●平成12(行ケ)170 特許権 行政訴訟「動力伝達用チェーン事件」

 本日は、『平成12(行ケ)170 特許権 行政訴訟「動力伝達用チェーン,ガイドリンク及び動力伝達用チェーンの製造方法」平成14年10月31日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/6988D963989FDE5649256CA60029B14F.pdf)について取上げます。


 本件は、特許無効審判において訂正請求を認め、本件審判請求を棄却した棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容され、しかも特許無効審判における訂正の請求については、請求項毎に判断すべきと判示した事案です。


 7/10の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080710)で取上げた最高裁判決である『平成19(行ヒ)318 特許取消決定取消請求事件「発光ダイオードモジュールおよび発光ダイオード光源」平成20年07月10日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080710145411.pdf)では、特許異議申立における訂正の請求は、請求項毎に判断する必要がある、と判示されたので、特許無効審判にも適用される可能性があるとコメントしていましたが、特許無効審判における訂正の請求については、請求項毎に判断すべき、という内容の高裁判決が先に出ていたようです。


 つまり、東京高裁(第18民事部 裁判長裁判官 永井紀昭、裁判官 塩月秀平、裁判官 田中昌利)は、


『 4 以下,2及び3で検討したところに立って,本件訂正を認めた審決の当否を検討するが,まず,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正の許否の判断をすべきか否かの問題がある。


 本件特許は,いわゆる改善多項制下での出願に係るものであり,本件訂正は,本件無効審判手続における訂正請求であって,訂正が不適法であった場合に当該訂正を特許の無効理由とし,この場合も含め,審判で請求項ごとに無効の判断がされるようになった制度下における訂正請求である。


 そして,本件訂正請求の内容は,訂正請求前の特許請求の範囲の請求項1,同5,同6及び同9につき訂正をするものであり(前記第2,2「本件発明の要旨」の記載参照。なお,請求項9は,訂正前の請求項9を削除し,訂正前の請求項10を独立項としたものであり,請求項2ないし4は同1を,同7は同6を,同8は同7をそれぞれ引用している。),明細書の「発明の詳細な説明」欄については,上記訂正に伴って必然的に生じる各請求項の記載の引用部分のみを訂正するものである(甲10)。


 このように,本件訂正請求は,それぞれ請求項ごとに別個独立のものとして理解し得るものであり,本件において請求項ごとに訂正の許否を判断するのに特段の支障は認められない。


 以上のような事情に照らせば,本件訂正請求の許否の判断は,請求項ごとにすべきものと解するのが相当である。


 なお,最高裁第一小法廷判決昭和55年5月1日民集34巻3号431頁の判示するところは,前提となる制度が本件とは異なっており,上記の本件のような制度下においては,特定の請求項に関してされた複数箇所の訂正請求につき一体として許否の判断をすべきとの点では当てはまるとしても,別個の請求項に関する別個独立の訂正請求の許否についてまでも及ぶものではないと解される。


 そこで,訂正を認めた審決の当否につき,訂正発明(請求項)ごとに検討する。

 (1) 審決は,訂正発明9について,引用例発明1との相違点を前記カ及びキと認定した上,これらについて容易想到性もないとして,独立特許要件を肯定した。しかし,相違点カとされた前記リンクの降伏荷重の点には,前記2で判示したように,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり,相違点キとされた上記プリストレス運転の点は,前記3で判示したように,当業者が容易に想到し得たもので,容易想到性を否定した点には誤りがあるのであって,結局,訂正発明9は,独立特許要件を満たさないものというべきである(なお,3(2)(a−1)及び(a−2)のとおり,取消事由5,6に理由があることは,訂正発明9に関する公然実施についての審決の認定判断(審決書?3(2)(2−3)(A))の誤りにも通じるものである。)。


 よって,訂正発明9に関する本件訂正を認めた審決は,誤りであって,取消しを免れない(取消事由7については判断するまでもない。)。


 (2) 訂正発明1並びにこれを引用する訂正発明2,同3及び同4についての審決の認定判断をみるに,相違点アのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり(前記2参照),相違点イの前記プリストレス運転の点に関する容易想到性についての判断には,前記3のように誤りを含むものであって,これらの誤りは,独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものであり,上記各訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,相違点アにおける,各ガイドリンクが内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している構成の技術的意義などについて,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。


 (3) 訂正発明5についての審決の認定判断をみるに,相違点ウのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがある(前記2参照)。この誤りは,訂正発明5の独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものであり,上記訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,上記(2)と同様に,相違点ウにおけるリンクの硬度の点について,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。


 (4) 訂正発明6についての審決の認定判断をみるに,相違点オのうち,前記リンクの降伏荷重の点に関する部分は,相違点ではないのに相違するものとした誤りがあり(前記2参照),相違点エ及びオのうちの前記プリストレス運転の点に関する容易想到性についての判断には,前記3のように誤りを含むものであって,これらの誤りは,独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものである(なお,公然実施についての審決の認定判断については,上記(1)と同じである。)。よって,上記訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。


 (5) 訂正発明7及び同8についての審決の認定判断をみるに,同7は同6を,同8は同7をそれぞれ引用する発明であるので,上記(4)に判示した訂正発明6に関する認定判断と同様の誤りがあり,これらの誤りは,訂正発明7及び同8の独立特許要件の判断の結論に影響を与え得るものである。よって,上記各訂正発明に関する本件訂正を認めた審決は,取消しを免れない。もっとも,審決取消後に再開される審判においては,上記(2)と同様に,訂正発明7及び同8におけるリンクの硬度の点などについて,更に審理を尽くした上,訂正の許否を判断すべきである。


 5 結論

 以上により,審決が本件訂正を認めたことは誤りであり,審決全体を取り消すこととする。

 なお,本件については,審決取消後に再開される審判においても,ある特定の請求項に関する訂正請求を認めるべきでないと判断する場合でも,各請求項に関する訂正請求の許否を請求項ごとに判断すべきものである。

 よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。