●平成20(行ケ)10118審決取消請求事件 特許「既設杭の引抜き装置」

 本日は、『平成20(行ケ)10118 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「既設杭の引抜き装置」平成21年01月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090126160850.pdf)について取上げます。


 本件は、特許無効審判における棄却審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です


 本件では、付言(実施発明4に関する審決の審理及び判断について)における判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『 付言(実施発明4に関する審決の審理及び判断について)

 当裁判所は,審決が,所定の手続を経由することなく,原告(請求人)が主張した無効理由とは別個の無効理由について無効理由が存在しないと判断した点は,特許法153条2項や同法167条の趣旨に反する不適切な審理及び判断であると解する。その点を以下に付言する。


(1) 審決は,原告が本件審判の手続において主張した無効理由について,前記第2の3の(1)のとおり摘示している。すなわち,同摘示によれば,原告の無効理由は,「神戸第7突堤工事」において実施された発明(実施発明1ないし3)が,本件発明と同一であり,かつ,公然実施されたものであるというものであり,「大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事」において実施された発明(実施発明4)と同一の発明であるとの無効理由を含むものではない。


 しかるに,審決は,本件発明は,本件出願前に,「神戸第7突堤工事」において実施された発明(実施発明1ないし3)あるいは「大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事」において実施された発明(実施発明4)と同一の発明ではないとの判断をして,原告の主張を排斥した。


(2) 特許無効審判において,請求人が主張した無効理由とは別個の無効理由を審理するためには,あらかじめ審判手続において,特許法153条2項の規定による通知をし,当事者に意見を申し立てる機会を与える手続を採らなければならない。


 上記規定が設けられたのは,当事者に対して,適正公平な審判手続を保障するとの趣旨のみならず,第三者に対して,審決の効力の及ぶ範囲を明確にするとの趣旨によるものと解される。


 とりわけ,後者の趣旨は重要であり,特許法167条に「何人も,特許無効審判・・・の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と規定されていることを併せ考慮すると,審決の判断の基礎とした無効理由を構成する事実及び証拠がどのようなものであるかを,審判手続において明確にさせることが必要不可欠であるといえる。


 したがって,請求人が主張した無効理由を審決で摘示することは必須であり,また,請求人が主張しない無効理由について,上記のような手続を採ることなく,審決において判断することは,手続上の違法を来す余地があるというべきである(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10380号事件・平成20年11月27日判決参照)。


(3) 本件についてみると,実施発明4についての無効理由に係る事実(実施発明4が本件発明と同一であり,かつ,公然実施されたものであるとの事実)は,実施発明1ないし3についての無効理由に係る事実(「神戸第7突堤工事」において実施された発明(実施発明1ないし3)が,本件発明と同一であり,かつ,公然実施されたものであるとの事実)とは,実施の場所,日時等が明らかに異なるものであって,別個の事実である。


 そして,本件全証拠によるも,本件審判の手続において,特許法153条2項の規定による通知がされ,当事者に意見を申し立てる機会を与える手続が採られたことを認めるに足りる証拠は,これを見いだすことができない。


 そうすると,審決が理由において述べた,大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事において実施された発明(実施発明4)は本件発明と同一ではないとした判断部分は,原告が無効審判請求において主張していない無効理由について,特許法所定の手続を採ることなく,当該無効理由が存在しないとしたものといえる。


(4) 以上のとおり,審決は,特許法の規定する適正な手続を経ることなく,前記第2の3の(2)のエのとおり述べて,実施発明4が本件発明と同一であり,かつ,公然実施されたものであるとの無効理由が成立しない旨の判断を示した点において,適切さを欠いた点がある。しかし,(i)原告が,審決の審理手続の違法については,取消事由として主張せず,実施発明4に関する審決の判断の誤りのみを取消事由として主張していること,(ii)本件審判について請求不成立の審決をするに際し,実施発明4について判断を示す必要はないこと,(iii)全体として,上記の適切妥当を欠いた手続及び理由は,審決の結論に影響を与えるものとはいえないこと等の諸点を総合すると,上記の点は,審決を取り消すべき事由に当たらないと解される。


3 結論

 以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,また,審決に,これを取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。