●平成20(行ケ)10166審決取消請求事件 特許権「熱粘着式造粒方法」

 本日は、『平成20(行ケ)10166 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「熱粘着式造粒方法」平成21年01月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090127165545.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定を誤りであると判断した点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、


『2 取消事由について

(1) 原告は,本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定は誤りであると主張するので,まずこの点について検討する。


ア 本願発明にいう「熱粘着式造粒方法」なる語は,造粒方法の一種を示すものとして一般的に知られた用語ではない。また,本件補正後の請求項1(本願発明)は,


「A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5〜約99重量%及び/または薬学的活性成分0〜約99重量%,
B)結合剤約1〜約99重量%,及び必要に応じて,
C)崩壊剤0〜約10重量%の全部または一部を使用した混合物を含み,
 初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。」

 というものであって,希釈賦形剤・薬学的活性成分・結合剤・崩壊剤の全部又は一部を使用すること,初期水分・有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下で加熱し,密閉系統中で転動回転・混合しつつ顆粒を形成することが記載されているのみであり,加熱については言及されているものの,粘着の点については「熱粘着式造粒方法」という言葉の中にあらわれる以外には記載がない。


 そして,「熱粘着式造粒方法」なる語からは,「熱」及び「粘着」が造粒に関して何らかの関係を有することは推測できるものの,それ以上の意味は不明である。


イ そこで,発明の詳細な説明の記載を参酌して検討すると,本願明細書(甲2,3)には次の記載がある。

 ・・・省略・・・

ウ 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,次の内容が記載されていることが認められる。


 すなわち,本願発明は,従来の湿式造粒法において大量の水又は有機溶剤の添加が必要とされ,そのために乾燥工程が必要となるなどの欠点があったのに対し,わずかな水分又は有機溶剤によって造粒できるようにすることを目的としたものである。そして,諸材料の混合物中に含まれる初期水分又は有機溶剤(エタノール等)の含有量を約0.1〜20%とし,密閉系で加熱して造粒を行うことにより,加熱工程で希釈剤等から発生する蒸気が,外部に放出されることなく容器の内壁のより温度が低い区域で凝結し,吸湿性が高いポリビニルピロリドン(PVP)などの結合剤に吸収されて,結合剤に粘性を生じ,周囲の粒子を粘着させることにより造粒が行われる。このような造粒方法は,従来の湿式造粒法とは異なる新しい造粒方法として開発されたものであり,「熱粘着式造粒方法」(Thermaladhesion granulation)と命名された。


エ そうすると,本願発明にいう「熱粘着式造粒方法」とは,希釈賦形剤・薬学的活性成分・結合剤等の混合物を加熱することにより発生する蒸気が密閉系統中で凝結することを利用して,凝結した水分により結合剤に粘性を生じさせ,周囲の粒子を粘着させるという造粒方法をいうものと理解される。


 なお被告は,本願発明に関して特許請求の範囲の記載に何ら不明確な点はなく,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから,審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはないと主張する。


 しかし,特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは,あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって,上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然であるから,被告の上記主張は採用することができない。


(2) 以上を前提として,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものであるかを検討する。


ア 引用例(甲1)には,次の記載がある。

 ・・・省略・・・

イ 以上の記載によれば,引用発明は,揮発性物質の造粒に関して,従来の湿式造粒法では多量の水分を含有するため乾燥操作が必要となり,通風工程において水分と共に揮発性物質が揮散してしまうという欠点があったので,揮発性物質の損失をできるだけ少なくすることを目的としたものである。そして,課題を解決するための手段として,融点が30〜100℃の低融点物質を使用し,密閉系で加熱造粒することにより低融点物質を溶融させ,これを攪拌・混合して粒状物を得るという方法を採用している。


 そうすると,引用発明は,従来の湿式造粒法における欠点を克服し,多量の水分を含有させずに粒状物を製造するという点では本願発明と共通の目的を有するものの,その目的を達成するための手段として低融点物質を加熱して溶融させるという方法を採用している点で,本願発明とは異なる方法によるものである。


 したがって,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものとした審決の判断は誤りである。


 ・・・省略・・・


(4) 以上のとおり,審決は,本願発明と引用発明がいずれも「熱粘着式造粒方法」であるとした点で一致点の認定を誤ると共に,この点に係る相違点を看過したものであるところ,引用例(甲1)に「熱粘着式造粒方法」に関する教示も示唆もみられないことは,上記のとおりである。


 したがって,本願発明が引用発明との関係で進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。


3 結論

 以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、上記の本判決文中で赤線で示した、

しかし,特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは,あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって,上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然であるから,被告の上記主張は採用することができない。

 の判示事項は、リパーゼ最高裁事件である、●『昭和62(行ツ)3 審決取消 特許権 行政訴訟「リパーゼ事件」平成3年03月08日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/75CB63A39AC99F3449256A8500311EAF.pdf)における判示事項である、

『 特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。


 特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。』

 の内容を、分かり易く示しているものと思います。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。