●平成19(ワ)29768 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 東京地裁

 本日は、『平成19(ワ)29768 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成20年12月16日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081218114034.pdf)について取上げます。


 本件は、被告の元従業員である原告が、被告在職中にした光ディスク装置に関する職務発明に基づき補償金の支払いを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、発明者の認定基準が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 平田直人、裁判官 瀬田浩久)は、


『1 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないから(同法70条1項),発明者は,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の創作行為に現実に関与した者,すなわち,新しい着想をした者,あるいは新しい着想を具体化した者のいずれかに該当する者でなければならず,技術的思想の創作行為自体に関与しない者,例えば,部下の研究者に対し,具体的着想を示さずに,単に研究テーマを与えたり,一般的な助言や指導を行ったりしたにすぎない者,研究者の指示に従い,単にデータをまとめたり,実験を行ったりしたにすぎない者,発明者に資金や設備を提供するなどし,発明の完成を援助又は委託したにすぎない者は,発明者とならない。


 ・・・省略・・・


4 原告の主張について

(1) 原告は,半導体レーザに非点隔差が存在すること,非点隔差の大きさが半導体レーザの種類によって異なること,非点収差により光ディスク等の使用上の問題が生じることを予測し,その問題を解決する必要があるとの着想を有しており,Bに対し,半導体レーザにおける非点隔差の存在の確認及び分析とその使用上の問題の解決という研究テーマを与えたものであり,上記着想を有していなければ,半導体レーザの非点収差の解決手段を見出すことはできなかった,と主張する。


 しかしながら,本件発明における技術的課題の具体的な解決手段は,上に述べたとおり,開口数NAが,半導体レーザの非点隔差ΔZ及び波長λとの間で本件条件式に規定される関係を有するレンズを挿入することにより,半導体レーザの非点収差を補正する,という点にある。


 原告が,半導体レーザの非点収差の存在により生じる光ディスク等の使用上の問題を解決する必要があるとの着想を有し,Bに対し上述のような研究テーマを与えたとしても,抽象的な技術的課題を設定したにとどまり,半導体レーザの非点収差を補正するための具体的な解決手段の着想に関与したということはできない。

 原告の上記主張は,採用することができない。』


 等と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。