●平成19(行ケ)10426審決取消請求事件「酸化物層のエッチング方法」

 昨日(10/23)、会社の方に、弁理士会長選挙の投票用紙が送られてきたので、お二方の選挙事務所から送られてきた方針等を参照して、投票しました。メーカー出身の弁理士と、特許事務所出身の弁理士という対立でもあり、結果がどうなるか楽しみです。


 さて、本日は、『平成19(行ケ)10426 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「酸化物層のエッチング方法」平成20年10月22日 知的財産高等裁判所
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081023134255.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、進歩性を否定する際の周知技術の認定の点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 榎戸道也、裁判官 浅井憲)は、


1 取消事由1(周知技術の認定誤りによる相違点についての判断の誤り)について


 原告は,審決が,本願優先日当時にプラズマエッチングガスとしてCHF3とともにC2H2F4ガスを使用することが周知であったと認定したことが誤りであると主張するので,以下,検討する。


(1) 後掲証拠によれば,周知例1ないし4について,以下のとおり認められる。

 ・・・書略・・・

(2) 以上に基づき判断するに,特許出願に係る明細書の発明の詳細な説明には,当該発明の属する技術分野の出願時における技術水準(従来技術の水準)を踏まえ,新規性及び進歩性を有するものとして当該発明の特許性が記載されるものであるところ,前記各周知例によれば,半導体等を製造する技術分野における慣用的な技術手法であるプラズマエッチング法において,昭和62年から平成6年の本願優先日までの間に,プラズマエッチングガスとしてフッ化炭化水素系のガスが幅広く採用されていたこと,そして,そのうちの1つとして,本願補正発明においてプラズマエッチングガスとして採用されたC2H2F4が少なくとも異なる3名の出願人による4件の特許公報に適用可能なエッチングガスとして具体的に記載されていたことが認められ,これらの事実に上記技術分野が技術革新が極めて激しい分野であるとの公知の事実を勘案すると,C2H2F4をプラズマエッチングガスとして採用するとの技術事項は,当業者に広く知られた周知技術であると認めるのが相当である。


(3) これに対し,原告は次のとおり主張するが,いずれも理由がない。

ア 原告は,本願優先日は平成6年12月7日であるが,周知例1は同年4月28日に,周知例2は同年1月28日にそれぞれ公開になったものであり,公開日から本願優先日までの期間が短く,周知例1,2がこの分野で特殊な技術であるために有名になったという事実もないから,それだけの短期間に周知例1,2の存在及び内容が周知になったということは到底あり得ないと主張するが,審決は,周知例1,2の存在及び内容が周知になったことを根拠として,本願優先日当時にプラズマエッチングにC2H2F4ガスを使用することが周知であったと認定したわけではなく,周知例1,2を援用した趣旨はプラズマエッチングガスに関する技術水準を示すことにあったものであるといえる(その判示に照らし明らかである。)から,原告の主張は失当である。


 また,周知例3の記載内容が周知とはいえないなどとする原告の主張も,上記説示と同様の理由により失当である。


イ 原告は,周知例1では,その出願時又は発明時においてC2H2F4の使用が側壁保護膜エッチングに「有効である」ことを確認しているのであるから,少なくとも周知例1が出願される前には,プラズマエッチングにおいてC2H2F4を使用することが当業者に周知でなかったことが推測できると主張する。


 しかしながら,周知例1において「有効である」ことが確認されているのは,C2H2F4の使用が側壁保護膜エッチングに「有効である」という周知例1の発明の効果であって,プラズマエッチング法一般においてC2H2F4を使用することの有効性の有無が問題とされているのではないから,原告の主張は前提を欠き,失当である。


 さらに,原告は,周知例1におけるC2H2F4の記載が2か所のみであることや実施例でC2H2F4の使用の説明がないことなどを主張するが,C2H2F4の記載の多寡や実施例における説明の有無は,周知例1についての前記認定判断を左右するに足りるものではないから,原告の主張を採用することはできない。


ウ 原告は,周知例2にはC2H2F4について,実施例と同様の「検証を行った」と記載されていることから,周知例2の出願日である平成4年7月1日の時点においては,プラズマエッチングにC2H2F4ガスを使用することが周知ではなかったと判断できると主張するが,周知例2において「検証を行った」のは,C2H2F4を使用した場合の周知例2の発明の効果についてであって,プラズマエッチング法一般においてC2H2F4を使用することの適否ではないから,原告の主張は前提を欠き,失当である。


エ 原告は,周知例3は本願補正発明とは技術的に無関係であり,実施例でC2H2F4ガスが使用されているわけではないなどと主張するが,前記1(1)ア(ア),(オ),(カ)ないし(ク)のとおり,周知例3には,プラズマエッチング法を採用し,「フッ化炭化水素系のプラズマエッチングガスとしてC2H2F4を用いること」が記載されているから,本願補正発明のプラズマエッチングガスと共通する技術の記載があるし,また,実施例における使用の有無は,周知例3についての前記認定判断を左右するに足りるものではない。


 したがって,原告の主張は採用することができない。

(4) 以上のとおりであるから,審決が,本願優先日当時にプラズマエッチングガスとしてCHF3とともにC2H2F4ガスを使用することが周知であったと認定したことに誤りはなく,取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。