●平成19(ワ)2980 損害賠償請求事件「酵素によるエステル化方法」

 本日は、『平成19(ワ)2980 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟酵素によるエステル化方法」平成20年10月09日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081010095611.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害に基づく損害賠償請求事件で、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、今年の4月に出され、4/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080426)でも取上げた最高裁判決である『平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件「ナイフの加工装置」平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424152947.pdf)を引用して、3回目の訂正審判請求を行う予定による口頭弁論続行の旨の原告の申出を容れず、本件口頭弁論を終結した点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


3 訴訟の進行に関する補足説明

(1)原告は,平成20年7月14 日の第9回口頭弁論期日において,本件特許について訂正審判請求を行う予定であり,次回期日に同訂正審判請求に対応した主張立証を行いたいので,口頭弁論を続行されたい旨申し出たところ,当裁判所は,原告の上記申出を容れず,本件口頭弁論を終結する旨宣言したものである。そこで,以下,本件訴訟の進行に関して当裁判所が執った措置について補足説明する。


(2) 記録によれば,本件訴訟の経過は次のとおりと認められる。

 原告は,平成19年3月16日に本件訴訟を提起した。これに対し,被告は,同年6月25日の第2回口頭弁論期日において,本件特許が特許法29条1項又は2項,改正前36条3項,4項等に違反して特許されたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものであるとして特許法104条の3に基づく権利行使制限の抗弁を主張した(被告第1準備書面)。これに対し原告は,上記権利行使制限の抗弁には直接応答することなく,同年8月31日付け「審判請求書」により,特許庁に対し本件特許について訂正審判請求をし(以下「第1次訂正審判請求」という。),本訴においても,訂正の再抗弁として,第1次訂正審判請求が認められることを前提に,訂正後の特許請求の範囲によれば,本件特許の無効理由が解消し,かつ,被告方法が本件特許の技術的範囲に属する旨主張した。


 これに対し被告は,第1次訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲によっても無効理由は解消せず,被告方法はその技術的範囲に属しないなどと主張したが,その後,第1次訂正審判請求につき特許庁より同年9月25日付け「訂正拒絶理由通知書」(甲50)が発せられた。そこで,原告は,同年10月29日付け「請求取下書」(甲51)により第1次訂正審判請求を取り下げた。


 原告は,同年11月14日付け「審判請求書」により,特許庁に対し再度訂正審判請求をし(以下「第2次訂正審判請求」という。),本訴においても第1次訂正審判請求に基づく主張を撤回した上,さらなる訂正の再抗弁として,第2次訂正審判請求に係る訂正後の特許請求の範囲に基づく侵害の主張をした。これに対し被告は,第2次訂正審判請求に係る特許請求の範囲によっても無効理由は解消せず,被告方法はその技術的範囲に属しないなどと主張した。


 その後第2次訂正審判請求に係る訂正の主張について,訂正理由の有無,同訂正後の特許請求の範囲による無効理由解消の有無,同訂正後の特許請求の範囲による技術的範囲の属否に関する当事者の主張立証が重ねられ,平成20年5月30日の第8回口頭弁論期日において,双方から提出が予定されていた準備書面(「原告準備書面(7)」及び「被告第6準備書面」)が陳述され,第2次訂正審判請求に係る主張を含め,判決をするのに必要な主張立証がほぼ尽くされた。ただし,原告準備書面(7)(これまで原告が明示的に主張していなかった原クレームに基づく被告の無効主張に対する原告の反論が記載されていた。)に対して整理した反論をする旨被告が述べたことから,当裁判所は口頭弁論を続行し,次回口頭弁論期日までに被告においてその反論をすることを促し,これにより審理を終結することを予定して,平成20年7月14日の第9回口頭弁論期日を指定し,同日,同口頭弁論期日が施行された。


 しかるところ,原告は,同口頭弁論期日において,平成20年6月27日に特許庁より第2次訂正審判請求は成り立たない旨の審決がなされた(甲81)のを受け,第2次訂正審判請求を取り下げる予定である旨申し述べた上,本訴における第2次訂正審判請求に係る主張をすべて撤回した。そして,原告は,特許庁に対しさらなる訂正審判請求を申し立てる予定であり,本訴においても,上記訂正審判請求に係る主張立証を行う旨の意向を表明し,口頭弁論期日の続行を求めたが,同審判請求の具体的内容及び本訴において予定される主張立証の具体的内容については明らかにしなかった。


(3 ) 特許権者による訂正審判請求 は,特許法その他の法令上,その回数や期間に制限が設けられているわけではない(ただし,特許法126条2項参照)。


 他方,特許権侵害訴訟において当該特許が特許無効審判により無効とされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ(特許法104条の3第1項の抗弁),訂正審判請求がされ,同訂正審判請求が訂正要件を満たす場合において,それによって当該特許の無効理由が解消すると認められれば,当該特許が「特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」には当たらないことになるので,特許法104条の3第1項の抗弁は認められないことになる(訂正の再抗弁)。


 ところで,特許権侵害訴訟において,特許無効審判手続による無効審決の確定を要せず,特許法104条の3第1項の抗弁(以下「無効主張」という。)をもって,特許権に基づく権利行使の制限を認めているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で,迅速に解決することを図ったものであると解される。


 そして,同条2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるとしている趣旨は,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される。


 このような同条2項の規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになるというべきである(最高裁平成20年4月24日第一小法廷判決・裁判所時報1458号153頁・民集62巻5号登載予定参照)。


 もっとも,本件においては,上記2回にわたる対抗主張が撤回された後,新たに具体的な対抗主張がされたわけではないので,それが時機に後れた攻撃防御方法として却下することができるか否か問題となるのではなく,そのような対抗主張をさせるために口頭弁論期日を続行すべきか否かの訴訟指揮の在り方が問題とされているものである。


(4) 本件訴訟の前記経過によれば,原告は,被告の無効主張を受けて,第1次訂正審判請求をし,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をし,被告もこれに対して具体的な反論をするなどの審理が進められたが,同審判請求に対し特許庁から訂正拒絶理由通知を受けたため,同審判請求を取り下げるとともに,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をいずれも撤回した。原告は,さらに,第2次訂正審判請求をするとともに,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をし,被告もこれに具体的に反論するなどの審理が進められたが,特許庁から同審判請求が成り立たない旨の審決がされたことから,原告は,平成20年7月14日の第9回口頭弁論期日において,同審判請求を取り下げる予定であると述べるとともに,同審判請求が認められることを前提とした対抗主張をすべて撤回したものである。


 そして,同期日において,原告は,今後行うべき訂正審判請求の具体的内容を明らかにせず,したがって,本件訴訟において審理の対象となるべき上記審判請求に対応する訂正主張が,訂正要件を満たし,同訂正が認められれば本件特許の無効理由が解消し,かつ,訂正後の特許請求の範囲によっても,被告方法が本件特許発明の技術的範囲に属するなど,同審判請求に対応する対抗主張の具体的内容を明らかにしなかったものである。


 このように,原告は,2度にわたり訂正審判請求を行い,その都度,当裁判所は,原告の対抗主張を許容し,被告に対して原告の対抗主張に対する反論を行うよう促し,被告もこれに応じて詳細な反論をし,議論が尽くされてきたものであって,当裁判所としては,第9回口頭弁論期日において被告から予定されていた反論(原クレームに係る対抗主張に対する反論)がなされれば,双方の主張立証は尽くされ,第2次訂正審判請求に係る対抗主張の成否を含め,本件について判決をするのに熟するとの心証を得ていたものである。


 上記のとおり,被告は,2度にわたる原告の対抗主張に対してその都度具体的な反論を行っていたものであり,原告が上記期日に至って第2次訂正審判請求に基づく対抗主張をすべて撤回した上,さらに口頭弁論期日を続行して,続行期日以降に新たな対抗主張をすることを許すことは,本件訴訟の審理を不当に遅延させるものになるとともに,被告に過度の応訴負担を負わせるものというべきである。


 上記のとおり,第9回口頭弁論期日の段階では,原告が第2次訂正審判請求が成り立たない旨の審決を受けて間がなかったことから,未だ原告が意図する訂正審判請求及びこれに対応する対抗主張の具体的内容が明らかではなかった上,上記審決の主たる理由が,本件分割出願自体が改正前44条1項に規定する適法な分割出願とはいうことはできないということにあり(甲81,)この判断には首肯すべきところがあることに照らすと,今後予想される原告による訂正審判請求(第3次訂正審判請求等)が容易に認められるとはいい難い状況にあるといわざるを得ない。


 以上の事情にかんがみれば,当裁判所としては,上記口頭弁論期日をもって,本件について判決するのに熟したものと判断し,さらに口頭弁論期日を続行することなく弁論を終結する措置を執った次第である。 』


 と判示されました。


 なお、9/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080901)で取上げた『平成20(ネ)10019 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟不定形耐火物の吹付け施工方法」平成20年08月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080829152128.pdf)では、付言の「事実審の最終口頭弁論終結後の訂正審判請求について」にて、『平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件「ナイフの加工装置」平成20年04月24日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080424152947.pdf)を引用しましたが、本件は、当該最高裁判例を引用する2件目の事件になるかと思います。



 詳細は、本判決文を参照してください。