●平成13(行ケ)519 特許権 行政訴訟「シート分割巻取装置事件」

Nbenrishi2008-10-26

 本日は、『平成13(行ケ)519 特許権 行政訴訟「シート分割巻取装置事件」平成15年03月25日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E9BDA35359D0E10049256D4400110B1E.pdf)について取上げます。


 本件は、特許無効審判の認容(無効)審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、進歩性違反により拒絶する際、2つの引用例の組み合わせに阻害要因があると判断された点で参考になるかと思います。


 つまり、東京高裁(第18民事部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 古城春実、裁判官 田中昌利)は、


 2 取消事由3(第1引用例と第2引用例との置換容易性についての判断の誤り)について


 (1)原告は、第1引用例の「空圧装置」は「圧力調整機構」であるのに対して、第2引用例における「静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置」はロール保持体4を移動させるための「移動機構」であり、両者は、その存在意義、すなわち目的において明らかに相違する構成要素であるから、両者を置換し得るとした審決の判断は誤りであると主張する。


 (2)前示のとおり、第1引用例の空圧装置は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を精密に制御して均一に維持する機能を有し、巻軸を能動的に動かす機能を有するものではないのに対し、第2引用例における駆動装置は、圧力調整機構としての機能を持たない能動的な移動機構であるから、特段の事情がない限り、両者を置換することは考えられないことである。


 すなわち、第1引用例に記載された発明は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持することを目的とし、この圧力を精密に制御するべく空圧装置を採用したのであるから、圧力調整機能を失うような置換は、発明本来の目的を放棄することとなる。この点で、第1引用例に記載された発明の空圧装置を第2引用例の駆動装置に置換することには、阻害要因があるというべきである。


 (3)被告は、本件発明は、圧力調整機能を奏するための構成を明らかに意図的に排除した巻取装置に関するものであるから、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないと主張する。


 しかしながら、巻取装置において何らかの圧力調整手段を設けることが当業者にとって自明であれば、そのような圧力調整手段は特許請求の範囲には記載されないのがむしろ普通というべきであるから、本件発明の特許請求の範囲に圧力調整手段が記載されていないという一事をもって、本件発明から圧力調整機能を奏するための構成が意図的に排除されていると認めることはできず、他に、本件明細書中に圧力調整手段を意図的に排除していると認めるような記載はない。


 したがって、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないとの主張は、採用することができない。


 (4)以上のとおりであるから、第1引用例記載の発明の空圧装置を、第2引用例に記載された駆動装置により置換して相違点障ノに係る本件発明の構成とすることが容易であるとした審決の判断は、誤りである。よって、原告主張の取消事由3は理由がある。


 3 結論


 以上のとおり、取消事由1及び取消事由3には理由があり、本件発明と第1引用例記載の発明との対比における認定の誤り、及び、第1引用例の空圧装置と第2引用例の駆動装置との置換容易性についての判断の誤りが、本件発明の想到容易性についての審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、他の取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取り消されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。