●平成20(行ケ)10299審決取消請求事件「微弱磁気再生医療抗菌用品」

 本日は、『平成20(行ケ)10299 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「微弱磁気再生医療抗菌用品」平成21年01月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090121145623.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件補正の適否や、本願発明が特許を受けることの可否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 本多知成、裁判官 田中孝一)は、

 
1 本件補正の適否について

(1) 本件補正は,請求項1を「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗菌用品。」と変更するものである(甲9の7)。


 「再生医療」とは,「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して,細胞を積極的に利用して,その機能の再生を図る」もの(「日本再生医療学会」平成13年5月における設立趣旨,「平成15年度特許出願技術動向調査報告書・再生医療」等における記載)であって,創傷治ゆにおける自然治ゆ力による細胞の再生とは異なるものである。


(2) そこで,本件補正の適否について検討するに,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書」という。)には,次の記載がある(甲2)。


 ・・・省略・・・


(3) 上記(2)の記載を含め,当初明細書(甲2)には,「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗菌用品」についての明示的記載は存在しない。


 また,上記(2)のとおり,当初明細書には,微弱磁気服飾品の素材(以下「微弱磁気製品」という。)には,抗菌性及び抗かび性があるため,傷口の化膿防止に有効であること(【0025】〜【0027】),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌等の菌種による化膿口に微弱磁気製品をパッド等の形態で用いると,化膿口の治ゆに有効であること(【0029】)の記載があるが,このような創傷の治ゆについては,消毒等による創傷の保護下で,肉芽が増殖して治ゆに至るものであって,この肉芽の増殖による創傷の治ゆは,「再生治療」とは異なるものである。


 さらに,上記(2)のとおり,当初明細書【0052】には,感染症MRSA(S状結腸憩室症術後)腹壁膿瘍が磁気繊維の装着により治ゆし,「細胞再生効果があることが推察される」との記載がされているが,【0017】,【0018】並びに【0048】〜【0051】(実施例7)に,微弱磁気製品のメチシリン耐性ブドウ球菌等に対する抗菌性効果について述べられていることからすると,上記【0052】の記載は,微弱磁気製品の抗菌作用により,創傷が細菌の活動から保護され,腹壁膿瘍が肉芽の増殖により治ゆしたことが記載されているものと認められ,そうすると,【0052】に記載された事実から推察される「細胞再生効果」とは,自然治ゆによる細胞再生の域を出ないものであって,「再生医療」への用途を何ら開示しないものである。


 そして,その他の記載も含め,当初明細書の記載において,微弱磁気製品が「再生医療」に用いられるものであることが当業者にとって自明であるとはいえない。


(4) 以上によれば,本件補正に係る「1mTの微弱磁気を有し再生医療に用いる微弱磁気再生医療抗菌用品」は,当初明細書に記載されたものではなく,また,当初明細書の記載より自明のものであるとも認められず,本件補正は,前記改正前特許法17条2項の規定に適合しないので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものとなる。


 したがって,本願補正発明が当初明細書に記載されているとする原告主張の審決取消事由は理由がない。


2 本願発明が特許を受けることの可否について


 審決は「本願発明が,実際に細胞を再生するものであるか否かは, さておき,本願発明は,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえる」ことから,「特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない」としたものであるところ,原告は,審決の上記認定判断について何ら取消事由を主張するものではなく,本願発明に対する原告主張の取消事由(本願発明が治療等の効果を有するというもの)は,審決の結論に影響しないものである。


 そして,本願発明につき,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえるから特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当せず特許を受けることができない,とする審決の認定判断は是認することができる。


3 結論


 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。


よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却されるべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


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●『特許法、50年ぶり抜本改正へ=技術革新促進へ新法も−特許庁方針』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090120-00000107-jij-bus_all