●平成20(ネ)10059 著作権侵害差止等請求控訴事件「まねきTV事件」

 本日は、昨日公表された『平成20(ネ)10059 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟「まねきTV事件」平成20年12月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081216170214.pdf)について取上げます。


 本件は、原審を『平成19(ワ)5765 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟「まねきTV事件」平成20年06月20日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080623111341.pdf)とする控訴審で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、著作権法における「送信可能化」についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 石原直樹、裁判官 榎戸道也、裁判官 杜下弘記)は、


3 争点2(本件サービスにおいて,被控訴人は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について


(1) 著作権法において,「送信可能化」とは,?公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること,?その公衆送信用記録媒体に情報が記録され,又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うことをいう(2条1項9号の5)。


 このように,「送信可能化」とは,自動公衆送信装置の使用を前提とするものであるところ,控訴人らは,本件サービスにおいて,ベースステーションが自動公衆送信装置に当たると主張する。


 しかしながら,「自動公衆送信装置」とは,公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいうものであり(著作権法2条1項9号の5イ),「自動公衆送信」とは,「公衆送信」,すなわち,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことのうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいうのであるから(同項7号の2,9号の4),「自動公衆送信装置」は,「公衆送信」の意義に照らして,公衆(不特定又は特定多数の者。同条5項参照)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない。


 しかるところ,上記2(原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2 事実認定」の(1),(3),(4))のとおり,本件サービスにおいては,利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在し,各ベースステーションは,予め設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しか有しておらず,当該アドレスは,各ベースステーションを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されていて,ベースステーションからの送信は,各利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされる(各ベースステーションにおいて,テレビアンテナを経て流入するアナログ放送波は,当該利用者の指令によりデジタルデータ化され,当該放送に係るデジタルデータが,各ベースステーションから当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみ送信される)ものである。


 すなわち,ベースステーションが行い得る送信は,当該ベースステーションから特定単一の専用モニター又はパソコンに対するもののみであり,ベースステーションはいわば「1対1」の送信を行う機能しか有していないものである。そうすると,個々のベースステーションが,不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置であるということはできないから,これをもって自動公衆送信装置に当たるということはできない(被控訴人事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装置を構成しているとの主張については,後記(3)において検討する。)。


(2) この点につき,控訴人らは,「公衆」への送信かどうかは,サーバなどの機器から見て不特定又は特定多数の者に送信されるかどうかではなく,送信行為者から見て不特定又は特定多数の者に送信されるかどうかによって判断されるところ,本件サービスにおいて,放送番組を利用者に送信しているのは被控訴人であり,被控訴人にとって利用者は不特定の者であって「公衆」に当たるから,ベースステーションが「1対1」の情報の伝達しか行うことができないということは,ベースステーションの自動公衆送信装置該当性を否定する根拠にならないと主張する。


 しかしながら,上記のとおり,自動公衆送信装置は,公衆によって直接受信され得る送信を行う機能を有する装置でなければならず,その「公衆(不特定又は特定多数の者)によって直接受信され得る送信を行う」ことは,自動公衆送信装置の機能として必要なのであるから,不特定又は特定多数の者であるかどうかは送信行為者を基準に判断されるべきであり,かつ,仮に,本件サービスにおいて,放送番組を利用者に送信しているのが被控訴人であると仮定したとしても,個々のベースステーションを自動公衆送信装置に擬するのであれば,個々のベースステーションごとに,当該ベースステーションが,被控訴人にとって不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る送信を行う機能を有するといえなければならない。


 そして,上記のとおり,ベースステーションからの送信は,その所有者である利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされるものであり,かつ,上記2(原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2 事実認定」の(4))のとおり,当該利用者(当該ベースステーションの所有者)は,被控訴人との間で,本件サービスに関する契約を締結し,その契約の内容として,当該ベースステーションを被控訴人の事業所(データセンター)に持参又は送付した者であるから,このような者が,被控訴人にとって不特定又は特定多数の者といえないことは明らかである。


 したがって,個々のベースステーションが,被控訴人にとって不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る送信を行う機能を有するものということはできない。



(3) 控訴人らは,ベースステーションを含めた被控訴人のデータセンター内のシステム全体が,一つの特定の構想に基づいて機器が集められ,それらが有機的に結合されて構築された一つの「装置」となっているから,本件システムは,被控訴人事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装置を構成しているものであり,被控訴人がこれを一体として管理・支配しているものであるところ,被控訴人が,本件システムを用いて行っている送信は,被控訴人に申込みを行い,ベースステーションを送付してくる不特定又は多数の者(利用者)に対して行われているものであるから,送信可能化行為に該当するとも主張する。


 しかしながら,上記のとおり,本件サービスにおいて,利用者の専用モニター又はパソコンに対する送信は,各ベースステーションから,各利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされる(各ベースステーションにおいて,テレビアンテナを経て流入するアナログ放送波は,当該利用者の指令によりデジタルデータ化され,当該放送に係るデジタルデータが,各ベースステーションから当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみ送信される)ものである。


 そうすると,本件システムにおいて,各ベースステーションへのアナログ放送波の流入に関わるテレビアンテナ,アンテナ線,分配機,ブースター等,また,各ベースステーションからのデジタル放送データをインターネット回線に接続することに関わるLANケーブル,ルーター等は,それぞれが本来は別個の機器であるとしても,その接続関係や役割に有機的な関連性があるということができ,これらを一体として一つの「装置」と考える契機がないとはいえない。


 しかしながら,本件サービスに係るデジタル放送データの送信の起点となるとともに,その送信の単一の宛先を指定し,かつ送信データを生成する機器であるベースステーションは,本件システム全体の中において,複数のベースステーション相互間に何ら有機的な関連性や結合関係はなく(例えば,利用者との契約の終了等により,あるベースステーションが欠落したとしても,他のベースステーションには何らの影響も及ぼさない。),かかる意味で,個々のベースステーションからの送信は独立して行われるものであるから,本来別個の機器である複数のベースステーションを一体として一つの「装置」と考える契機は全くないというべきである。


 したがって,控訴人らの上記主張は,複数のベースステーションを含めて一つの「装置」と理解する前提において失当というべきである。


(4) 控訴人らは,ある装置が自動公衆送信装置に当たるかどうかは,当該装置が有する客観的機能のみによって定まるというべきであるとした上,ベースステーションを用いて送信を行う者から見て不特定又は特定多数の者が,対になる専用モニター又はパソコン等を所持しているような場合には,そのベースステーションによって自動公衆送信が行われることになるから,そのような機能を有する装置であるベースステーションは,自動公衆送信装置に当たると主張し,事業者が予め多数のベースステーションと対応モニターを購入し,その事業所内にベースステーションを設置して必要な設定を施しておき,顧客から申し込みがある都度,対応モニターを顧客に貸与する,というようなサービスを行っている場合をその例として挙げる。


 しかしながら,控訴人らの挙示する上記の例においても,個々のベースステーションからの送信は,当該事業者との貸借契約(又は貸借を含む契約)を経た特定の者の設置する対応モニターに対してのみなされるだけであり,したがって,仮に,送信の主体が当該事業者であるとしても,個々のベースステーションが,当該事業者にとって不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る送信を行う機能を有するものということはできず,これをもって自動公衆送信装置に当たるということができないことは,上記(2)と同様である。そして,控訴人らの主張に係る「ベースステーションを用いて送信を行う者から見て不特定又は特定多数の者が,対になる専用モニター又はパソコン等を所持しているような場合」として,他にどのような例を想定し得るのかは明らかではないから,控訴人らの上記主張を採用することはできない。


(5) 以上のほか,被控訴人が本件システムによって行う本件サービスにおいて,自動公衆送信装置に該当すると認められるものが使用されているとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると,上記のとおり,「送信可能化」は,自動公衆送信装置の使用を前提とするものであるから,その余の点につき判断するまでもなく,本件サービスにおいて,被控訴人が本件放送の送信可能化行為を行っているということはできない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。