●平成12(行ケ)446 特許権 行政訴訟「積層包装材料の製造方法」

 本日は、『平成12(行ケ)446  特許権 行政訴訟「積層包装材料の製造方法」平成14年12月25日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/8D4DEB6BC87827AB49256CE0001970CB.pdf)について取上げます。


 本件は、本件特許につき特許異議の申立てがされ、原告が訂正の請求をしたものの、本件特許が取消された取消し決定の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認められた事案です。


 本件では、進歩性を否定する際に引用した引用文献における開示範囲について、当業者の技術常識を参酌して判断した点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、東京高裁(第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美、裁判官 岡本岳、裁判官 長沢幸男)は、


1 取消事由1(訂正発明1に係る一致点の認定の誤り)について

(1) 本件決定は,刊行物アには,層厚20〜100μmのヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成する積層包装材料の製造方法が記載されていると認定し(決定謄本6頁<訂正明細書の請求項1に係る発明について>第1段落),刊行物ア(甲3)には,「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設られる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」(3頁左上欄第3段落)との記載がある。


 原告は,本件決定の上記認定について,レトルト食品用包装材料においては,ヒートシール強度を確保するために,ヒートシール層厚を50μm以上にしなければならないという当業者の技術常識を無視するものであり,誤りであると主張する。


(2) そこで,原告の上記主張について判断する。


 ・・・省略・・・


(3) 以上の記載によれば,レトルト食品包装材料は,食品衛生法上,ヒートシール強度を2.3kgf/15mm以上有する必要があり,ヒートシール層の厚さが同じであれば,ドライラミネート法が押し出し法よりもヒートシール層のヒートシール強度が高く,ドライラミネート法では40μmの層厚で必要なヒートシール強度を確保し得るが,押し出し法では60μm程度の層厚がなければ必要なヒートシール強度を確保し得ないことが当業者の技術常識であり,また,レトルト食品包装材料におけるヒートシール層としては,厚さが50〜70μmのものが一般的に使用されてきたものと認められる。


(4) そして,刊行物発明は,レトルト食品用包装材料に関する発明であるから,上記技術常識に基づいて刊行物アの記載内容を検討する。


   ア 刊行物ア(甲3)には,「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設けられる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」(3頁左上欄第3段落)として,第1に,ヒートシール層はドライラミネート法又は押し出し法によって設けられること,第2に,ヒートシール層の厚さは20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmであること,という二つの事項が記載されている。


   イ ところで,当業者の上記技術常識によれば,レトルト食品包装材料においては,食品衛生法上,ヒートシール強度を所定値以上有する必要があるから,刊行物アにおいても,ヒートシール層の製造方法及びその厚さは,ヒートシール強度が上記所定値以上になることを前提として選択されるものである。


     また,上記技術常識によれば,ヒートシール層の厚さが同じであれば,ドライラミネート法が押し出し法よりもヒートシール層のヒートシール強度が高いのであるから,ヒートシール強度を所定値以上にするためには,ヒートシール層をドライラミネート法で製造する場合よりも,押し出し法で製造する場合の方が,その層を厚くする必要がある。


     さらに,上記技術常識によれば,レトルト食品用包装材料のヒートシール層の厚さは,ドライラミネート法による場合は40μm以上,押し出し法による場合は60μm程度でなければ,食品衛生法上要請される基準,すなわち,2.3kgf/15mm以上のヒートシール強度が満たせないものであるから,上記のように,刊行物アに,ヒートシール層の厚さは20〜100μmの範囲であればよいと記載されていても,この記載に接した当業者は,食品衛生法上要請される基準を満たすため,好ましいと記載されている40〜80μmの層厚を有することが必要であると理解する。


  仮に,刊行物アにおいて,ドライラミネート法による場合には,ヒートシール層の厚さが20μm以上あれば必要なヒートシール強度を満たすものであるとしても,上記のように,押し出し法による場合には,ドライラミネート法による場合よりもヒートシール層の厚さを厚くする必要があるから,「包材構成100問100答」(甲11)の左グラフ(83頁)によれば,ドライラミネート法により必要なヒートシール強度を満たすためには,ヒートシール層の厚さが20μm以上必要であるならば,押し出し法による場合には,その厚さは20μm程度では足りず,少なくとも30μmを超える厚さが必要であると認められる。


  (5) 以上のとおり,刊行物アに「ヒートシール層は通常ドライラミネート法あるいは押出し法によって設けられる。厚さとしては20〜100μmの範囲であればよく,好ましくは40〜80μmである」と記載されているけれども,上記技術常識を知る当業者が刊行物アの上記の記載に接した場合には,食品衛生法の基準により,押し出し法によって設けたヒートシール層の厚さを40〜80μmの範囲とする技術事項に想到することが自然であり,これを20〜30μmの範囲とする技術事項に想到することは,当業者にとって容易にし得ることではない。


  そうすると,刊行物発明が,押し出しコーティングにより層厚20〜30μmのヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成するものであるとした本件決定の認定は誤りであって,訂正発明1と刊行物発明が「樹脂フィルム基材,酸化ケイ素層及びヒートシール性熱可塑性樹脂層が順次積層された積層包装材料の製造方法において,前記酸化ケイ素層上にヒートシール性熱可塑性樹脂を押し出しコーティングすることにより,20〜30μmの層厚のヒートシール性熱可塑性樹脂層を形成することからなる積層包装材料の製造方法」である点において一致するとした本件決定の認定も誤りに帰する。


 (6) 被告は,刊行物アの,ヒートシール層の厚さが20〜100μmの範囲であればよいとの記載,ヒートシール層は通常ドライラミネート法又は押し出し法によって設けられるとの記載から,層厚が20〜100μmの範囲のヒートシール層をドライラミネート法又は押し出し法によって形成することは,刊行物アに記載されており,本件決定の認定に誤りはない旨主張する。


 しかしながら,刊行物アの上記記載が,形式的には被告主張のようなものであるとしても,上記のとおり,この記載に接する当業者は,食品衛生法上の制約に係る上記技術常識を有するから,押し出し法によって設けたヒートシール層の厚さを20〜30μmとすることを実質的には開示していないというべきであって,被告の主張は採用することができない。


 2 以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由1は理由があり,この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取消事由2について判断するまでもなく,本件決定は取消しを免れない。


 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。