●平成9年に出された知財事件の最高裁判決(1)

 本日は、平成9年に出された知財事件の最高裁判決で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決2件について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『平成4(オ)1443 著作権侵害差止等 著作権 民事訴訟「ポパイ著作権事件」平成9年07月17日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B41FEE4CBEB3754249256A8500311DAE.pdf)


 ・・・『 1 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。


 けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。したがって、一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。


 2 このような連載漫画においては、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴を同じくし、これに新たな筋書を付するとともに、新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって、このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。


 そして、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法二条一項一一号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。


 3 そうすると、著作権の保護期間は、各著作物ごとにそれぞれ独立して進行するものではあるが、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべきものであって、その保護期間が満了して著作権が消滅した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができないものといわざるを得ない。』、等と判示した最高裁判決。



●『平成7(オ)1988 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟「BBS事件」平成9年07月01日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3FD1A34CA50ADF5049256A8500311DB5.pdf)


 ・・・『パリ条約四条の二は、「(1) 同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。


 (2) (1)の規定は、絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。」と規定している。


 右規定は、特許権の相互依存を否定し、各国の特許権が、その発生、変動、消滅に関して相互に独立であること、すなわち、特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けないということを定めるものであって、一定の事情のある場合に特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、同条の定めるところではないというべきである。


 また、属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。


 我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべきである。


 右の問題は、パリ条約や属地主義の原則とは無関係であって、この点についてどのような解釈を採ったとしても、パリ条約四条の二及び属地主義の原則に反するものではないことは、右に説示したところから明らかである。


 我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべきである。


 2 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。そうすると、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。


 しかし、特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。


 けだし、(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。


 3 しかしながら、我が国の特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合には、直ちに右と同列に論ずることはできない。すなわち、特許権者は、特許製品を譲渡した地の所在する国において、必ずしも我が国において有する特許権と同一の発明についての特許権(以下「対応特許権」という。)を有するとは限らないし、対応特許権を有する場合であっても、我が国において有する特許権と譲渡地の所在する国において有する対応特許権とは別個の権利であることに照らせば、特許権者が対応特許権に係る製品につき我が国において特許権に基づく権利を行使したとしても、これをもって直ちに二重の利得を得たものということはできないからである。


 4 そこで、国際取引における商品の流通と特許権者の権利との調整について考慮するに、現代社会において国際経済取引が極めて広範囲、かつ、高度に進展しつつある状況に照らせば、我が国の取引者が、国外で販売された製品を我が国に輸入して市場における流通に置く場合においても、輪入を含めた商品の流通の自由は最大限尊重することが要請されているものというべきである。


 そして、国外での経済取引においても、一般に、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものということができるところ、前記のような現代社会における国際取引の状況に照らせば、特許権者が国外において特許製品を譲渡した場合においても、譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業としてこれを我が国に輸入し、我が国において、業として、これを使用し、又はこれを更に他者に譲渡することは、当然に予想されるところである。


 右のような点を勘案すると、我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。


 すなわち、(1) さきに説示したとおり、特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。(2) 他方、特許権者の権利に目を向けるときは、特許権者が国外での特許製品の譲渡に当たって我が国における特許権行使の権利を留保することは許されるというべきであり、特許権者が、右譲渡の際に、譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、製品にこれを明確に表示した場合には、転得者もまた、製品の流通過程において他人が介在しているとしても、当該製品につきその旨の制限が付されていることを認識し得るものであって、右制限の存在を前提として当該製品を購入するかどうかを自由な意思により決定することができる。そして、(3) 子会社又は関連会社等で特許権者と同視し得る者により国外において特許製品が譲渡された場合も、特許権者自身が特許製品を譲渡した場合と同様に解すべきであり、また、(4) 特許製品の譲受人の自由な流通への信頼を保護すべきことは、特許製品が最初に譲渡された地において特許権者が対応特許権を有するかどうかにより異なるものではない。


 5 これを本件についてみるに、前記の原審認定事実によれば、本件各製品は、いずれも本件特許権を有する上告人自身がドイツ連邦共和国において販売したものである。そして、本件においては、上告人が本件各製品の販売に際して、販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意したことについても、そのことを本件各製品に明示したことについても、上告人による主張立証がされていないのであるから、上告人が、本件各製品について、本件特許権に基づいて差止めないし損害賠償を求めることは許されないものというべきである。』、等と判示した最高裁判決。