●平成20(行ケ)10086 審決取消請求事件 商標権「キシリトール」

 本日は、『平成20(行ケ)10086 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟キシリトール」平成20年11月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081128121043.pdf)について取上げます。


 本件は、商標登録の無効審決の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項16号の判断と、商標登録無効審判の請求の理由として新たに追加された商標法3条1項6号の無効理由について判断しなかったこと、についての判断が参考になるかとお思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明。、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


1 取消事由1(商標法4条1項16号に関する判断の誤り)について

(1) 商品の品質又は役務の質(以下では,商品についてのみ述べる。)の誤認を生ずるおそれがある商標については,公益に反するとの趣旨から,商標登録を受けることができない旨規定されている(商標法4条1項16号)。


 同趣旨に照らすならば,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とは,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。


 本件についてみると,登録第1692144号の2の商標は,別紙(i)のとおり,「キシリトール」及び「XYLITOL」の文字を2段に横書きしたものであるから,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者は,その使用される商品は,キシリトールが含まれているものと認識,理解する。


 他方,指定商品は,別紙(iii)「指定商品目録2」記載のとおり,いずれもキシリトールを使用した商品に限定されている。


 したがって,同商標は,その指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において同商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なることはなく,同商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないというべきである。


 この点について,原告らは,被告は成分の100%がキシリトールでない甘味料を添加したチューインガム等にも,登録第1692144号の2の商標を使用しているから,商標法4条1項16号に該当すると主張する。


 しかし,公益に反する商標の登録を排除するという商標法4条1項16号の趣旨に照らすならば,商標法4条1項16号への該当性の有無は,商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なり,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるか否かを基準として判断されるべきものであり,実際に商標を使用した商品がどのような品質を有しているかは,商標法4条1項16号への該当性の有無に影響を及ぼすものではない。


 したがって,原告らの上記主張は,その主張自体失当である。


 また,取引者又は需要者は,取引の実情の下で,登録第1692144号の2の商標が表示する品質について,キシリトールを使用した甘味料が添加されたものと認識すると解され,キシリトール100%からなる甘味料のみが添加されたものと認識することはないものと解される。したがって,原告らの上記主張は,この点からも失当である。


(2) したがって,審決が,登録第1692144号の2に係る商標について,商標法4条1項16号所定の商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできないと判断した点に誤りはないというべきであって,取消事由1は理由がない。


2 取消事由2(商標法3条1項6号の該当性について判断しなかった誤り)について


 前記第2,1のとおり,原告らは,平成18年10月10日,登録第1692144号商標登録について,商標法4条1項16号に該当するとの無効理由があると主張して無効審判請求をしたこと(甲B第27号証及び弁論の全趣旨),その後,平成19年1月15日付け審判事件弁駁書において,商標法3条1項6号に該当することをも無効理由に追加し,請求の理由を追加的に変更したことが認められる(甲B第28号証及び弁論の全趣旨)。


 商標法56条1項,特許法131条の2第1項は,審判請求書の補正は,その要旨を変更するものであってはならない旨規定している。同規定は,審判当事者間の衡平と審理期間の短縮を図る趣旨で規定されたものである。


 原告らの行った上記無効理由の追加は,審判請求書に記載された無効理由とは内容の異なる無効理由を追加するものであり,被請求人の防御に大きな影響を与え,再度反論の機会を与えないと防御の機会を失わせるおそれのあるものということができる。


 したがって,審決が原告らによる請求の理由の変更を ,商標法56条1項 ,特許法131条の2第1項の規定により許されないものとして,請求の理由の変更により追加された無効理由である商標法3条1項6号への該当性について判断しなかった点に,手続上の誤りはないというべきであって,取消事由2は理由がない。


3 結論

 以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。原告らはその他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。


 よって,原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。