●平成20(ワ)853 損害賠償請求事件 不正競争「営業秘密」(2)

 本日も、昨日に続いて『平成20(ワ)853 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟「営業秘密」平成20年11月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081204111741.pdf)について取上げます。


 本件では、争点3の(被告Aが本件競業避止合意に基づく競業避止義務に違反するか)についての判断が参考になります。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 佐野信、裁判官 國分隆文)は、


2 争点3(被告Aが本件競業避止合意に基づく競業避止義務に違反するか)について


(1) 上記前提となる事実のとおり,原告の主たる事業は,レコードCD等のインターネット通信販売業務活動,及び携帯電話用サイトでの通信販売業務であり,原告及び被告A間において,本件競業避止合意がされていたところ,被告Aにおいて,携帯電話のモバイルコンテンツ事業を主たる業とするエムアップに転職し,同社において,レコード,CD等のインターネット通信販売業務及び携帯電話用サイトでの通信販売業務を行うに至っているのであるから,このような被告Aの行為が本件競業避止合意に違反するのか否かが問題となる。


 ただし,退職後の競業避止に関する合意は,従業員の就職及び職業活動それ自体を直接的に制約するものであり,既に検討した秘密保持義務と比較しても,退職した従業員の有する職業選択の自由に対して極めて大きな制約を及ぼすものであるといわざるを得ない。


 そのため,上記の合意によって課される従業員の競業避止義務の範囲については,競業行為を制約することの合理性を基礎づけ得る必要最小限度の内容に限定して効力を認めるのが相当である。そして,その内容の確定に当たっては,従業員の就業中の地位及び業務内容,使用者が保有している技術上及び営業上の情報の性質,競業が禁止される期間の長短,使用者の従業員に対する処遇や代償の程度等の諸事情が考慮されるべきであり,特に,転職後の業務が従前の使用者の保有している特有の技術上又は営業上の重要な情報等を用いることによって行われているか否かという点を重視すべきであるといえる。


(2) 上記前提となる事実証拠(甲6ないし8,11,乙5。枝番号が付されたものも含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


(3) 上記(2)の認定事実及び上記1で検討した事情によれば,次のようにいうことができる。


 被告Aは,原告在職中に,CD,レコード等の仕入及び販売業務に携わっていたことから,同被告がエムアップで行ってきた業務のうち,原告の業務と競合し得る部分は,レコードの通信販売業務であるところ,同被告は,その種の業務を行うに際して,原告就業中の日常業務から得た一般的な知識,経験,技能や,その業務を通じて有するようになった仕入先担当者との面識などを利用し得たにすぎないものと考えられ,本件全証拠によっても,被告Aが原告の保有している特有の技術上又は営業上の重要な情報等を用いてエムアップの業務を行っていると認めることはできない。


 この点,原告は,被告Aが原告から持ち出した本件仕入先情報を駆使して原告の仕入先にアプローチしてきたことが強く推定されるとし,そのことを競業避止義務違反の根拠として主張する。


 しかしながら,本件仕入先情報は,前記1のとおり,「営業秘密として」管理されているとはいえないから,不正競争防止法上の営業秘密に該当せず,かつ,本件各秘密保持合意の対象ともならない情報である上,その内容自体は,具体的に特定されておらず,これを利用することにより,仕入業務等において,原告に対して優位に立てるというものでもなく,また,同情報は,インターネットや商品における表示等から認識し得るものであって,被告Aとしては,原告における業務を通じて知った仕入先の名称から,インターネットを通じて検索し,仕入先に接触することが可能なのであるから,原告特有の技術上又は営業上の重要な情報等ということはできず,原告の主張する上記事情は,競業行為を制約することの合理性を基礎づけ得るものとはいえない。


 そうすると,被告Aが,原告在職中に,その業務の中枢に関わる重要な地位に就いていたともいえず,携わっていた業務の内容も,商品の仕入,販売等に関する業務を自ら行うほか,アルバイトの取りまとめ等を行う程度のものであって,単独で責任を負うような立場にもなかったこと,本件競業避止合意に基づいて退職後の競業避止義務を負うことについて,何らの代償措置も講じられていなかったことなどの事情も併せ検討すれば,同義務を負う期間が2年間とさほど長くないことを考慮しても,被告Aがエムアップにおいて実施している業務の内容は,本件競業避止合意の対象に含まれるとは認められないというべきである。


 これに対し,原告は,被告Aが,原告に在職していた時期から,既に,エムアップの業務として原告と競合する仕入先に接触をもっていたことや,その際,エムアップに所属して取引を行うことについて原告から了承を得ているなどと虚言を呈していたことを,被告Aの行為の悪質性を基礎づける事情として主張する。


 しかしながら,後者の事情については,これを認めるに足りる的確な証拠が存在せず,また,前者の事情についても,退職直前の有給休暇期間中に行われたものと認められることなどに照らし,上記の判断を覆すに足りるものではない。


(4) 小括

 そうすると,被告Aのエムアップにおける業務は,本件競業避止合意の対象に含まれず,よって,被告Aは,本件競業避止合意に違反したものとは認められない。


第4 結論

 以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告らに対する請求は,いずれも理由がないから棄却することとし主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。