●平成19(ワ)18724損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟(1)

 昨日から、特許庁長官や経団連会長等の各業界トップの年頭所感等を読んだり、新聞等で各会社トップの念頭所感を読み、今回の不景気は「100年に一度のもの」というのは自覚しましたが、個人的には、昨日の日記の最後にリンクしておいた、NEDOの理事長の年頭所感の、


●『理事長 年頭挨拶』(http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/other/BE/nedoothernewsplace.2008-12-01.1799363910/nedoothernews.2008-12-22.7762063776/)にある、


 「また、円高というとマイナス要因と受け止めがちですが、ある意味で、海外のリソースが相対的に安くなったわけですから、それはむしろ積極的に日本の企業戦略、あるいは国家の経済戦略を展開しやすい状況になっていると捉えるべきであると考えます。日本国の活動を展開するための有利な条件が増しているわけですから、このチャンスを活かさない手は無いでしょう。その様な発想で攻める姿勢が大事であると思います。

  そもそも技術開発は非常に長期的な視点の投資ですが、こういう時期にこそ長期的な投資を集中して行うべきで、これが当面の経済対策としても大いに効果を発揮することにもなると思います。」


 という、逆の視点からのポジティブな、そして長期的な視点での考え方が気に入りました(※勿論、独立行政法人であるNEDOの理事長ですので、民間のトップとは立場が異なりますが)。


 何事も、物は考えようであり、円高をプラス材料と考える、このような考え方も大切ではないか、と思います。


 原油等の天然資源は海外から安く手に入りますし、また団塊の世代の若くて優秀な二世達が今まさに社会で活躍し始めているので、日本は、これらの海外からの安価な資源や、若くて優秀な人材を上手く活用して、内需中心の産業・経済に転換していけば、日本の将来も明るいのでは、と思います。


 さて、本日は、『平成19(ワ)18724損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成20年12月25日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090106105735.pdf)について取上げます。


 本件は、「本件ゲームソフト」は,原告が著作権を有する「映画の著作物」又は「画像,音楽,プログラム及び脚本を有機的に結合した複合的著作物」に当たり,「被告ゲームソフト」の製作は,本件ゲームソフトの翻案又は本件ゲームソフトの脚本(シナリオ)の翻案に当たる旨主張して,被告に対し,本件ゲームソフト又はそのシナリオの著作権(翻案権)侵害の不法行為に基づく損害賠償を求め、棄却された事案です。


 本件では、まず、争点1(映画の著作物該当性及びその著作権の帰属)についての判断が参項になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、


1争点1(映画の著作物該当性及びその著作権の帰属)について

(1) 映画の著作物該当性

ア 原告は,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。

 ところで,著作権法10条1項7号は,著作物の例示として「映画の著作物」を規定し,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しているが,他方で,著作権法上,同法2条3項以外に「映画の著作物」の定義や範囲について定めた規定は存在せず,また,「映画」自体について定義した規定も存在しない。


 これらによれば,著作権法にいう「映画の著作物」は,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」,「物に固定されていること」,「著作物であること」の要件をすべて満たすものであると解するのが相当である。


 そして,「映画」とは,一般に,「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画像を,映写機で急速に(1秒間15こま以上,普通は24こま)順次投影し,眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの。」(広辞苑第六版297頁)を意味することなどに照らすならば,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解される。


 以上の解釈を前提に,本件ゲームソフトが「映画の著作物」に該当するかどうかについて判断する。


イ(ア) 前記争いのない事実と弁論の全趣旨によれば,本件ゲームソフトは,「零式百貨店グループの本店」において15年間に18人が失踪する事件が発生し,事態を憂慮した零式百貨店の総帥である「零式真琴」が,内部調査をさせるためにある支店に勤務していた主人公「四宅邦治」を呼び寄せ,主人公が同本店を舞台として内部調査を行うという内容のアダルト向けの娯楽を目的とした,いわゆるコマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲームであることが認められる。


 そして,原告提出の甲3(原告が本件ゲームソフト及び被告ゲームソフトの各影像の一部を対比して編集したものを,1本のVHSビデオテープに録画したもの)によれば,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって構成されており,静止画像の画面ごとに音楽や台詞が加えられ,台詞の終了ごとに所定の位置をクリックすること等をきっかけとして画面が変わること,主人公が登場人物と会話する場面の影像は,画面全体に「総帥室」,「エレツィオーネ厨房」など百貨店内の特定の場所を示す静止画像が表示されるとともに,画面上部中央に「零式真琴」などその登場人物の静止画像が表示され,画面下部に主人公とその登場人物の会話等が順次表示されることで構成されていること,プレイヤーが画面に表示された複数のコマンドの一つを選択するに従ってストーリーが展開し,コマンドの選び方によってストーリーが変化することが認められる。


 他方で,甲3からは,本件ゲームソフトの影像中に,動きのある連続影像が存することを認めることはできない。もっとも,甲3には,設定場面が変わる際に主人公等のキャラクターが静止画像で表示されているマップ上を移動する場面があるが,同場面は,本件ゲームソフトの影像のものではなく,被告ゲームソフトの影像の一部であると認められる。他に本件ゲームソフトの影像中に動きのある連続影像が存することを認めるに足りる証拠はない。


(イ) 上記(ア)のとおり,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像として表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件のうち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足しない。


 したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当するものとは認められない。


ウ これに対し原告は,(i)映画は,静止画像が連続して表示されることにより動的に受け取られるものであり,本件ゲームソフトも,多数の静止画像が連続して表示される点において,映画と本質的な違いはないこと,(ii)本件ゲームソフトは,連続する影像を鑑賞しつつ,場面の転換を受けて対応を選択してプレイが成立するものであり,場面の転換が行われることによってストーリーが組み立てられるという本質的部分において映画と類似していること,(iii)本件ゲームソフトは,絵画や小説などとは異なり,複数の異なる種類の著作物を統合して一つの世界を作り上げるという製作過程も,映画と同様であることを根拠として挙げて,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。


 しかし,著作権法にいう映画の著作物に該当するというためには,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」が必要であること,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解されることは先に検討したとおりであるところ,原告が根拠として挙げる上記(i)ないし(iii)の点は,いずれも本件ゲームソフトが「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足することを基礎付けるものではなく,原告の上記主張は,独自の見解を前提とするものであって,採用することはできない。


(2) 小括

 以上のとおり,本件ゲームソフトは映画の著作物に該当しないから,本件ゲームソフトは原告が著作権を有する映画の著作物であるとの原告の主張は,理由がない。 』

 と判示されました。


 明日に続きます。