●平成5年に出された知財事件の最高裁判決(3)

 本日は、平成5年に出された知財事件の最高裁判決で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている残りの最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『平成3(行ツ)103 審決取消 商標権 行政訴訟「SEIKO EYE事件」平成5年09月10日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B940661E2BD9E6D949256A8500311E55.pdf)


 ・・・『1 本願商標は、取引者、需要者に「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念される。

 2 審決引用商標の構成中の「SEIKO」は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであり、同構成中の「EYE」は、「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観念されるところ、株式会社服部セイコーでは、その販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE(ドルチェ)」、「CADET(カデット)」、「CHARIOT(シャリオ)」、「MAJESTA(マジェスタ)」等のマークを使用していることが取引者、需要者に広く知られている。そうすると、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識するから、審決引用商標は、「セイコーアイ」のほか、「アイ」とも称呼され、「目」を意味するものとも観念されると認められる。


   「EYE」の文字が、その指定商品の品質、用途等を表示するものと認めるべき証拠は存しないから、これが一般性、普遍性のある文字であるからといって自他商品を識別する機能がないとはいえない。


 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。


  審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。


 一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。


 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。


 原審は、株式会社服部セイコーが、同社の販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE」等のマークを使用していることから、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識すると判断しているが、株式会社服部セイコーが審決引用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売しているとの事実は原審の認定していないところであり、また、前記認定のとおり取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有しない一般的、普遍的な文字である「EYE」が、そうではないこと明らかでありかつ実際に販売されている時計に使用されている「DOLCE」等の文字と同様に株式会社服部セイコーの販売する商品の出所識別標識となる、ということはできない。


 これを要するに、前記認定の事情に照らせば、審決引用商標の「EYE」の文字部分のみからは、称呼、観念は生じないというべきであるから、右部分に自他商品を識別する機能がないとはいえないとした原審の説示には、商標の類否に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。


 四 そして、前記の確定した事実関係の下においては、本願商標から、「SEIKO EYE」若しくは「SEIKO」の称呼、観念が生じないこと、本願商標と審決引用商標とが外観において類似していないことは明らかというべきであるから、本願商標が審決引用商標と類似するとした審決の判断は違法であり、右違法が審決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。そこで、本件審決の取消しを求める上告人の請求は理由があるものとして、これを認容すべきである。』、


と判示した最高裁判決。



●『平成3(オ)1007 意匠権 民事訴訟「自転車用幼児乗せ荷台意匠事件」平成5年02月16日 最高裁判所第三小法廷 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314105832.pdf


 ・・・『原審は、被上告人が本件意匠について意匠登録を受ける権利を承継した者でないにもかかわらず本件意匠について意匠登録出願をし意匠権の設定の登録を受けたとしても、このことは、本件意匠の創作者である上告人の本件意匠について意匠登録を受ける権利を喪失させるものではなく、また、上告人が本件意匠について意匠登録出願をすることの妨げとなるものでもないと判断した。


 しかしながら、意匠の創作者でない者あるいは当該意匠について意匠登録を受ける権利を承継したことのない者が、当該意匠について意匠登録出願をし、右権利の設定の登録がされた場合には、当該意匠の創作者あるいは当該意匠について意匠登録を受ける権利を承継した者が、その後に当該意匠について意匠登録出願をしても、当該意匠は意匠公報に掲載されたことによって公知のものとなっているため、右出願は、意匠法三条一項の意匠登録の要件を充足しないから、同法四条一項の新規性喪失の例外規定の適用がある場合を除き、右権利の設定の登録を受けることはできない。


 したがって、原判決の前記説示部分には、意匠法三条一項の解釈適用を誤った違法があるというべきであるが、原審は、被上告人が本件意匠について意匠登録を受ける権利を承継した者でないにもかかわらず本件意匠について意匠登録出願をし意匠権の設定の登録を受けたことによって、上告人が右権利の価値相当の損害を被ったとしても、右不法行為による損害賠償請求権は既に時効により消滅しているとの認定判断をしており、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができるから、原判決の前記説示部分の違法はその結論に影響しないものというべきである。


 以上によれば、所論は、結局、理由がないことに帰する。論旨は採用することができない。』、


と判示した最高裁判決。