について、昨日紹介した上記の知財高裁判決とは異なり、明細書に記載された実施例に限定して音声メッセージに限定解釈した点で、参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、


『1 争点1(構成要件充足性)について

 被告装置は,本件発明の構成要件Cを充足するものとは認められないから,被告装置は本件発明の技術的範囲に属さないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1) 構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」の意義について


ア 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。」というものである(前記第2の2(3)ア)。


 そして,上記特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明は,「接続信号中の応答メッセージ」に基づいて,「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の「3種類の番号に仕分け」する構成(構成要件C)を有していること,「応答メッセージ」は,「電話をかけたときの接続信号」中に含まれる構成要素であることが理解される。


 ところで,「メッセージ」は,電気・電子の技術分野においては,「任意の量の情報。その始めと終りは定義されているかあるいは暗黙にある。」(甲9)を意味する一方で,一般の用語としては,「(i)伝言。ことづて。口上。挨拶。(ii)言語その他の記号(コード)によって伝達される情報。」などを意味する(平成3年11月15日発行の「広辞苑第四版」2520頁),多義の語である。


 そこで,請求項1の「接続信号中の応答メッセージ」の意義を解釈するため,本件明細書の記載を参酌することとする。


イ(ア) 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。


 …省略…


(イ) 上記(ア)の記載及び図面(甲2)によれば,本件明細書には,(i)「接続信号」とは,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」であり,「接続信号」には,発信音,着呼音,話中音,「未使用電話に対する音」(例えば,「おかけになった電話番号は,現在使用されていません。」「・・・お客様の都合で移転しました。新しい番号は○○○○番です。」「・・・連絡先が変りました。新しい番号は○○○○番です。」「お客様の都合で一時取り外しています・・・」等の「音声メッセージ」),極性反転信号,「極性反転が発生しない特殊電話番号」等があること,(ii)本件発明において,「音声メッセージ」は「無効と判断するときの応答音」として認識されること,(iii)本件発明の実施例として,「音声メッセージ」は「ディジタル信号に変換して記憶領域に記憶」され,「所定のサンプリング音声と,サンプリング音声幅(音声の開始から終了までの時間幅)との2点において基準音声と比較」することにより,新電話番号を案内している電話番号(例えば「・・・移転のため電話番号が変りました・・・」や「・・・お客様の都合で連絡先が変りました・・・」),新電話番号を案内していない電話番号(例えば「・・・現在使われていません・・・」),一時取り外し案内しているが,新電話番号を案内していない電話番号(例えば「・・・お客様の都合で一時取り外しています。」)の3種類に判別し,自動仕分けすることが記載されていることが認められる。また,上記(ア)fのとおり,本件明細書において,「メッセージ」の語は,交換機から応答される音声アナウンス(音声の伝言)として使用されている。


(ウ) 他方で,本件明細書中には,「応答メッセージ」の語は使用されておらず,また,「音声メッセージ」以外の接続信号に基づいて,3種類の電話番号の判別・仕分けを行うことができることについての記載も示唆もない。


ウ 上記ア及びイの認定事実を総合すれば,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「接続信号中の応答メッセージ」(構成要件C)は,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」のうち,交換機から応答されて回線網を経て通知される「音声メッセージ」,すなわち,「音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報」を意味するものと解するのが相当である。


 そして,本件発明においては,音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報である「応答メッセージ」に基づいて,「新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」の「3種類の番号に仕分け」していること(構成要件C)が理解される。


(2) 被告装置の構成要件C充足性


 被告装置は,発呼を行ったときデジタル信号からなる切断メッセージが返された場合に,「切断メッセージ中の理由番号」に応じて「無効」,「移転」,「都合停止」等に電話番号を分類しているが,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,デジタル信号で表された番号(数字)の情報であって,音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報に該当しないから,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に当たらない。


 したがって,被告装置は,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・3種類の番号に仕分け」するとの構成を備えていないから,構成要件Cを充足しない。


(3) 原告の主張に対する判断


ア 原告は,「メッセージ」は,「任意の量の情報。その始めと終りは定義されているかあるいは暗黙にある。」を意味し,合目的的な情報のまとまりであり,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,本件発明の構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当する旨主張する。


 しかし,前記(1)ウで説示したとおり,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「接続信号中の応答メッセージ」(構成要件C)は,「電話を発信したときに発信側に返戻される信号音」のうち,「音声メッセージ」すなわち「音声(可聴音)として一定の意味内容を認識できる伝言情報」を意味するものである。


 加えて,本件発明は,「無効となった電話番号」を「接続信号中の応答メッセージに基づいて・・・3種類の番号に仕分けして」(請求項1)おり,構成要件Cの「応答メッセージ」は3種類の番号に仕分けするよりどころとなるものでなければならないが,原告の主張を前提とすると,「応答メッセージ」には,「応答情報あるいはその情報のまとまり」であれば,いかなる情報も含まれることになって,3種類の番号を仕分けするよりどころとならない情報をも含むものと解釈せざるを得なくなること,また,前記(1)イ(イ)及び(ウ)認定のとおり,本件明細書には,本件発明は,接続信号中の「音声メッセージ」に基づいて3種類の電話番号に仕分けすることが記載されている一方で,「音声メッセージ」以外の接続信号に基づいて3種類の電話番号の判別・仕分けを行うことができることについての記載も示唆もないことに照らすならば,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」が,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当するとの原告の主張は採用することができない。


イ 次に,原告は,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「応答メッセージ」(構成要件C)は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例の範囲に限定されるものではなく,「音の信号」に限定されるものではないから,被告装置の「切断メッセージ中の理由番号」は,本件発明の構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージ」に相当する旨主張する。


 しかし,前記アで説示したところと同様の理由により,原告の上記主張は採用することができない。


(4) まとめ


 以上によれば,被告装置は,構成要件Cを充足するものと認められないから,本件発明の技術的範囲に属さない。したがって,原告主張の被告による被告装置の製造,使用は,本件特許権の侵害に当たらない。


2 結論

 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 本件では、請求項1の「接続信号中の応答メッセージ」の「メッセージ」は、多義の語であるため、「接続信号中の応答メッセージ」の意義を解釈するため本件明細書の記載を参酌し、実施例中の音声メッセージであると解釈したようです。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。