●平成20(行ケ)10295商標権「SPORTS LABORATORY」

 本日は、『平成20(行ケ)10295 審決取消請求事件(商標権・行政訴訟「SPORTS LABORATORY」平成21年01月29日知的財産高等裁判所)(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129163712.pdf』について取上げます。


 本件は、昨日紹介した事件と同様に、商標法4条1項11号を理由とする拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類否の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 今井弘晃)は、


『2 取消事由の有無

(1) 本願商標と引用商標の構成態様について

ア 本願商標は,上段に「SPORTS LABORATORY」の文字,下段に「sportsman.jp」の文字をいずれも青色で表してなるものであるところ,下段の「sportsman.jp」は,上段の文字に比して,略4倍ほどの大きさで,かつ,かなり太い線で表されている。


イ 引用商標1(登録第153376号)は,「SPORTSMAN」の文字を横書きし,その下に「スポーツマン」の文字を縦書した構成からなるものである。


 引用商標2(登録第665104号)は,「SPORTSMAN」及び「スポーツマン」の文字を上下二段に横書きしてなるものである。


 引用商標3(登録第2627139号)及び引用商標5(登録第4225145号)は,「SPORTSMAN」の文字を横書きしてなるものである。


 引用商標4(登録第3332636号)は,「SPORTS MAN」の文字を横書きしてなるものである。


(2) 本願商標と引用商標の類否について

ア 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品又は役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎりその具体的取引状況に基づいて判断すべきものである最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 そして,商標は,その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他方,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念が生ずることがあるのは,経験則の教えるところであり,複数の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することができるというべきである最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。


イ 本願商標は,前記(1)アのとおり,上段の「SPORTS LABORATORY」の文字と下段の「sportsman.jp」の文字からなっているが,これらの文字は,上段と下段に明確に区別して配置されている上,上段は16文字,下段は12文字と文字数も少なくなく,しかも,下段の文字は上段の文字に比して,略4倍ほどの大きさで,かつ,かなり太い線で表されているから,上段の「SPORTS LABORATORY」の文字と下段の「sportsman.jp」の文字は,取引において分離して観察され,しかも,下段の文字が上段の文字に比べてかなり目立ち,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができる。


 そうすると,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字と引用商標を対比してそれらが類似しているときには,本願商標と引用商標は類似するというべきである。


ウ そこで,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字と引用商標が類似するかどうかについて判断する。


(ア) 証拠(乙3,7)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

 ・・・省略・・・

(イ) 上記(ア)e認定のとおりインターネットが広く普及している状況の下では,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字は,国別コードトップ・レベル・ドメイン(ccTLD)の「.jp」と「sportsman」が結合したドメイン名を想起させることは明らかである。そして,その場合,上記(ア)b認定のとおり,「.jp」は,その使用主体を,日本に存在(在住)する団体又は個人であるという以上に特定するものではない。そうすると,「sportsman.jp」の文字が商標として使用された場合でも,取引者,需要者が出所識別機能を有するものとして認識するのは,「sportsman」の部分であって,「.jp」の部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生じるということはできないから,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字の要部は,「sportsman」の部分であるというべきである。


 確かに,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字は,一連に同じ大きさの文字で記載されており,全体として上記のとおりドメイン名として認識されるものであって,「.jp」の部分はインターネット上にあるコンピュータの識別のために有用な部分であるが,上記(ア)a,b認定のドメイン名の構成や「.jp」が有する意義からすると,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているということはできず,「sportsman」の部分と「.jp」の部分は分離して観察することができるというべきであって,上記のとおり,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字の要部は「sportsman」の部分であるということができる。


 なお,原告は,本願商標から,「運動(若しくは運動用具)に関する工房“sportsman.jp”」(「スポーツマン[ドット]ジェイピー」という名の運動研究所・運動具工房)の如き一連の意味合いを引き出すことも可能であると主張するが,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字は,上記のとおりドメイン名と認識されるものであって,原告が主張するような一連の意味合いを有するものとして認識されるとは認められない。


(ウ) そして,本願商標の下段の「sportsman」の部分と引用商標とを対比すると,次のようにいうことができる。


a 本願商標の下段の「sportsman」の部分からは,「スポーツマン」の称呼が生ずるほか,乙1(「リーダーズ英和辞典第1版第2刷」2002年[平成14年]7月株式会社研究社発行])及び乙2(「広辞苑第六版第一刷」2008年[平成20年]1月11日株式会社岩波書店発行)によれば,「運動競技の選手,スポーツの得意な人」といった観念が生ずるものと認められる。


b 引用商標は,前記(1)イのとおりのものであって,いずれからも「スポーツマン」の称呼が生ずるほか,「運動競技の選手,スポーツの得意な人」といった観念が生ずるものと認められる。


c したがって,本願商標の下段の「sportsman」の部分と引用商標とは,称呼及び観念が同一である。


d また,引用商標は,「SPORTSMAN」又は「SPORTSMAN」の文字を含んでいるから,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字の「sportsman」の部分とは,外観においても類似する。


e 以上のとおり,本願商標の下段の「sportsman」の部分と引用商標とを対比すると,称呼及び観念が同一であり,外観においても類似するということができる。


(エ) よって,本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字と引用商標は類似し,本願商標と引用商標は商標法4条1項11号にいう「類似する商標」と認められる。


エ なお,原告は,(i)セカンド・レベル・ドメインと他人の商標との間に抵触が生じる場合もあるだろうが,それは当該他人の商標が周知性を獲得している等の事情がある場合に限っても不合理ではないところ,引用商標にそのような事情があるかどうか,原告のできる範囲で精査を試みたが,そのような事情の存在は確認できなかった,(ii)登録商標「○○」の存在にも拘らず,「○○jp」という構成の商標が相抵触する商品について併存登録されている,と主張する。


 しかし,本願商標と引用商標が商標法上類似するとの上記判断は,引用商標の周知性いかんにかかわりないというべきものである。また,証拠(甲2,3の各1・2)によれば,「ANNA」と「アンナ」を2段に表記した商標と,「ANNAJP」(標準文字)という商標,「ミュージック」(標準文字)という商標と,「MUSIC.JP」と「ミュージックジェーピー」を2段に表記した商標がそれぞれ登録されており,それらの商標権者は異なることが認められるが,これらは,本願商標とは異なる商標に関する登録例にすぎず,上記判断を左右するものではない。


オ また,原告は,(i)原告及び訴外会社(株式会社スポーツマン)は,本願商標の構成中にある「sportsman.jp」の文字列を平成13年にドメイン名登録し,かつ,屋号を「sportsman.jp」とするインターネットショッピングサイトを平成14年12月より開設しているが,その間,上記引用商標の商標権者から,本願商標や「sportsman.jp」の使用について苦情が寄せられたことは一度もない,(ii)検索エンジン「Google」で欧文字列「sportsman」を検索語に指定すると,原告が開設するサイト「SPORTS LABORATORY/sportsman.jp」が最上位に表示されると主張し,また,甲1(検索エンジン「Google」において検索語を「スポーツマン」として検索した場合の検索結果リスト)及び弁論の全趣旨によれば,検索エンジン「Google」で検索語を「スポーツマン」として検索した場合,原告の開設するスポーツ総合コミュニティ・通販サイトが最上位に表示されることが認められる。


 しかし,以上のような事実があるとしても,上記ウのとおり本願商標の下段の「sportsman.jp」の文字と引用商標が類似する以上,本願商標と引用商標は商標法上類似するというべきである。


カ さらに,原告は,上記(ア)d認定の日本知的財産仲裁センターにおける「JPドメイン名紛争処理」においてドメイン名の移転・取消しが認められる要件についても主張するが,上記「JPドメイン名紛争処理」と商標登録は異なる制度であって,それぞれの要件に従って判断されるべきものである。


(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由の主張はいずれも理由がない。


3 結論


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


  なお、本判決文中で引用されている最高裁判決は、


●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

●『昭和37(オ)953 審決取消請求 商標権 行政訴訟「リラ宝塚事件」昭和38年12月05日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4BFC935227B9ABB049256A850031610C.pdf)

●『平成3(行ツ)103 審決取消 商標権 行政訴訟「SEIKO EYE事件」平成5年09月10日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf)

 となります。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。