●平成19(ワ)26761特許権侵害差止等請求事件「高純度アカルボース」

 本日は、『平成19(ワ)26761 特許権侵害差止等請求事件「高純度アカルボース」特許権 民事訴訟 平成20年11月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081201174732.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等の請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法第29条1項3号における「刊行物に記載された発明」の判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官 國分隆文)は、


(4)乙2文献及び乙3文献が引用発明となり得るか。

 証拠(乙2及び3),前記争いがない事実等,前記(1)から(3)までに認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


ア 平成11年法律第41号による改正前の特許法29条1項3号(以下「旧29条1項3号」という。)は「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができない旨規定するところ,原告は,乙2文献及び乙3文献には,それに記載されたアカルボースの精製方法の記載がないことから,旧29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」となり得ないと主張する。


確かに,同号に規定する「特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明」というためには,特許出願時の技術水準を基礎として,その刊行物に接した当業者がその発明を実施することができる程度に,発明の内容が開示されていることが必要であると解される。


 そして,乙2文献及び乙3文献には,当該各文献に記載されたアカルボースの製造方法は記載されていない(前記(2)イ及びウ)。


 しかしながら,乙2文献及び乙3文献が公開された当時は,それらに記載されたアカルボースの純度は不明であったものの,実質的には,その純度は100重量%又はそれに近似したものであると認められることは,前記・のとおりである。


 そして,乙1文献では68,000SIU/gの比活性を有するアカルボースが開示され,乙2文献及び乙3文献では77,700SIU/gの比活性を有するアカルボースが開示されているところ,これらの乙1ないし乙3文献に係る特許出願の出願人は,いずれも原告自身であるから,原告においては,乙2文献及び乙3文献が特許出願された時点までには,乙1文献で開示されたアカルボースより比活性が高い,すなわち,より純度が高いアカルボースを精製したものと認められ,これを比較例として実際に用いて対比実験を行った旨を乙2文献及び乙3文献に記載している。


 また,化学物質は,一般に,大量の原材料を前提として精製を繰り返すことにより,得られる収量はともかく,より高純度のものが取得できる場合が多いことは,当業者にとって技術常識であるところ,本件の場合は,強酸カチオン交換体によるカラムクロマトグラフィを用いてアカルボースを分離精製する手法が従来から知られており,当該手法を用いてアカルボースの分離・分種を丹念に繰り返せば,アカルボースの純度を高めていくことが可能であったものと推測される(原告自身も,乙2文献及び乙3文献で用いられた精製方法が不明であるとしながら,従来技術によって精製を行った可能性が高いことを自認している。)。


 以上のことからすれば,当業者においても,当該従来技術を用いるなどして,乙2文献及び乙3文献に記載されたアカルボースを精製することは可能であったと認められる。


ウ したがって,乙2文献及び乙3文献は,旧29条1項3号の「刊行物」としての適格を有するものと認められる。


(5) 前記(1)のとおり,本件特許発明は,アカルボースの精製方法やその純度の算定方法についての特許発明ではなく,「約93重量%以上のアカルボース含有量を有する精製アカルボース組成物」という物を対象とした特許発明であることから,本件特許発明の対象物である「約93重量%以上のアカルボース含有量を有する精製アカルボース組成物」が「刊行物に記載され」ている以上,新規性を欠くと認められる。


 よって,本件特許は,昭和62年法律第27号附則3条1項及び同法による改正前の特許法123条1項1号並びに平成11年法律第41号の附則2条12項及び旧29条1項3号により,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。