●平成20(行ケ)10100 審決取消請求事件 商標権「旺文社レクシス」

 本日は、『平成20(行ケ)10100 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「旺文社レクシス」平成20年10月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081030164846.pdf)について取上げます。


 本件は、商標登録出願の拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、拒絶審決の理由である商標法4条1項11号の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 嶋末和秀)は、


『 当裁判所は,本願商標と各引用商標が類似するとした審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 商標の類否判断の基準について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,及び,最高裁判所平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決参照)。

 そこで,上記の観点から本件について検討する。


2 本願商標と各引用商標との類否について

(1) 本願商標の特徴(出所識別標識として印象を与える部分)

ア 本願商標の外観

 本願商標は,「旺文社」の文字部分及び「レクシス」の文字部分からなるものであり(前記第2の1,別紙商標目録(1)),複数の構成部分を組み合わせた商標である。


 本願商標は,「レクシス」の文字部分が,片仮名で大きく横書きされ,その左端部に,「旺文社」の文字部分が漢字で小さく縦書きされたものである。「旺文社」3文字全体の縦の長さは,「レ」「ク」「シ」「ス」の各1文字の縦の長さと同一である。「旺」「文」「社」の各文字の縦横の長さは,「レ」「ク」「シ」「ス」の各文字の縦横の長さの4分の1に表記されている。


本願商標において,「レクシス」の文字部分は,大きさ及び位置からみて,「旺文社」の文字部分とは分離して表記されており,主として「レクシス」の文字部分が,看者の注意を強く惹く態様で表記されている。


 以上によれば,本願商標における外観から,「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と認められる。


イ 本願商標の称呼

 前記のとおり,本願商標における「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるから,本願商標からは,「レクシス」との称呼が生ずる。


 この点について,原告は,本願商標からは「オウブンシャ」及び「オウブンシャレクシス」の称呼のみが生じ,「レクシス」の称呼は生じないと主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。


ウ 本願商標における「レクシス」部分の識別力

 各証拠によれば,(i)我が国では,「レクシス」の文字(片仮名)は馴染みのある語ではないこと(乙1〜7),(ii)仮に,同文字が「語彙」等を意味する「LEXIS」との英単語(甲11,乙10,11)の片仮名表記であると認識されることがあったとしても,「LEXIS」の欧文字は,我が国において一般に親しまれている語とはいえないこと(乙8〜11),(iii)原告の発行に係る「旺文社レクシス英和辞典」のケースには,「英和辞典の新定番『レクシス』」との記載のある帯が巻かれており(乙12),原告自身も「レクシス」の文字を,「語彙」という意味で説明的に用いるのではなく,むしろ商品の出所識別標識として使用していることが,それぞれ認められる。そうすると,本願商標における「レクシス」の文字部分は,取引者,需要者において,特定の親しまれた観念を有する成語と認識されるものではなく,専ら商品又は役務の出所識別標識として認識されるものといえる。


 原告は,同文字部分について,商品又は役務の品質を記述的に表したものであると主張するが,上記認定事実及び判断に照らし,採用することができない。


エ 本願商標における「旺文社」の文字部分の識別力

 本願商標における「旺文社」の文字部分は,「レクシス」の文字部分と比較すると,極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されていることに照らすならば,「旺文社」が原告の商号として著名である(弁論の全趣旨)などの実情を考慮したとしても,本願商標に接する取引者,需要者は,専ら「レクシス」の文字部分に着目するものと認めるのが相当である。

オ 小括

 以上によれば,本願商標は,「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるのが相当である。


(2) 各引用商標の特徴及び本願商標との類否判断

ア 各引用商標の特徴

 引用商標3,4及び6は,いずれも,「レクシス」の片仮名文字を書してなる商標である。また,引用商標1,2及び5は,「LEXIS」の欧文字を書してなる商標である。


イ 本願商標と各引用商標との対比

(ア) 本願商標と引用商標3,4及び6との類否本願商標と引用商標3,4及び6とを対比すると,(i)本願商標は,「レクシス」の文字部分が,片仮名で大きく横書きされ,その左端部に,「旺文社」の文字部分が漢字で小さく縦書きされ,「旺文社」3文字全体の縦の長さは,「レ」「ク」「シ」「ス」の各1文字の縦の長さと同一であり,「旺」「文」「社」の各文字の縦横の長さは,「レ」「ク」「シ」「ス」の各文字の縦横の長さの4分の1と極めて小さく表記されていること,本願商標において,「レクシス」の文字部分は,「旺文社」の文字部分とは分離して表記されており,主として「レクシス」の文字部分が,看者の注意を強く惹く態様で表記されていること,(ii)本願商標における「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるから,本願商標からは,「レクシス」との称呼が生ずること,(iii)本願商標における「レクシス」の文字部分は,取引者,需要者において,特定の親しまれた観念を有する成語と認識されるものではなく,商品又は役務の出所識別標識として認識されるものといえること,(iv)本願商標における「旺文社」の文字部分は,「レクシス」の文字部分と比較すると,極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されていることに照らすならば,本願商標と引用商標3,4及び6とは,「レクシス」の文字部分において共通し,両者は類似する商標である。


 この点について,原告は,本願商標における「旺文社」の文字部分が存在する点において類似しないと主張するが,同部分は目立たず,出所識別標識としての称呼は生じない態様で表示されていることに照らすならば,「旺文社」の文字部分が付記されていることが,上記の判断を左右するものとはいえない。


(イ) 本願商標と引用商標1,2及び5との類否

 本願商標からは,前記のとおり,「レクシス」の称呼が生じる。これに対して,引用商標1,2及び5は「LEXIS」の欧文字を書してなる商標であり,同商標からは,いずれも,その構成文字に相応して,「レクシス」の称呼が生じることに照らせば(甲11,乙10,11),本願商標と引用商標1,2及び5は,「レクシス」の称呼を共通にする類似の商標であるといえる。


ウ 取引の実情について

 本願商標は,前記(1)で検討したとおり,「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり,「旺文社」の文字部分は,目立たない態様で表示されていることに照らすならば,取引に当たり,本願商標に接する取引者,需要者は,「旺文社」の文字部分ではなく,「レクシス」の文字部分に着目する場合が少なくないと認められる。


 そうすると,取引の実情に照らして,本願商標と各引用商標とは,相紛れるおそれのある類似する商標であると認められる。


 この点について,原告は,本願商標は「旺文社」という原告の著名な商号を冒頭に付したものであることからすれば,本願商標を使用した商品及び役務は,原告の出版・製作に係るものと容易に認識され,出所の誤認混同は生じ得ないと主張するが,上記説示に照らし,採用することができない。


結論

 以上のとおり,本願商標と各引用商標が類似するとした審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。また,本願商標の指定商品及び指定役務が,各引用商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似する商品又は役務を含むとした審決の認定判断は,これを是認することができる(原告もこの点について争うものではない。)。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。