●平成19(行ケ)10258審決取消請求事件 特許権「溶融金属供給用容器

 本日は、『平成19(行ケ)10258 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「溶融金属供給用容器」平成21年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090128154607.pdf)について取上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本件発明1と、甲2発明とは、技術分野を同じくするものの、その技術的課題,課題解決手段,作用及び機能が異なるというのであるから、そのような甲2発明に接した当業者が,本件発明1の相違点の構成を容易に想起することができたと認めることはできない、と判示した点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、


『2 取消事由2(相違点B’の判断の誤り)について

(3) 相違点B’の判断の誤りに関する検討

 以上の(1),(2)を踏まえて取消事由2(相違点B’の判断の誤り)の採否について検討するに,甲2発明の容器は,前記(2)イに説示したとおり,溶湯は受湯口から取鍋内に収納され,使用先の工場では,注湯口を開きフォークリフトにより取鍋を傾動して保持炉や鋳型等に注湯する方式の,いわゆる傾動式の取鍋であると認められるところ,この傾動式の取鍋から,これを,密閉された容器に溶融金属用の配管が設けられ加減圧用の配管が接続されるという構成(いわゆる加圧式)とすること自体は,甲10(特開平8−20826号公報),甲11(特開昭62−289363号公報),甲12(実願昭63−130228号(実開平2−53847号)のマイクロフィルム,甲13(実願平1−89474号(実開平3−31063号)) のマイクロフィルム)において,加圧式の場合,注湯精度,溶湯品質等の点で傾動式よりも優れていることが記載されているから,当業者がこれを適用することは容易に想起できるものと認められる。


 しかし,このことは,当業者が甲2発明から出発してこれにいわゆる加圧式の容器を採用しようと考えた後は,加圧式の容器であれば性質上当然具備するはずの構成のほかそのすべての個々の具体的構成は当然に適用できることを意味するものではない。


 そして,甲2発明の傾動式の容器であれば,その傾動式の容器であるという性質自体から,溶湯を出し入れするために注湯口及び受湯口が必要であることが導かれるが,本件発明1の加圧式の容器の場合は,一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管が容器に接続されていればよいのであるから,傾動式の容器で必要な受湯口及び受湯口小蓋は必須なものではない。


 したがって,甲2発明の傾動式の容器に接した当業者がこれを加圧式の取鍋にすることを考える際,あえて,必須なものではない受湯口及び受湯口小蓋を具備したままの構造とするのであれば,そうした構造を採用する十分な具体的理由が存する必要がある。


 しかるに,上記(1)に記載したように,本件発明1における技術的課題は,密閉された容器に溶融金属用の配管が設けられ加減圧用の配管が接続されるという構成をとったとき,液滴が容器内で飛び散って内圧調整用の配管に付着し,これが度重なることで配管詰まりが発生する点にあるところ,このような課題を解決するために,容器の上面部に開閉可能に設けられ,容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチを具備するという構成を採用し,この構成により,ハッチを開けて加熱器を容器内に挿入して予熱をする際に,内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができ,内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止できるという作用効果を有するようにしたものである。


 そうすると,本件発明1と上記(2)に記載したような甲2発明とを対比すると,甲2発明は取鍋を運搬車輌に搭載し公道を介して工場間で運搬するという技術的課題を有し,その課題解決手段としては,上記(2)ア(ウ)〜(キ)記載のような運搬用車輌に搭載し公道上を搬送されるに適した構成を採用しており,技術分野は同じくするものの,その技術的課題は,傾動式取鍋の安全な工場間運搬(甲2発明)と加圧式取鍋特有の内圧調整用配管の詰まりの防止(本件発明1)というように基本的に異なっており,その課題解決手段も,注湯口,受湯口の密閉手段や運搬用車両への係止手段が設けられた構成(甲2発明)と「ハッチに容器の内外を連通し,容器内の加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ」た構成(本件発明1の相違点B’)というように異なっており,その機能や作用についても異なるものであるから,そのような甲2発明に接した当業者が,本件発明1の相違点B’の構成を容易に想起することができたと認めることはできない。


 審決の相違点B’について容易想到であるとした判断には誤りがあり,原告の取消事由2は理由がある。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。