●平成20(行ケ)10311 商標登録取消決定取消請求事件

 本日は、『商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年02月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090212110346.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項11号を理由とする商標登録異議申立てにおける取消し決定の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容され、本件商標は商標法4条1項11号に該当しない、と判示された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における類比の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、


『 原告は,本件商標と引用商標1との類否判断の誤りを主張するので,以下この点について検討する。


(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。


 そして,商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうちその一つにおいて類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 そこで,上記の観点から以下検討する。


(2) 本件商標及び引用商標1の内容

ア 本件商標は,前記第2,記(1)のとおりの文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれると共に, の文字の下に2段にわたって及びという文字が,比較的小さく表記されているものである。


イ 引用商標1は,前記第2,記(2)のとおり, の文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれているものである。


(3) 本件商標と引用商標1の対比


 ・・・省略・・・


(4) 以上に対し被告は,引用商標1の著名性を考慮すると,本件商標と引用商標1とに観念上の錯誤が生じ,その結果,本件商標から「周知著名なプーマの商標」(「PUMA」ブランド)の観念及び「プーマ」の称呼が生じると主張するので,この点につき検討する。


ア (ア) 「PUMA」ブランドは,ドイツのバイエルン州ヘルツオーゲンアウラッハを拠点としてスポーツシューズを販売していたダスラー兄弟の弟ルドルフが1948年(昭和23年)に独立して会社を設立し,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をブランド・マークとしたものである(乙2,乙3)。


(イ) 「PUMA」ブランドに関して,ピューマの動物図形を用いた商標で我が国で商標登録されたものとしては,次のものがある(甲3〜5,7)。


 ・・・省略・・・


 これらの商標の構成をみると,「PUMA」の文字と動物図形が組み合わされたもののほか,「SPORTCAT」,「FLYING PUMA」,「PUMADISC SYSTEM」,「PUMA CELL」などの文字と組み合わされたもの,動物図形のみのものなど多岐にわたるが,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているピューマが側面から見た姿でシルエット風に描かれているという点で共通している。


 これらのピューマの図柄は,体全体の輪郭が流れるような曲線によって描かれている点や,先端だけ若干丸みを帯びた細長い尻尾が右上方に高くしなるように伸び,大きく後ろへ伸びた後足と対称をなしている点で特徴的であり,全体として敏捷でスマートな印象を与えるものである。このようなピューマの図柄は,上記各商標においてほぼ統一されたものとなっている。



(ウ) そして,我が国において販売されているスポーツシューズ,スポーツウェア,バッグ等のカタログでも,上記商標に描かれているものと同様のピューマの図柄が商品に使用されている(乙5〜乙7)。


(エ) 以上によれば,「PUMA」ブランドは,上記のような特徴的なピューマの図柄によって取引者・需要者に印象付けられ,記憶されているものということができる。


イ これに対して本件商標における動物図形は,たしかにその向きや基本的姿勢,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中・腹から足にかけての曲線の描き方において上記「PUMA」ブランドの商標と似ている点があるものの,取引者・需要者に印象付けられる特徴は「PUMA」ブランドの商標とは異なるものである。


 すなわち,本件商標に描かれた動物は,「PUMA」ブランドのピューマに比べて頭部が大きく,頭部と前足の付け根部分とが連なっているために,上半身が重厚でがっしりとした印象を与える。


 また,「PUMA」ブランドのピューマには模様は描かれず,輪郭のラインやシルエットですっきりと描かれているのに対し,本件商標では首,前足・後足の関節,尻尾に飾りや巻き毛のような模様が描かれている。


 さらに,「PUMA」ブランドのピューマの特徴である,右上方に高くしなるように伸びた細長い尻尾の代わりに,全体的に丸みを帯びた尻尾が描かれている。


 このように本件商標の動物図形は,「PUMA」ブランドのピューマとは異なる印象を与えるものである(なお,甲19〜29〔枝番を含む〕によれば,本件商標は主として,原告が代表取締役を務める観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易が観光土産品たるTシャツ・エコバッグ雑貨等を販売する際に使用されている。)。


ウ そうすると,「PUMA」ブランドのピューマを記憶している取引者・需要者は,本件商標に接したときに「PUMA」ブランドのピューマを連想することがあるとしても,本件商標を「PUMA」ブランドの商標とまで誤って認識するおそれはないというべきである。


エ したがって,本件商標から「PUMA」ブランドの観念や「プーマ」の称呼が生じるということはできない。


(5) 以上のとおり,本件商標と引用商標1とは,外観においても観念・称呼においても異なるものであり,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は引用商標1に類似するものではなく,決定は商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものである。


3 結語


 よって,本件異議決定の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本件中で引用している最高裁判決は、

●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

 です。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。