●平成19(行ケ)10315 審決取消請求事件 特許権「旋回式クランプ」

 本日は、『平成19(行ケ)10315 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「旋回式クランプ」平成20年11月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081113150955.pdf)について取上げます。


 本件は、原告が無効審判請求をし、被告が訂正請求で対抗したところ,特許庁が,上記訂正を認めた上,無効審判請求不成立の審決をしたため、原告がその取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由5の無効審判手続における手続上の瑕疵の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 清水知恵子)は、

6 取消事由5(手続上の瑕疵)について

 原告は,本件無効審判の手続に瑕疵があると主張するので,この点について検討する。

(1) 原告は,本件訂正により「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成が新たに追加されたのに,これに対する無効理由の主張,証拠の提出の機会が与えられないまま本件無効審判の審理が終結されたのは違法であると主張する。


(2) ところで,特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ,これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き,審判官は,変更されたのちの審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない(最高裁第一小法廷昭和51年5月6日判決・裁判集民事117号459頁参照)。


 そして,特許の無効審判の係属中に訂正請求がされた場合についても,上記と同様に解すべきである。

 そこで,上記の観点から,本件無効審判の手続において従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるかどうかについて検討する。


(3) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件無効審判の手続の経緯は,次のとおりである。

 ・・・省略・・・

(4) 以上によれば,本件無効審判の手続において,原告は「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅(W)よりも小さい値に設定した」などの構成に対する無効理由の主張の中で,クランプロッドの外周部に形成される旋回溝の傾斜角度を15度にすることは本件特許の出願前に周知の技術である旨の主張をしていたことが認められる。

 ところで,本件訴訟において原告が訂正発明1の「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成に対する主張として述べているのは,(i)甲13文献(特開平8−33932号公報)に上記構成が示されている,(ii)旋回ストロークを小さくして旋回式クランプをコンパクトに造ることは,本件特許の出願前に周知の技術的課題であった,(iii)甲21発明と同形式のクランプ装置のカタログ(甲40)や甲25(米国特許第4620695号明細書)に照らせば,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することは本件特許の出願前に周知の事項であった,などというものである。

 しかるに,本件無効審判の手続において原告が主張した内容は,甲13文献,甲21文献,甲25等を引用した上で,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することが周知の事項であり,旋回ストロークを小さくすることが周知の課題であったことを述べるものであり,特に甲13文献については,図1,図2の記載を参照しつつ螺旋溝の傾斜角度について具体的に言及しているものである。

 そうすると,本件無効審判の審理が終結された時点においては,旋回溝の傾斜角度の点を含め,無効理由につき十分な主張,立証が尽くされていたものと認めることができるから,本件無効審判の手続においては,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるというべきである。

(5) したがって,本件無効審判の手続に違法があるとまでいうことはできず,原告主張の取消事由5は理由がない。


7 結語

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。