●平成20(行ケ)10258 審決取消請求事件 「MIZUHO.NET」

 本日は、『平成20(行ケ)10258 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟MIZUHO.NET」平成21年01月28日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129105023.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項11号を理由とする拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類否の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『当裁判所は,本願商標と引用商標が類似するとした本件審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 商標の類否判断の基準について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,及び最高裁判所平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判所時報1467号325頁参照)。


 そこで,上記の観点から本件について検討する。


2 本願商標と引用商標との類否について


(1) 本願商標の特徴(出所識別標識として印象を与える部分)


ア 本願商標の構成

 本願商標は,「MIZUHO.NET」の文字を標準文字で書してなるものである(前記第2の1)。


(ア) 本願商標の上記構成について観察すると,「MIZUHO」の文字部分と「NET」の文字部分の間に「.」(ピリオド)が存することから,両文字部分は視覚的に分離して看取されるということができる。


 この点,原告は,本願商標が上記のように看取されることは,知らないとした上,原告が取得したドメイン名「mizuho.net」は,インターネットのIPアドレスとドメイン名を結び付けるDNS(Domain Name System)の仕組み上,一体不可分のものであると主張するが,ドメイン名が一体不可分のものであるか否かと,本願商標の上記各文字部分が視覚的に分離して看取されるか否かは,別の問題であるから,原告の主張は上記認定を左右するものではない。


(イ) 本件審決時(平成20年5月21日)において,引用商標は,保険業務(生命保険契約の締結の媒介に関する情報の提供,生命保険の引受けに関する情報の提供,損害保険契約の締結の代理に関する情報の提供,損害保険に係る損害の査定に関する情報の提供,損害保険の引受けに関する情報の提供)について,みずほフィナンシャルグループの使用に係るものとして,取引者・需要者間に広く認識されていたことは,原告も認めるところであって,当事者間に争いがない。


 そうすると,保険業務を指定役務に含む本願商標は,その構成中の「MIZUHO」の文字部分が,みずほフィナンシャルグループに関係するという強い印象を与えるものというべきである。


 この点,原告は,いわゆる「net」ドメインでは,「使用者の組織名」のみでなく,「サービス名」を用いることもあるから,本件審決が,本願商標の前半部がドメインの「使用者の組織名」を表すとした点には,根拠がないと主張する。しかし,「net」ドメイン一般において,「サービス名」が用いられることが少なくないとしても,既に説示したとおり,本願商標の構成中の「MIZUHO」の文字部分が,みずほフィナンシャルグループに関係するという強い印象を与えるものであり,原告の上記主張はこの点の判断を左右するものではない。


 また,原告は,本願出願時には,引用商標が,保険業務について,取引者・需要者間において広く認識されているとはいえないと主張する。しかし,商標法4条1項11号該当性は,特許庁が登録出願について処分(査定又は審決)をした時点を基準(本件については本件審決時)として判断すべきであるから,本願出願時を問題にする原告の上記主張は,主張自体失当である。


(ウ) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,一般に,(i)インターネット(theInternet)が「net」(ネット)と略称されること(乙1,甲2の3)(ii)「.net」の表記は,分野別トップレベルドメイン(gTLD)の一つとして,我が国はもとより,世界中で普遍的に使用されていること(乙2,乙6の1),(iii)ドメイン名のうち,ラベル(ピリオドで区切られた部分)中では大文字・小文字の区別はないこと(乙6の2)が,それぞれ認められる。


 そうすると,本願商標の構成中の「NET」の文字部分は,「インターネット」に通ずる英語「Internet」の略称「net」の大文字表記と認識され,また,本願商標の構成中の「.NET」の文字部分は,トップレベルドメイン名である「.net」の大文字表記と認識されるというべきであるから,本願商標の構成中の「NET」ないし「.NET」の文字部分は,取引者,需要者において,独立して役務の出所識別標識として認識されるものではないといえる。


 この点,原告は,組織種別としてのネットワーク事業者を示すコードは「net」であり,慣習的に「.net」が用いられているにすぎないから,本件審決が,本願商標の「後半部の『.NET』の文字部分は,組織種別としてネットワーク事業者を示すコード『.net』を大文字で表したものである」とした説示は誤りであると主張する。しかし,ネットワーク事業者を示すコードが「net」であるか,「.net」であるかによって,本願商標の構成中の「NET」ないし「.NET」の文字部分は,取引者,需要者において,独立して役務の出所識別標識として認識されるものではないという上記判断が左右されるものではないので,原告の主張は採用の限りでない。


(エ) 以上によれば,本願商標は,その構成中の「MIZUHO」の文字部分が,取引者,需要者に対し,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と認められる。


イ 本願商標の称呼・観念


 前記アのとおり,本願商標は,その構成中の「MIZUHO」の文字部分が,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるから,本願商標からは「ミズホ」との称呼及び「みずみずしい稲の穂」の観念が生ずるといえる。


(2) 引用商標の特徴及び本願商標との類否判断


ア 引用商標の特徴


 引用商標は,「MIZUHO」と標準文字で書してなる商標であり,これからは,「ミズホ」の称呼及び「みずみずしい稲の穂」の観念が生ずる。


イ 本願商標と引用商標との対比


 本願商標と引用商標とを対比すると,(i)本願商標は,「MIZUHO」の文字部分と「NET」の文字部分が視覚的に分離して看取されるところ,前者の文字部分の長さは,後者の文字部分の2倍近くあること,(ii)本願商標における「MIZUHO」の文字部分が,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるから,本願商標からは,引用商標と同じく,「ミズホ」との称呼及び「みずみずしい稲の穂」の観念が生ずること,(iii)本願商標における「NET」又は「.NET」の文字部分は,取引者,需要者において,独立して,役務の出所識別標識として認識されるものではないことに照らすならば,本願商標と引用商標とは,「MIZUHO」の文字部分において共通するものであって,同一の称呼及び観念を生ずるものであり,また,外観上も共通するところがあるといえる。


ウ 取引の実情


 本願商標は,前記(1)で検討したとおり,「MIZUHO」の文字部分が,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであること,本願商標における「NET」又は「.NET」の文字部分は,取引者,需要者において,独立して,役務の出所識別標識として認識されるものではないことに照らすならば,取引に当たり,本願商標に接する取引者,需要者は,「NET」又は「.NET」の文字部分ではなく,「MIZUHO」の文字部分に着目するものと認められる。


エ 小括


 以上によれば,本願商標と引用商標とは,その外観,称呼,観念の共通性及び取引の実情に照らして,相紛れるおそれのある類似する商標であると認めるのが相当である。


3 原告の主張に係る原出願の審査経緯,登録例及び裁判例について


 原告は,原出願の審査経緯,登録例及び裁判例に照らし,本願を拒絶すべき理由はないと主張する。


 しかし,以下のとおり,原告の上記主張はいずれも失当である。


(1) 原告の主張に係る原出願の審査経緯について


 原告は,原出願の審査経緯に照らせば,本願を拒絶すべき理由はないと主張する。


 しかし,そもそも,原告の主張に係る原出願の審査経緯は,本願についての審査・審判の手続ではないこと,別件審決において判断された原出願の拒絶理由(商標法4条1項15号違反)と本件審決において判断された本願の拒絶理由(商標法4条1項11号違反)とは別の理由であり,判断の基準時点も異なることから,仮に,原出願について原告が主張するとおりの経緯があったとしても,そのことから直ちに本願を拒絶すべきものとした本件審決の判断が誤りであるとはいえない。原告の主張は採用することができない。



(2) 原告の主張に係る登録例について


 原告は,特許庁が,「MIZUHO商標」と「MIZUHO NET商標」をともに登録商標としたことからすれば,本願も登録されてしかるべきであると主張する。


 しかし,登録出願に係る商標が登録され得るものであるか否かの判断は,個々の商標ごとに個別具体的に検討,判断されるべきものであるところ,原告主張の事例は,本件とは事案を同一にするものではないこと,同事例における特許庁の取扱いは未だ司法審査を経たものではないことからすれば,本願商標が商標法4条1項11号に該当するか否かについての判断が,原告の主張に係る登録例が存在するという事実によって左右されるものではない。原告の上記主張は採用することができない。


(3) 原告の主張に係る裁判例について


 原告は,「みずほねっと商標」を構成する「みずほねっと」の文字は一体不可分であるとして,「MIZUHO商標」とは役務の出所について混同を生ずるおそれはないとした知的財産高等裁判所の裁判例を指摘し,本願商標の前半部の「MIZUHO」の文字部分も自他役務の識別標識としての機能を有さないというべきであると主張する。


 しかし,前記(2)のとおり,登録出願に係る商標が登録され得るものであるか否かの判断は,個々の商標ごとに個別具体的に検討,判断されるべきものであるところ,「みずほねっと商標」に関する原告主張の裁判例は,「MIZUHO」の文字部分と「NET」ないし「.NET」の文字部分が分離して看取される本願商標とは,事案を異にするから,原告の上記主張は採用することができない。


4 結論


 原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がない。


 以上のとおりであるから,原告の主張はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。


 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


  なお、本判決文中で引用されている最高裁判決は、


●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

●『昭和37(オ)953 審決取消請求 商標権 行政訴訟「リラ宝塚事件」昭和38年12月05日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4BFC935227B9ABB049256A850031610C.pdf)

●『平成3(行ツ)103 審決取消 商標権 行政訴訟「SEIKO EYE事件」平成5年09月10日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf)

●『平成19(行ヒ)223 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「つつみのおひなっこや」平成20年09月08日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080908110917.pdf)


 となります。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。