●平成20(行ケ)10168審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「注射器」

 本日は、『平成20(行ケ)10168 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「注射器」平成20年11月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081128120731.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、補正の新規事項追加の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『(3) 判断(その2−−新規事項の追加の有無について)

 前記(1),(2)で認定判断したとおり,本件出願当初明細書には,ケースそのものを目印として使用することの記載ないし開示はない。すなわち,ケースは,本来的には,物品などを収容するためのものであるのに対し,目印は,外部から視覚を通じて区別するための手段であるから,両者はその意義及び機能において相違するところ,本件出願当初明細書及び図面のいずれにおいても,ケースの形状や色彩等を,視覚を通じて区別する機能を有するものとして使用することを記載,示唆する記載はない。


 したがって,本件出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項によっても,ケースそのものを目印として用いるとの事項は,新たに導入された技術的事項というべきである。


 したがって,本件補正は新規事項の追加に当たるとした審決の判断に誤りはない。


(4) 小括

 以上のとおり,本件補正は限定的減縮に当たらず,かつ新規事項の追加に当たるから,本件補正を却下した審決の判断に誤りはなく,よってそれを前提にとした審決の本願発明の認定にも誤りはない。』


 と判示されました。


なお、上記の、


『 したがって,本件出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項によっても,ケースそのものを目印として用いるとの事項は,新たに導入された技術的事項というべきである。


 という新規事項追加の判断基準は、今年の5月に出された知財高裁大合議事件である、『平成18(行ケ)10563 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「感光性熱硬化性樹脂組成物及びソルダーレジストパターン形成方法」平成20年05月30日 知的財産高等裁判所(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080530152605.pdf)において、明確にされた新規事項追加の判断基準である、


『このような特許法の趣旨を踏まえると,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」との文言については,次のように解するべきである。すなわち,「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。


 と同じ判断基準のようです。


 『「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項』、というのが新規事項追加の新しい判断基準になるのでしょう。


 詳細は、判決文を参照して下さい。