●平成20(行ケ)10198審決取消請求事件 特許権「ホースリール事件」

 本日は、『平成20(行ケ)10198 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホースリール事件」平成20年11月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081127095009.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(進歩性判断の誤り)の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、


3 取消事由2(進歩性判断の誤り)について


(1) 原告は,本件特許発明2は,甲2,3,7,11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,審決の判断は誤りであると主張する。


ア 原告は,審決が主引用例として用いた甲2について,「踏み台部2とホースリール部3とから構成され,踏み台部2は,外郭を構成する本体5と,本体5の上側を塞いで踏み台となる蓋体6とからなると共に,ホースを巻き取る巻き取りドラムを備えていることが記載されている」と主張する。そこで検討すると,甲2(特開平9−195653号公報,発明の名称「ホースリール付き踏み台」,出願人アイリスオーヤマ株式会社,公開日平成9年7月29日)には,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


イ 上記によれば,甲2発明には,審決が本件特許発明2との一致点として認定した「『ホースを巻き取るドラムがフレームに回動自在に支持されたホースリールにおいて,前記フレームを,前記ドラムが収容されるケース状に形成し,当該フレームに天面を形成するとともに,前記フレームの底面に開口部を設けたホースリール』である点。」が開示されているといえる。


 そして原告も,甲2発明と本件特許発明2との一致点については同旨の主張をしていることから,審決が甲2発明と本件特許発明2との相違点として認定した「本件特許発明2は,フレーム下部に,該フレームより側方へ延出した展開状態と,開口部に配置されて梱包時において前記開口部内に収容された部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉される脚部を設けているのに対し,甲2発明は,そのような構成を有していない点。」との点につき,原告が主張するように甲3,7,11に開示があるかが問題となるので,以下検討する。


ウ 甲3(特開平11−246123号公報,発明の名称「ホースリール」,出願人アイリスオーヤマ株式会社,公開日平成11年9月14日)には,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


エ 甲7(特開2001−278402号公報(発明の名称「廃棄物処理用コンテナ」,出願人トピー工業株式会社,公開日平成13年10月10日))には,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


オ また原告が,本件訴訟において,周知技術を示す証拠として提出する甲11(特開2002−104582号公報,発明の名称「ボックス型パレット」,出願人株式会社豊田自動織機及び有限会社日向エンジニアリング,公開日平成14年4月10日)には,以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


カ 上記ウ〜オによれば,甲3にはステップが回動することは記載されているが,ステップが開口部を閉鎖して開口部に収容された部品の飛び出しを防止する機能を有するものではない。


 また甲7,11のようなコンテナやパレットにおいて,底面を開口できるようにすることが周知技術であるとしても,ホースリールにおいて開口部の閉鎖開口を行うことを開示するものではなく,ホースリールのフレームの脚部が移動して開口部の開口や閉鎖を行うことを開示ないし示唆するものでもない。


 そうすると,本件特許発明2は,甲2,3,7,11に基づき容易に発明できたということはできず,これと同旨の審決に誤りはない。


(2) これに対し原告は,甲7,11は,フレームの底面に設けた開口部に対し,底面板や底蓋を展開状態と,部品の飛び出しを防止する状態との間で開閉させることは周知技術であり,必要に応じ,適宜採用し得るものであるから,甲2の本体(本件特許発明2のフレームに相当)の底部に甲3のステップを取り付ける際に,甲7,11のような周知技術の構造を採用することは,ホースリールの分野では容易であり,本件特許発明2は容易に想到し得たと主張する。


 しかし,甲2発明,甲3発明は,本件特許発明2と同じくホースリールに関する発明であるものの,本件特許発明2の課題である店頭販売時に重ねて陳列することを可能にし省スペース化を図ること,及び開口部を脚部により閉鎖して開口部内に収容した構成部品の飛び出しを防止する点に関しては何ら記載がなく,本件特許発明2のようにホースリールのフレームの脚部が移動して開口部の開口や閉鎖を行うことを想到するための動機付けもないから,甲7,11のコンテナ,パレットの底面に設けた開口部について,底面板や底蓋を,展開状態と部品ないし内容物の飛び出しを防止する状態との間で開閉することが周知であるとしても,それを採用することが容易とはいえない。


 さらに,甲7,11には,本件特許発明2の,フレームの脚部によりフレーム底面の開口部を展開状態と閉鎖状態との間で開閉することにより,閉鎖しない位置に取り付けた場合にはケースの起立状態の安定化が図れ,開口部を閉鎖した位置においては開口部内に収容された構成部品の飛び出しを防止するという技術思想は,記載も示唆もされていないから,甲2の本体の底部に,甲3のステップを取り付ける際に甲7,11の周知技術を採用したとしても,本件特許発明2の構成が想到されるわけではないというべきであるから,原告の上記主張は採用することはできない。


4 結語

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。


 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、判決文を参照してください。