●昭和61年に出された知財事件の最高裁判決(3)

 本日は、昭和61年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている残りの最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和58(行ツ)31 商標権 行政訴訟「トラピスチヌの丘事件」昭和61年04月22日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314164410.pdf


・・・『3 商標法五一条一項は、商標権者が登録商標を不当に使用することによつて、一般公衆が商品の品質を誤認したり又は他人の業務に係る商品との間に混同を生じたりすることがないように、登録商標の不当使用者に対し、その登録商標の登録を取り消し、もつて一般公衆の利益を保護することを主要な目的とするものであるから、本件和解が存在するとしても、その和解によつて、上告人の本件登録商標の不当使用の違法性を阻却する事由となるものではない。


4 よつて、本件審決は誤りであるから、その取消を求める被上告人の本訴請求は理由がある。


四 しかしながら、記録によれば、本件和解調書である乙第一号証の本件和解条項には、被上告人が上告人に対してその使用を認めた商号商標として、ローマ字表示のものは具体的に図示してその表示態様に制限が付されているが、片仮名文字で表示する「C・コンフエクト」についてはその表示態様に格別制限が付されていないことが窺われるうえ、本件和解条項には、本件登録商標につき「C・コンフエクト」と表示されているが、本件登録商標は、実際には「C」と「コンフエクト」との間に、「点」がないものであることが窺われるから、本件和解条項に、被上告人が上告人に対してその使用を認めたものとして、ローマ字表示のもののほか、片仮名文字の「C」と「コンフエクト」との間に「点」があるものが記載されているという形式的な事項を過大に評価することはできず、このことのみによつて、本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたものに当たらないと即断することはできないものといわなければならない。


 本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたものに当たるか否かは、本件和解条項全体の具体的な内容のほか、上告人が従来からその製造に係る洋菓子に商号商標「C・コンフエクト」を、「C」に付帯して「コンフエクト」をやや小さく、あるいは「C」と「コンフエクト」を二段に分けて表示使用しており、そのような使用状況を前提として本件和解がなされたとする上告人の主張事実をそのとおり認めることができるか否かをも総合して、本件和解条項の文言の意味するところを検討したうえで認定すべきものである。


 しかるに原審は、右のとおりこれらの点について検討を加えず、本件和解条項の一部の形式的な事項のみをとりあげて、本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたものに当たらないと認定したものであるから、原判決には、本件和解条項の解釈について審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。


 ところで、商標法五一条一項の規定は、本来商標の不当な使用によつて一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり、需要者一般を保護するという公益的性格を有するものであることはいうまでもない。


 しかしながら、商標法は、出所の混同については、これを商標の不登録事由としているが(同法四条一項一五号)、商標登録が右規定に違反してされた場合の無効審判の請求に五年の除斥期間を設け(同法四七条)、また、更新登録の際の登録拒絶事由にしていない(同法一九条二項ただし書、二一条)のであつて、出所の混同を生ずるような商標が一旦登録され、その状態が五年以上継続すると、登録を受けた商標権者の利益の方を保護すべきものとし、出所の混同の被害者である営業者や一般公衆の利益を後退させているのである。


 このような出所の混同を生ずる商標に関する商標法の規定の趣旨をも勘案すると、上告人による本件各使用商標の使用が被上告人の業務に係る商品である洋菓子と混同を生ずるもので、同法五一条一項所定の要件を充たしているとしても、上告人が主張するとおり、本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたもの、換言すれば、被上告人がその登録商標に基づく禁止権を放棄したものに当たり、しかも、本件和解において、被上告人が上告人に対し、上告人が出願した本件登録商標に対する登録異議の申立を取り下げてそれが登録されることを認め、その対価として被上告人が和解金として上告人から一二〇万円を受領し、その結果、上告人が本件各使用商標を使用継続したという事実が認められるとすれば、被上告人は、たとえ公益的性格を有する同項に基づいてであつても、自ら本件登録商標の登録を取り消すことについて審判を請求することは、信義則に反するものとして許されないものといわなければならない。


 そうすると、原判決の前記違法は、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、以上と同旨をいう論旨は理由があり、原判決は、破棄を免れない。そして、本件についてさらに審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。』、等と判示した最高裁判決。



●『昭和60(行ツ)68 商標権 行政訴訟「GROGIA/ジョージア事件」昭和61年01月23日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314103546.pdf))


 ・・・『商標登録出願に係る商標が商標法三条一項三号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには、必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず、需要者又は取引者によつて、当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもつて足りるというべきである。


 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件商標登録出願に係る「GEORGIA」なる商標に接する需要者又は取引者は、その指定商品であるコーヒー、コーヒー飲料等がアメリカ合衆国のジヨージアなる地において生産されているものであろうと一般に認識するものと認められ、したがつて、右商標は商標法三条一項三号所定の商標に該当するというべきである。


 これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、これと異なる見解に基づき原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。』、等と判示した最高裁判決。