●平成20(行ケ)10139審決取消請求事件 商標権「キューピー」(2)

 本日も、昨日に続いて『平成20(行ケ)10139 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「キューピー」平成20年12月17日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081217165944.pdf)について取上げます。


 本件では、被告による商標法29条に基づく主張や、権利濫用の主張についての判断も、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 石原直樹、裁判官 杜下弘記)は、

(1) 商標法29条に基づく主張

 被告は,引用商標1,2,5及び6は,ローズ・オニールが創作したキューピー人形を原告が独自に図案化して商標登録出願をしたものであり,同出願の日前に生じていたローズ・オニール著作権と抵触するものであるから,原告がこれらの引用商標を使用して無効審判請求及び審決取消訴訟の提起をすることは商標法29条に違反する旨主張する。


 商標法29条は,「商標権者・・・は,指定商品・・・についての登録商標の使用がその使用の態様により・・・その商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは,指定商品・・・のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と規定し,商標法における(商標を含む)標章の「使用」態様については,同法2条3項1〜8号に限定的に列挙されているところ,無効審判請求及び審決取消訴訟の提起は,上記各号所定の行為のいずれにも該当しないから,著作権との抵触の有無を論ずるまでもなく,商標法29条に基づく被告の主張は失当である。


 なお,商標法29条は,商標権者の商標の使用を商標登録出願前の出願や発生に係る他人の権利と抵触しない範囲に限定することにより,商標権と他の権利との調整を図る規定であり,商標権者が類似する他人の商標登録の無効を請求する場合である本件に類推すべき基礎となる事情も認められない。


(2) 権利濫用の主張


 被告は,ローズ・オニールの著作物である「キューピー」の著名性を引用商標1〜6において無償で利用している原告が,「キューピー」の著作権を譲り受けた上,本件商標の登録を受けた被告に対してその無効を主張することは,公正な競争秩序に反するものであり,権利の濫用である旨主張するので,以下において検討する。


ア 商標法は,上記(1)のとおり,著作権等との抵触を調整する規定を置いた上,同法46条において,商標登録を無効とすることについて審判を請求することができる旨定め,そのための要件として無効理由を規定しているところ,無効審判請求の主体について商標法上の明示の制限はない。


 そして,商標法は商標登録について先願主義を採用しているから,ある登録商標の商標権者が,当該登録商標は引用商標と類似の商標であるとの無効理由(商標法4条1項11号所定の無効理由)を回避するためには,先願の地位を有する引用商標の商標登録について無効審判請求をし,これを無効としなければならないことになるが,他人の著作権と抵触することは商標登録の無効理由とはされていない。


 そうすると,商標法上,他人の著作権に抵触する商標であっても,これが一旦登録されれば,抵触の一事をもって無効とされることはないのであり,このような商標も,当該商標登録出願の日より後の出願に係る商標との関係では,引用商標となり得るのであり,引用商標の商標権者が,商標法4条1項11号違反を無効理由として,これと類似の商標に係る商標登録の無効審判請求をすることに商標法上の問題はない。


 ところで,商標法4条1項11号は,同一又は類似の商標が複数登録されてしまった場合において,これらが同一又は類似の商品等に使用されれば,取引者・需要者において商品等の出所について誤認混同が生じ,商標使用者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発展に寄与し,あわせて需要者の利益を保護するという商標法の目的が達せられなくなることから,これを登録障害事由として規定し,同様の趣旨で同法46条1項1号において無効理由とされているものと考えられる。


 そして,このような場合において,商品等の出所について誤認混同が生じないようにするためには,無効審判請求に係る商標登録か引用商標に係る商標登録のいずれか一方を無効とする必要があるところ,商標法においては,上記のとおり,後願に係る商標登録についての無効審判請求を待って無効理由の有無を審査し,無効とする制度を採用しているものである。


イ 以上を前提として本件についてみると,本件商標が引用商標1〜6と類似の商標であることは上記1のとおりであるから,原告が被告に対して本件商標登録が無効であるとの主張をすることが許されないとすれば,原告は本件商標登録の無効審判請求をすることができないこととなり,引用商標1〜6とこれらと類似する本件商標が併存することとなるところ,本件商標と引用商標が共に使用されると,商品の出所について取引者や需要者の間で誤認混同が生じ,商標法の上記目的に反する事態を招く可能性を否定することはできない。


 また,弁論の全趣旨によると,原告は,ローズ・オニール又はその遺産財団よりキューピーの著作権の譲渡を受けた被告から,キューピーのキャラクターの使用について許諾を受けていないと認められるものの,ローズ・オニールのキューピーについての著作権は既にその保護期間を経過していると認められる。


 さらに,弁論の全趣旨並びに上記1(4)イで認定したところによると,原告がキューピーのキャラクターをマヨネーズの宣伝広告に数十年の長期にわたり継続的に使用してきたことにより,我が国において「キューピーマヨネーズ」が極めて著名となったことから,「キューピー」の称呼及び観念を生じる引用商標1〜6は,本件商標の指定商品について格別の自他識別力を獲得するに至っていると認められる。


ウ 上記アのとおりの商標法が採用する制度を前提として,上記イの各事情を考慮すると,本件において,被告がローズ・オニールに由来する著作権に基づいて引用商標1〜6に係る商標登録を無効とすることが困難であることを考慮しても,商標法に適合する原告の無効審判請求及びその審決に対する本件取消訴訟の提起が権利の濫用であって許されないとした上,取引者や需要者の間で誤認混同を生じるおそれを発生させることとなってもやむを得ないとすることはできないというべきである。


 そして,他に原告の権利の濫用を根拠付ける具体的な事実の主張立証はないから,被告の主張を採用することはできない。


3 上記1のとおり,本件商標の登録は商標法4条1項11号に違反してされたものとはいえないとした審決の判断は誤りであるから,取消事由1は理由があり,上記2のとおり,被告の主張はいずれも採用することができないから,審決には結論に影響を及ぼす違法があるといわざるを得ない。


第6 結論以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取り消しを免れない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。