●平成5年に出された知財事件の最高裁判決(2)

 本日は、平成5年に出された知財事件の最高裁判決で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『平成4(オ)364 特許権 民事訴訟「掘削装置事件」平成5年10月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314110420.pdf


 ・・・『1 被上告人代表者は、原判決添付別紙本訴対象物件目録表示の目的機能及び構成を有する揺動圧入式掘削装置(以下「北辰式掘削装置」という。)と実質的に同一の掘削装置に関する発明について特許権を取得してこれを実施することを企図し、特許出願の準備を進めて、昭和四七年一〇月一四日、右出願をした(以下、右特許出願に係る発明を「本願発明」という。)。なお、本願発明の明細書の特許請求の範囲には、インゴットの取付け位置を限定する記載はなかった。


2 上告人と被上告人は、昭和四七年一月から四月までの間に、本願発明を実施した装置である北辰式掘削装置の製造を被上告人が上告人に発注し、上告人はこれを製造して被上告人に納入する旨の契約(以下「本件契約」という。)を口頭で締結した。その中で、被上告人は代表者において本願発明の特許出願を準備していたため、上告人はその製造した北辰式掘削装置を被上告人以外には納入販売しないという義務を負う旨の合意をした。


3 被上告人代表者は、本願発明の特許出願に関して拒絶理由が通知されたことから、昭和五二年一一月二一日、本願発明の明細書の特許請求の範囲につき、インゴットの取付け位置を限定する旨の補正をしたところ、昭和五四年一〇月一八日、右補正された内容で出願公告され、同五五年五月二〇日、設定登録された(以下、右特許を「本件特許」といい、右特許に係る発明を「本件発明」という。)。


二 本訴は、上告人が製造して昭和五五年六月に他に販売した第一審判決添付別紙目録(一)記載の装置(以下「被告装置」という。)は、本件契約の対象である北辰式掘削装置に含まれるとして、被上告人が上告人に対し、北辰式掘削装置の製造販売等の差止めと損害賠償を請求するものである。


 原審は、前記事実関係の下において、本件契約の対象は本願発明を実施した装置である北辰式掘削装置であるところ、被告装置は北辰式掘削装置に含まれるとした上で、本願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録され、これにより発明の内容が変動しても、右補正前に締結された本件契約の対象となる装置が変動することはないとして、被告装置が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かを検討することなく、被上告人の請求を認容した。


三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。


 原審の前記認定によれば、上告人はその製造した本願発明の実施に当たる装置を被上告人以外には納入販売しないとの義務を負っていたが、本願発明は、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された本件発明として設定登録されたというのである。


 そして、本願発明は掘削装置の構成に関するものであり、右装置が製造されて工事等に使用されたならば、これを現認した者は容易に発明の内容を知ることができるところ、右発明について特許出願をして独占権が与えられない限り、被上告人は他者の右発明の実施を阻止することができないことは明らかである。


 そうであるならば、特許出願準備中の本願発明を実施した装置を上告人に製造させる旨の本件契約は、本願発明につき特許出願がされて将来特許権として独占権が与えられることを前提として、このような発明としての本願発明の実施に当たる装置を対象として締結されたものと解すべきである。


 けだし、本件契約が、本願発明につき特許出願がされ将来特許権として独占権が与えられるか否かにかかわりなく締結されたとするならば、本件契約に基づいて北辰式掘削装置が製造販売され、本願発明を他者が知るところとなり、他者がその実施をすることが可能となるに至る技術的事項につき、契約当事者である上告人のみが実施を禁ぜられることになり、不合理であるといわざるを得ないからである。


 したがって、特段の事情の認められない本件においては、本願発明につき、出願の過程で明細書の特許請求の範囲が補正された結果、特許請求の範囲が減縮された場合には、これに伴って本件契約によって被上告人以外に納入販売しないという義務の対象となる装置もその範囲のものになると解するのが相当である。


 これを要するに、本願発明がその出願の過程で変動しても本件契約の対象となる装置が変動することはないとした原審の説示には、契約に関する法令の解釈適用を誤る違法があるといわなくてはならない。』、と判示した最高裁判決。


●『平成3(行ツ)98  特許権 行政訴訟「数値制御通電加工装置事件」平成5年03月30日 最高裁判所第三小法廷 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314110019.pdf)


 ・・・『四 ところで、被上告人は、先願発明について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした明細書の補正はその要旨を変更するものであり、その特許出願日は本件発明の特許出願日よりも後の日に繰り下がるものとされ、先願発明は本件発明の先願とはいえないことになるから、先願発明が本件発明の先願に当たるものであることを理由に本件発明は特許を受けることができなかったとした本件審決は違法であるとの予備的な審決取消事由を主張している。


 この事由については、本件審決で明示の判断が示されていないところであるが、本件審決は、先願発明は本件発明の特許出願日より前の日に特許出願されたものに係るものであると認定しているのであるから、その前提として、先願発明には要旨変更を伴う明細書の補正はなかった旨の黙示的な判断を加えていることが明らかであり、本訴においては、進んで、予備的な審決取消事由について審理判断をする必要がある。


 そこで、予備的な審決取消事由の存否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。


 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。』、と判示した最高裁判決。


  なお、本日最初に取上げた、●『平成4(オ)364 特許権 民事訴訟「掘削装置事件」平成5年10月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314110420.pdf)は、出願中にライセンス契約し補正して特許になった場合について判示しており、本年の4月1から施行される仮専用実施権(特許法34の2)や仮通常実施権(特許法34の3)に係る特許出願が特許になった場合の規定(特許法34の2第2項、特許法34の3第2、3項)と多少関連しているのでは、と思いました。


 追伸;<気になった記事>

●『ウィニー開発者、無罪を主張 大阪高裁で控訴審始まる』http://www.asahi.com/digital/internet/OSK200901190014.html