●平成19(行ケ)10350審決取消請求事件「ルア受け具及び流体の移送方

 本日は、『平成19(行ケ)10350 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ルア受け具及び流体の移送方法」平成20年12月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081211134736.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容され、拒絶審決が取り消された事案です。


 本件では、拒絶査定の対する不服審判の請求の際に特許請求の範囲についてした補正が、特許法旧17条の2第4項2号のいわゆる特許請求の範囲の限定的に減縮に該当しないので、補正却下をした点に違法がある、と判断された点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『カ なお被告(※特許庁)は,特許法旧17条の2第4項2号「特許請求の範囲の減縮」にいう「減縮」とは,発明を特定するために必要な事項を「限定する」ことであり,これに該当するといえるためには,補正後の一つ以上の発明を特定するための事項が補正前の発明を特定するための事項に対して,概念的に下位になっていることを要するものであると主張するところ,同主張は,補正が「特許請求の範囲の減縮」(特許法旧17条の2第4項2号)に該当するためには,これに該当する個々の補正事項のすべてにおいて下位概念に変更されることを要するとの趣旨を含むものと解される。


 しかし,特許請求の範囲の減縮は当該請求項の解釈において減縮の有無を判断すべきものであって,当該請求項の範囲内における各補正事項のみを個別にみて決すべきものではないのであるから,被告の上記主張が減縮の場合を後者の場合に限定する趣旨であれば,その主張は前提において誤りであるといわざるを得ない。


 また,特許請求の範囲の一部を減縮する場合に,当該部分とそれ以外の部分との整合性を担保するため,当該減縮部分以外の事項について字句の変更を行う必要性が生じる場合のあることは明らかであって,このような趣旨に基づく変更は,これにより特許請求の範囲を拡大ないし不明瞭にする等,補正の他の要件に抵触するものでない限り排除されるべきものではなく,この場合に当該補正部分の文言自体には減縮が存しなかったとしても,これが特許法旧17条の2第4項2号と矛盾するものではない。


 そこでこれを本件についてみると,本件補正は,「ルアロックコネクタの雄型ルア先端を受け入れるルア受け具であって,」を「雄型ルアカニューレと,該雄型ルアカニューレを取り囲むように形成された雌型ねじ端部とを有するルアロックコネクタに結合するルア受け具であって,」と補正することにより,ルア受け具の構成を限定するものであり,また,「前記隔膜の側方に少なくとも一つのキャビティが画成され,該キャビティは,前記雄型ルア先端が前記隔膜の内部に挿入された時に変位した前記変位した隔膜部分を受け入れることを特徴とするルア受け具。」を「前記隔膜の伸長部分の側方に少なくとも一つのキャビティが画成され,前記雄型ルアカニューレを前記隔膜の内部に挿入し且つ前記雌型ねじ端部が前記ハウジングに嵌合した時に,前記変位した隔膜の一部は,前記雌型ねじ端部の内部で前記少なくとも一つのキャビティ内に受け入れられることを特徴とするルア受け具。」と補正することにより,隔膜の構成を限定する部分を含むものである。


 そして,これまで述べてきた「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」とした補正は,上記のようなルア受け具及び隔膜の各構成を減縮する補正を踏まえ,これにより「雄型ルア先端」と「雄型ルアカニューレ」との用語が混在するに至ることから,これを後者の用語をもって統一したものと理解することができ,また,「雄型ルア先端」を「雄型ルアカニューレの少なくとも一部」とする補正が実質的に何らの変更を加えるものでないことは,上記エ,オのとおりである。


 したがって,本件補正のうち「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」とした部分は,何ら特許法旧17条の2第4項2号に矛盾するものではないから,被告の上記主張は採用することができない。


(3) 小括


 以上によれば,本件補正を却下した審決の判断は誤りであり,被告は,本件補正後の特許請求の範囲を前提として,特許要件の有無を検討すべきである。


3 結論

 よって,原告及び参加人主張の取消事由1は理由があることになるから,取消事由2,3について判断するまでもなく(なお,本件各証拠を検討すると,引用発明から本願発明が容易想到といえるかについては疑問が残る),原告及び参加人の本訴請求は理由があり,これを認容することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、今年は、知財高裁大合議事件である、『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)により、「除くクレーム」の補正の解釈や、新規事項追加の補正の判断基準(「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味する。)が出されましたが、今回は、最後の拒絶理由や拒絶査定に対する審判請求時等の特許請求の範囲の限定的限縮についても、特許庁の厳しい判断を緩和する判断基準が出され、来年は、補正の審査基準がかなり変更されそうですね。