●平成14(ネ)730 実績報償金請求控訴事件 特許権 民事訴訟

 本日も、職務発明関連の『平成14(ネ)730 実績報償金請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成15年06月26日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/581E4695D4038E3449256DB3000DDCC8.pdf)について取上げます。


  本件は、職務発明に基づく実績報償金請求控訴事件で、その請求が棄却された事案です。


  本件でも、原告が本件発明の共同発明者に該当するか否かの判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京高裁( 第6民事部 裁判長裁判官 山下和明、裁判官 設樂隆一、裁判官 阿部正幸)は、


『1 本件発明Aについて

(1) 控訴人は,ACC社が納入していたRF−11と日本ケッチェンが納入していたRF−100の各触媒は,水銀ポロシメータによる分析結果は全く同じであったにもかかわらず,その寿命に大きな差があった,控訴人は,両触媒を高倍率透過電子顕微鏡で観察した結果,RF−100の方にだけスキン層が存在し,スキン層表面の細かな細孔をカーボンや金属成分が閉塞するため,スキン層に囲まれた内部への原料油の拡散が阻害され,触媒活性が内部に残存するにもかかわらず,触媒機能がなくなり,触媒粒子全体の寿命が短くなることを発見した,水銀ポロシメータによる測定では,スキン層内部の大きな細孔が,スキン層表面の小さな細孔と同じものとして誤って測定されるため,両者の測定結果に差異が生じなかったものである,と主張する。


 しかし,仮に,控訴人の上記主張事実が認められるとしても,控訴人が主張する電子顕微鏡によるスキン層の発見と水銀ポロシメーターの測定誤差等は,次に述べるとおり,本件発明Aの内容となるものではなく,これにより控訴人を本件発明Aの発明者であると認めることはできない。


 本件発明Aの全細孔容積及び平均細孔直径の測定については,上記(e)の記載から明らかなように,水銀ポロシメータを使用するとの記載はあるものの,電子顕微鏡を使用してスキン層の有無を検出するとか,スキン層がないことを確認してから,水銀ポロシメータを使用して測定を開始する等の技術内容については,「スキン層」との文言のみならず,それに対応する内容も含めて,本件明細書Aには一切記載がない。また,控訴人が主張するように,スキン層がないことが触媒寿命を長くする要因となるのであれば,そのことを本件明細書Aの特許請求の範囲あるいは発明の詳細な説明の欄に記載しなければならないはずであるにもかかわらず,本件明細書Aには,スキン層に関する記載も,スキン層を生じさせないようにするための触媒の調整条件等についても,「スキン層」との文言のみならず,それに対応する技術内容も含めて,一切記載がないことは,別紙特許公報Aから明らかである。このような電子顕微鏡によるスキン層の発見とスキン層のない触媒の試作は,控訴人が,本件発明Aの創作行為として,原審においても控訴審においても,最も強調してきたものであるにもかかわらず,本件明細書Aには,本件発明Aの内容として,それらについての記載が一切ない,ということは,控訴人が,自らを本件発明Aの共同発明者であるとする主張の根拠としてきた重要な事実が,それ自体そもそも根拠になり得る性質のものではない,ということに帰するのである。


(2) 控訴人は,控訴人が本件発明Aの共同発明者の一人であることは,甲第12,第13号証の1ないし3,第26号証の5等から明らかである,とも主張する。


 しかし,甲第12号証のグラフは,その表題は控訴人が記載したものであるとしても,グラフ自体の作成者が不明であり,また,どの触媒についての実験結果であるかについても記載がなく,さらに,そのグラフは,本件明細書Aに記載された第1図とは異なるものである。このような証拠によって,控訴人を本件発明Aの発明者であると認定することはできない。


 甲第13号証の1ないし3は,RF−100,RF−11及びMZC−2Aについての電子顕微鏡写真である。控訴人は,これによりスキン層に関する控訴人の上記主張事実を立証しようとするものである。しかし,電子顕微鏡によるスキン層の発見と本件発明Aを結び付けるものが,本件明細書Aに記載されていないことは上記認定のとおりであるから,甲第13号証の1ないし3によっても,控訴人が本件発明Aを創作したものと認めることはできないことが明らかである。


 甲第26号証の5(各枝番を含む。)は,名刺であり,これにより控訴人が本件発明Aを創作したことを認めることができないことは,明らかである。


(3) 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう(特許法2条1項)のであるから,本件発明Aの発明者ということができる者は,その技術思想を創作した者であって,少なくとも,その者の本件発明Aに対する創作的行為の内容ないし結果が,本件明細書Aに本件発明Aの内容として何らかの形で記載されているべきものである。


 控訴人が自ら発見したと主張するスキン層及び電子顕微鏡によるその発見の手法については,上記のとおり,本件明細書Aにおいて,直接的にも間接的にも何ら記載されていないのであり,これと本件発明Aとを結び付けるものを同明細書中に見いだすことができない。


 結局,本件発明Aの技術思想の中核的部分に当たるP因子についてはもちろん,本件発明Aの技術思想の一部についてでも控訴人がこれを創作したことを認めるに足りる証拠は全くないという以外にないのである。控訴人は,原判決の認定を種々非難して,その主張の要点欄記載のとおりの主張をしている。


 しかし,その主張は,いずれも,本件発明Aの発明者についての原判決の認定を覆すべき主張とみることができないものであることが明らかである。


  以上のとおりであるから,控訴人が本件明細書Aに発明者の一人として記載され,被控訴人が控訴人に対し,その社内規程に従って出願報償金,登録報償金を既に支払っていたことを斟酌しても,控訴人を本件発明Aの発明者の一人と認定することはできない,という以外にない(控訴人が本件明細書Aに発明者の一人として記載されたのは,被控訴人において,当時,従業員の中から職務発明の発明者を厳密に特定する必要があるとは考えられていなかったこと,控訴人が,第2グループの主任研究員(グループ長)として,L及びMによる本件発明Aに係る試験,研究業務を管理し,これを総括し応援する立場にいたこと等によるものと考えることができる。)。


2 本件発明Bについて


 …省略…


第4 結論

  以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は正当である。そこで,控訴人の控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担については,民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。