●平成20(ネ)10065差止請求控訴「電話番号情報の自動作成装置事件」

 本日は、『平成20(ネ)10065 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置事件」平成21年02月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090218170611.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止請求控訴事件で、控訴が認められて原判決が取り消され、特許権侵害が認容された事案です。


 構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに応じて」について、一審の地裁では、実施例のものに限定して解釈したのに対し、本件の知財高裁では、実施例のものに限定せずにその充足性について判断した点で、本件は、とても参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『3 争点1−3(被告装置は,構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに応じて」,「一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号」,「の3種類の番号に仕分けして」を充足するか)について


(1) 「接続信号中の応答メッセージに応じて」の充足性について


ア 本件特許の特許請求の範囲(構成要件C)によれば,「応答メッセージ」は「接続信号」に含まれること,また,応答メッセージに基づいて,無効となった電話番号の中で3種類の番号に仕分けすることが記載されている。そして,本件明細書(甲2)には,この点に関して,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


イ 証拠(甲9)によれば,「メッセージ」とは「任意の量の情報」ないし「言語その他の記号によって伝達される情報内容」(広辞苑第6版2766頁)を指す。ところで,本件発明の詳細な説明には,実施例として,「応答音」を用いて3種類の番号に仕分けする手段が示されている。


 しかし,前記2で判断したとおり,構成要件Bにおける「接続信号」は,可聴信号に限られるものではなく,可聴信号及び非可聴信号の両者を含む上位概念と理解すべきであることに照らすならば,構成要件Cにおける「応答メッセージ」も,可聴なものに限られると解すべき根拠はなく,応答を受けた可聴情報及び非可聴情報の両者を含む上位概念と理解するのが相当である。


 したがって,「応答メッセージ」とは電話を発したときに応答される言語その他の記号によって伝達される情報を指すものと解するのが相当である(「信号」と「メッセージ」はいずれも情報を指すものであり,「応答メッセージ」を「接続信号」と異なる性質を有するものとして,可聴のものに限定する根拠はない。)。


 この点に対して,被告は,前記本件明細書の発明の詳細な説明中の「所定の応答音があるとき,無効電話であると判定し」との記載(段落【0011】)及び「ステップA0034において無効と判断するときの応答音としては,音声メッセージが認識される。」との記載(段落【0028】)から,構成要件Cの「応答メッセージ」は「応答音」のみを指し,「音声メッセージ」に限定されるものであると主張する。


 しかし,被告の上記主張は理由がない。前記のとおり,「応答メッセージ」は,必ずしも可聴音に限られるものではないし,上記段落【0028】の記載も,本件発明の構成を説明するために,「音声メッセージ」を例示したにすぎないから,同構成における「応答メッセージ」が,「応答音」ないし「音声メッセージ」に限定されるとする根拠とはならない。被告の上記主張は採用できない。


ウ 被告装置は,別紙物件目録記載のとおり,切断メッセージ中の理由番号に応じて,当該電話番号を「有効」,「無効」等に分類するものであるから,被告装置の「理由番号」を含む切断メッセージは,「応答メッセージ」に該当することは明らかである。


 この点に対して,被告は,被告装置はISDNの切断メッセージに基づいて電話番号の分類を行うものであり,着呼音,極性反転信号又は話中音の有無と音声メッセージの存否をもって無効電話番号と判定する技術思想を用いるものではないから構成要件Cを充足しないと主張する。


 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,(i)本件特許の特許請求の範囲(構成要件C)には,「接続信号中の応答メッセージ」と記載され,可聴音に限定する記載はないこと,(ii)したがって,本件発明は,その技術思想として「応答メッセージ」によって無効電話番号を判別する技術が開示されていると解されること,(iii)証拠(甲16,17)によれば,本件特許出願時において,既にISDN技術が存すること,ISDNの網から応答される情報を取得し,同情報に基づいて電話番号の有効性を判別することが知られていたことからすれば,本件明細書に接した当業者としては,本件発明においては,ISDN技術を除外して,上記の技術思想が開示されていると認識することはないというべきである。


 したがって,仮に本件明細書における実施例が音声メッセージによって無効電話番号を判別する技術に関するものであっても,それはあくまで実施例として示されたにすぎないと解すべきであるから,本件発明の技術的範囲が音声メッセージに限定されるものではない。


 したがって,被告の上記主張は理由がない。


 ・・・省略・・・


4 小括


 以上のとおり,被告装置は構成要件AないしCを充足するものであり,また被告装置は,その内容からして「電話番号情報の自動作成装置」に該当するので,構成要件Dも充足する。


 したがって,被告装置は本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。』


 と判示されました。


 明日、本件知財高裁事件における判断とは異なり、構成要件Cの「接続信号中の応答メッセージに応じて」について実施例のものに限定して解釈した本件の一審判決である、●『平成19(ワ)32525 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟「電話番号情報の自動作成装置」平成20年07月24日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080725101613.pdf)における判断について取上げようと思います。


 なお、●『平成18(ネ)10007 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 「図形表示装置及び方法」平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929110516.pdf)等が出されたときは、権利者側に少し厳しい時代だなと思いましたが、昨年出された、●『平成19(ワ)22449 特許権侵害行為差止等請求事件 特許権「ホースリール」平成20年03月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080403130354.pdf)では、本発明の技術的思想を考慮して実施例に限定せずに侵害を認め、その控訴審でもかかる一審の判断が認容されていますので、少しずつですが権利者の保護を厚くするプロパテントよりの判断になっているのかな、と思いました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。